●ポインセチア●



街中にジングルベルが鳴り響く昼下がり、NYのさゆりさんから何やらどデカい荷物が届いた。

「何だぁ……コレ?」
「さぁ……?」



互いに首を傾げつつ、香がガサゴソとピッチリ閉じられた封を開ければ。
中から現れたのは実に見事な、赤と白の対のポインセチア。
クリスマスらしく、それぞれの鉢の中央には、トナカイの引く橇に乗ったサンタクロースの刻印が施され。
そしてそのぐるりには、柊をイメージした緑のモールがキラキラと美しく結わえられていた。



「わぁ~……素敵vこういう細かな演出をするあたり、さすがはNYよね~」
その大きな鉢を取り出してうっとりと眺める香に、「手紙が入ってたぜ」と、添えられていた真っ白な封筒を渡す。
ぱらりと広げた封筒と同じ真っ白な便箋には、雪の結晶の透かし模様が入っていて。
そしてさゆりさんの几帳面な性格らしい、美ししく整った文字が並んでいた。
それにざっと目を走らせた香が、「あぁ、やっぱりね」と、納得顔で頷く。
「んぁ……?何がぁ?」
「うん…こないだね、さゆりさんのお誕生日だったの。
それでちょっとした贈り物をしたんだけど、このポインセチアはそのお返しですって」

「ふ~ん……」



互いに姉妹だと名乗り合いはしないが、それでもいつの間にか、コトの真相を察しているらしい香。
そしてさゆりさんがNYに行ってからも手紙のやり取りが続き、
今では季節ごとに何がしかの手紙やカードを送り合っているらしかった。

「…いい?読むわよ?」
…と、チラと視線をよこして、そして真っ白な便箋にそれを落とし、静かに読み出した。



香さん、お元気ですか。
こちらは早くも氷点下続きの毎日で、コートにマフラー、手袋に毛糸の帽子が手放せません。
近くの川には氷が張って、子供たちが楽しそうにスケートをしたりする姿がよく見られます。
川でスケートなんて、日本じゃ考えられないでしょぅ?
私もこちらに来て初めて見た時はビックリしたけど、でもこちらじゃこんなコト、何てことは無い冬の光景なんですって。



そう、先日は、お誕生日の贈り物をありがとう。とっても嬉しかったわ。

こちらでも健康ブームのせいか、たいていの日本食材は手に入るのだけど。
でもどうしても、日本で食べてるのとは違う気がするのよね。
細かな種類が無くて、通り一遍等なの。
だからコレという好みのものを見つけるのが、結構大変なのよ。
だからそんな時、香さんがこんなに色々と送ってくれたので、すごく助かりました。ありがとう。
特にお味噌は、絶品。
コレ、あの角のお味噌屋さんのでしょう?やっぱりあそこのお味噌が一番かしらね。
日本で過ごした日々を思い出し、とても懐かしく、美味しくいただきました。本当にありがとう。



それで、お礼といっては何なんだけど…私からのほんの気持ちとして、お花を贈りました。

冴羽さんと想いが通じ……




「……あ……////」
「……何だよ、続きは?」
「え…?あぁ、うん。えっとぉ……/////」
「何だよ、ハッキリ読めよ」
「う、うん……あのね、えっとぉ……“冴羽さんと想いが通じ合って、初めてのクリスマスですね。
どうぞ素敵なイヴを。そしてお幸せに”……って//////」

「…………」



言葉尻を濁して頬を真っ赤に染めた香が、ズイと差し出した手紙に視線を走らせれば、
一言一句間違い無く、香が口にしたその通りの言葉が並べられていて。

その最後は、
“そしていつの日か、喧嘩もしつつ素敵な恋人同士になった二人にお会い出来る日を楽しみに。
Merry X‘mas And A Happy New Year !!“

と、結ばれていた。




「……さゆりさんに言ったのか?その……俺たちのコト……」
「あ…うん。手紙の最後に、ほんのちょこっとだけ……/////」
「……ったく、おしゃべりなオンナ」
そう口にはするものの、互いに名乗らずとも姉であるさゆりさんにこうして近況を報告できるコトは、
香にとってはひどく嬉しいコトなのだろう。

それにしても、香はいったいどんな顔をしながら手紙を書いたのか。
人一倍照れ屋な香のコト、きっと顔を真っ赤に染めながら、頭から湯気を上らせながら。
それでいて、きっと幸せそうに微笑みながら一字一字を綴ったのだろうと、くすりと笑みがこぼれる。



槇村を亡くした今、唯一血のつながりのある肉親であるさゆりさんの存在が、
彼女の中でどれだけ心強い存在になっているのかを思って。

名乗らずとも、こうして手紙のやり取りなどが出来る関係を築けてよかったなと思う反面、
香の中で俺とさゆりさんとどっちの比重が重いのか…などと、少しばかりの嫉妬を覚える自分に苦笑する。
何考えてるんだか、俺は……これじゃぁバカな女が、
“私と仕事とどっちが大事なの?!”って言ってるようなモンじゃねぇか。

自分のあまりにバカな考えに、思わず眉間に皺がよった。



「あ……ご、ごめん……」
その表情と照れ隠しに呟いた俺の言葉を勘違いしたのか、気まずそうに俯く香。
あぁ…また俺はとんちんかんなコトを言って、コイツを悩ませちまった。
あれだけガラにも無い言葉で想いを告げ、互いに唯一無二のものと確信しあったくせに。
いつまでたっても素直になりきれない俺は、ほんの些細なコトで、毎日数え切れないほど香を傷つけている。
「いや、そのぉ……なんだ。別に怒ってるってワケじゃ……//////」
「……え……?」
見上げた視線に、大きな瞳に、ぱぁっと喜びの色が走る。
そして互いにしばし見つめ合って、その視線の近さに戸惑って。
また、互いに視線をそらした。



「あ~……それにしても、何だな。ポインセチアとは……ね」
「……え?」
未だ頬を赤く染めたままの香に,、軽く微笑んで。
一見花びらかと見紛う剣のように鋭い苞の先を指で突きながら、ニヤリと笑った。




「ポインセチアってさ、今じゃすっかり、クリスマスってイメージだけど。ホントはメキシコが原産なんだぜ?」
「…え?そうなの?メキシコって、あの、コーヒーとかサボテンとかの?」
突然の話題転換に戸惑いつつも、香は興味津々と、大きな瞳をキョトンと輝かせる。
その可愛らしい知識範囲に苦笑しながら、俺は話を続けた。



「そうなの。で、この茎から抽出する樹液には解毒作用があってさ。
俺たちの部隊にはあの腕のいい教授がいたおかげで、そんなモノの世話になったコトは無かったが、
貧しくて薬も買えないヤツらなんかは、この樹液で毒を中和させてたらしいぜ?

近くの村人たちなんかにとってこのポインセチアの樹液は、水と食料と同じくらいの価値を持っていたみたいだな」
「へぇ~……そうなんだぁ。…で?それとさゆりさんがポインセチアを送って来たコトと、どういう関係があるの?」
軽く唇を突き出しながら小首をかしげる、その子供らしい表情に思わず苦笑して、ニヤリ…と意味深な笑みを浮かべた。



「それはもうひとつの、別の意味の方。ポインセチアの花言葉……さ」
「……花言葉?」
「そう。ポインセチアの花言葉は、赤いのも白いのも、ともに“あなたを祝う”だの“祝福”だのという意味があるんだ。
だから文面は素っ気無さそうに装って、その実、さゆりさんの本当の気持ちは、このポインセチアに込められてる……ってコト」
「…………///////」



一流新聞の編集長なんかをしてるほど文才のあるさゆりさんが、
仮にもたった一人の肉親である大事な妹の恋の成就を、こんなにアッサリとした文面で終わらせるはずが無い。

だからあえて手紙の文面は簡略に、そしてこのポインセチアに言葉以上の想いを込めて……といったところだろう。
……あの人らしい、な……



「そういえば昔、お前のコト、責任取ってくれるのかどうか…って迫ってきたな、さゆりさん…」
「え……?/////」
あの剣幕は香にそっくり……いや、それ以上だったか。
やはり姉妹は似るもんだと、しみじみ感じたコトを思い出す。
「責任……なんて言葉でいいのかどうかはわからないが……
それでも俺は、お前を一生傍に置いて共に生きていこうと決めた。その思いに、嘘は無いさ」

「……リョ……/////」



潤んだ熱っぽい瞳で見つめてくる香を、そっと抱き寄せる。
一生手に入ることは無いだろうと諦めていたその存在を胸に、こんな穏やかな気持ちになれたコトに。
そんな気持ちにさせてくれた香に言いようの無い熱い想いが胸を打ち、滑らかな頬に手を当て、上を向かせた。
「………香………」
「……リョウ……/////」
互いに言葉は無く、ただ相手の名前を呼ぶだけで。
その視線の先に、相手の瞳の中に自分の存在が映っているだけで。
ただそれだけのコトで、人ってのはひどく安心するものなんだなと思った。
そうすれば、互いが何を欲し何を望んでいるのかなど、手に取るようにわかるんだ。
熱い視線を合わせ、額が触れ合うほどに顔を寄せ。
そして互いの瞳が自分の姿でいっぱいになったところで、そっと目を閉じた。



「……さっきの言葉が、さゆりさんの望む答えになってるのかどうかは疑問だが……
まぁそんなところで、許してもらうか」

「……ふふっ……//////」
頬も耳の先も真っ赤に染めた香が、恥ずかしそうに、楽しそうに笑う声が胸元に響いた。



今度会った時……か。まったく、お手柔らかに頼みたいもんだぜ。
それがいつになるのかは全くわからないが、それでもその時、彼女はきっととびきりの笑顔で俺たち二人を包み。
そして「約束、守ってくれたんですね」と、意味深な笑みを向けて来るのだろう。
そしてその横で、香は頬を赤く染めて、恥ずかしそうに嬉しそうに微笑むのだろう。



そんな近い未来に思いを馳せつつ、そんな幸せな未来を考えることが出来るようになった自分に驚く。
そして、そんな変化も悪くは無いな…と、さゆりさんからの祝福の証であるポインセチアに微笑んで。
そして改めて、胸の中のかけがえのない存在を強く抱きしめた。




END    2005.12.23