●PRESENT FOR YOU●



「年に一度のクリスマス。
我こそは寒さに負けないラブラブ・熱々カップルだと思う方、お申し込み受付中。
新宿イチの熱々カップルになって、常夏の島・ハワイへ行こう……?」



軽やかなジングルベルのメロディと、華やかなイルミネーションの煌めく街の中。
新宿駅東口の大画面に突如として現れた参加申し込み広告を、しげしげと眺める。
「寒さに負けない、熱々カップル……か……」
あの湖畔で泣けるほど嬉しい言葉を貰ったくせに、それ以降も何ら変わりの無い日々の私たち。
心が躍って……天にも昇るほどの嬉しさだったのに。
それなのに、いつの間にかそれ以上のものを求めてしまっている自分がいる。



街を歩く普通の恋人同士のように手を繋ぎ、指を絡ませ合って。
頬がくっつくくらいの距離で見詰め合って、それで……。
「…………」
でもそれは、致し方の無いコト。
私たちは、何時(いつ)命を狙われてもおかしくない、裏の世界の人間なんだもの。
「そんなコト、してられないよ……」
心ではわかっているくせに、想いがついて行かなくて。
自分でも情けないくらいの、切なげなため息がこぼれた。



「あ……ら、香ちゃん……?」
そんな物思いに耽っていた時、ポンと肩を叩かれて振り向けば。
緩い縦ロールがきれいに決まり、クリスマスらしくラメの入った真っ赤な口紅を
濡れ濡れと輝かせたドラクロアのママが、ニッコリと笑っていた。



「あ……ママ、こんにちは」
「こんなトコロで、どうしたの?あぁ、いつもの伝言板チェックね。
その様子だと、また依頼は無かったのかしら……?」
気がつけば、交差点の目の前で。
ママの話によれば、私は青信号を3つばかり、やり過ごしていたらしい。
ホントはリョウと普通の恋人同士のようなクリスマスを過ごしたいと思ってた……なんてコト、言えるはずも無くて。
今日も仕事が無くて途方に暮れていた……そう解釈してもらって、返ってホッとした。
「う…うん、そうなのよ。この年の瀬に、イヤになちゃうわね、あはは……」
「…………」



笑ってごまかすものの、ママは探るような目でじっと私を見据える。
そしてふいに周囲をキョロキョロと見回して、「あぁ……」と納得したような笑みを浮かべた。
「そうよねー香ちゃんとリョウちゃん、互いに思いが通じ合って、初めてのクリスマスですものね。
何かこう、いつもとは違う、素敵なモノにしたい……そう思うわよねーv」
「…えっ?い、いや、そんなコト私、べっ、別に……っ/////」
「ん~照れない照れない、わかってるってv」
「~~~っっっ/////」



誰も何も言って無いのに、リョウが私に思いを告げたというウワサは口の端によりこっそりと伝わって。
そしていつの間にか、歌舞伎町一同の暗黙の了解というコトになっていた。
リョウとのクリスマスだなんて、何ひとつ口にしてないのに。
歌舞伎町随一の、リョウが最も信頼を置くママには、何もかもお見通しみたい。
私って、そんなに顔に出るのかしら………//////
その後、色々とからかわれつつもママの仕事の時間になり、何とか上手く逃げるコトが出来た。
もっともあの調子じゃ、コチラから切り出さなければ、お店も放っておいて話し続けていたかもしれないわね。
でもその時、ママの瞳の端があやしく煌めいていたのに、私は全く気がつかなかったの。



アパートに帰って、いつもと変らずソファでゴロゴロするリョウに文句をこぼして、夕食の支度に取り掛かる。
相変わらずピーピーな財政難の我が冴羽商事だから、クリスマスといっても、たいしたコトは出来ない。
でもせめて、ほんのちょっぴりのクリスマス気分を……と、
チキンをローストして、いつもよりちょっぴり手の込んだおつまみを用意して。
昨日焼き上げておいた、二人で食べ切れるくらいのスポンジにタップリの生クリームをデコレーションして。
可愛らしいサンタと、トナカイとを飾ったの。



プレゼントなんて形に残るモノは、何にしたらいいかわからないし、
改まった感じがして、何だか照れくさい。
だからせめて、今日この日を二人で過ごしたい……。
そう思って、「何気取ってんだよ」と、リョウにからかわれない程度に、
私らしい、せめてもの“クリスマス”を造り上げたの。



それなのに……それなのに、よっ?!
ちょっと奮発したシャンパンも良く冷えて、後は焼き上がったチキンにリボンを結び付けるだけ……という時になって。
リョウは「タバコ買って来る」と言って、それきり戻らない。
チキンも出来上がり、香ばしく焼けた皮がパリパリと美味しそうなのに。
それなのに……どんどん冷えてちゃうじゃないっ!!



「わかっちゃいたんだけどね……」
はぁぁぁ~……と誰もいないリビングに、何ともいえない深いため息がこだまする。
糸の切れた凧のように、ドコへ飛んでいくのかわからないリョウの心。
ふわりと近づいてきたのかと思えばついと離れていくそれを、
どれほど自分手に引き寄せ、自分ひとりのものにしたいと望んだことか。
そしてようやく、欲しくて欲しくてたまらなかったそれを、あの湖畔で手に入れたと思ったのに。
それなのに……。



「結局リョウは、リョウなのよ……ね」
傍にいるだけで幸せだと、それで満足していたクセに。
どんどん欲深くなっていく自分に、そっとため息。
「クリスマスに好きな人と過ごしたい……そう思うのは、恋する女の子なら、普通のコトよ」
ドラクロアのママは、そう言ってくれたけど。
でも、こと恋愛というものに弱い私には、ホントにそうなのかどうか、判別するコトすら出来なくて。
「やっぱり欲張りなのかな、私って……」
と、またため息をこぼした。



窓辺に飾った、100円ショップで買った、小さなクリスマスツリー。
乾電池を入れただけの簡単な造りなのに、お値段の割にはイルミネーションが色鮮やかに煌めいて。
何よりその小ささが、あまり派手なコトを好まない私の性格にピッタリで、
一目惚れして、買ってしまった。
てっぺんに金色の星を掲げ、赤や青や黄色の電球がカチカチと点滅するのが、
外気との差で曇った窓ガラスに淡い色を映し出す。



それをシャツの袖口でクイと拭えば、窓の外にはクリスマスらしい、華やかなイルミネーション。
たくさんの小さな電球を灯した街路樹の下を、恋人たちが楽しそうに腕を組んで歩いて行くのが見える。
この冬一番の冷え込みだという外気さえも、
彼らには互いのぬくもりを感じるための、アクセントにしかならないのだろう。
寒さなどこれっぽっちも感じない、楽しそうな……幸せそうな笑顔。



「それにくらべて、私ったら……」
日々苦しい財政難とはいえ、そこそこ暖房を効かせているリビング。
それなのに……この身体の底から沁み渡るような寒さは何なのだろう……。
飲みかけのコーヒーを窓辺に置いて、眼下の恋人たちを何とは無しに眺める。
誰もが心躍り、笑顔あふれるクリスマス。
それなのに私はココで一人、何をしているのかしら……。
そんな寂寥感に包まれて、ほぅと力無いため息がこぼれた。



トゥルルルル…トゥルルルル…
静かなリビングに、けたたましいほどの電話のベルが鳴り響く。
いつの間にか眠り込んでいた私は、耳を劈くようなその音から耳を庇うようにと、
肩から掛けていたストールを頭からすっぽりと被って暖を取った。
「……はい、冴羽商事です……」
うたた寝をしていて身体が冷えたのか、上手く口が回らない。
掠れたような……舌足らずの小さな声が出た。



「あ、もしもし、香ちゃん?」
「あ、ママ……どうしたの?」
お店からなのだろうか、にぎやかなクリスマスのメロディにあわせ、
お客さんや女の子たち(戸籍上は未だ男性なんだけど☆)の歓声が聞える中。
それに負けじと、ドラクロアのママの、野太い声が割って入る。
「寒そうな声……一人ぽっちで淋しかったのね、香ちゃん」
「…………/////」
もう…ママったら、あれだけの短いやり取りの中で、
どうしてこうも私の心の内を見抜いちゃうのかしら。
そんな気恥ずかしさに思わず背筋を伸ばして、明るく元気な声を出す。



「やだ、ママったら、何言ってるんですか。私はいつだって、元気ですよ~だっ♪
リョウのバカがいなくて、一人で楽しく……」
……そういえば、ママはどうしてリョウが留守で私が一人だって、知ってるのかしら???
「……香ちゃん?無理しなくていいのよ」
「……え?」
ふふ……っと、野太いオカマさんの声にしては可愛らしい笑みをこぼして。
ママは小さな子に教え諭すように、ゆっくりと語りだした。



「あのね、香ちゃん。香ちゃんがいつも一生懸命にしてるから、
サンタさんから素敵なプレゼントが贈られるコトになったのよ。
ちょっと大きくて邪魔になるかもしれないんだけど……受け取ってくれるかしら?」
「プレゼント……私に、ですか?」
「そう。ちょっと重くて大変だったから、馬鹿力で有名なホノルルの新人と、
HEVENの用心棒に入ったマッチョなお兄さんとに、お宅の玄関まで運ばせたの。
多分、そろそろ着く頃……かな。
つまらないものだけど、私たち、歌舞伎町みんなの気持ちなの。
申し訳ないけど、受け取ってくれるかしら…?」



「え……えぇ。そんなに気を遣ってくれて……ありがとうございます」
ママの勢いに押し切られるように、思わず電話越しにぺこりと頭を下げた時。
ピンポ―――ン……
と、玄関のチャイムが鳴った。
耳聡いママはそれを聞き逃すことは無く。
「あ、着いたようね。じゃぁ香ちゃん?素敵なクリスマスを、ねv」
そう言うが早いが、コチラの返事を待たずに電話を切ってしまった。
「………?」
謎を含んだママの言葉に首をかしげていると、再びチャイムがなったので、
「はーい」と大きく返事をして、慌てて玄関に向かった。



「………うっす………」
扉を開ければ、フン……とそっぽを向いて、ふてくされたようなリョウが立っていた。
わざと目を合わせないようにしているその姿を、よく見れば。、
鋼のように鍛えられた逞しいその身体には、幅広の真っ赤なリボンがグルグルと巻きつけられていて。
そしてその襟元には、大きな蝶々結びに仕立てられていた。



「ど……どうしたの、そのカッコ???」
「……ねこまんまで飲んでたら、ドラクロアのママが乗り込んで来て。
何だかんだとわめきながら、人のコト、ヤローどもと一緒になって羽交い絞めにしやがって。
それで気がついたら……ンなカッコさせられてた……」
「させられた、って……」
「クリスマスはお前と過ごせ……ってさ、うるせーんだよ」



横を向いままのその頬が、ほんのりと赤く染まって。
唇を突き出したその表情が、何だか妙に子供っぽくて。
リョウの力をして抗えば、こんなカッコさせられる前に逃げ出せただろうに。
それをしないで、こうしてこのまま、素直にされるがままに運ばれて来たリョウの想いが嬉しくて。
リョウに負けず劣らず、自分の頬が赤く染まるのを感じた。



「…………//////」
「…………//////」



気まずい雰囲気の中、巻かれたリボンの胸元あたりに、一枚のカードが差し込まれているのを見つけた。



メリークリスマス、香ちゃん。
誰が何と言おうと、あなたとリョウちゃんは最高に素敵なカップルよ。
この聖き夜、最愛の人と素敵な夜をね……v  



あの時、新宿駅前の大画面の前で私の心を見透かしたようなママの瞳が甦る。
私の気持ちに気づいて、私が何に悩んでいるのかを察知して。
そしていつものように歌舞伎町を彷徨うリョウを捕まえて、
クリスマスのプレゼントとして送り届けてくれた……。



「もう……ママったら、こんなに手の込んだコトして/////」
私が何よりも望んでいた、リョウと二人きりで過ごすクリスマス……。
それを叶えるためにココまでしてくれたママの……
歌舞伎町のみんなの心遣いが嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。
そんな私の頭の上に、リョウのぶっきら棒な声が降りかかった。



「……ったく、しょうも無いコトしやがるヤツらだな。未だメシだって、ロクに食ってねぇのに……」
「ご飯……出来てるよ」
この日のためにと、頑張って用意したクリスマスのディナー。
ふいに食べてくれる人を無くして、放って置かれたままのそれらは、
今も未だ、キッチンのテーブルの上で主の訪れを、今か今かと待ち侘びている。
「じゃぁ……メシ、頼むわ」
「う、うん……っ/////」



夢にまで見たリョウと二人きりのクリスマスがふいに舞い込んで有頂天になっていた私は、
慌ててお料理を温めなおそうとキッチンに向かおうとする。
その背中を「おい……」と、リョが呼び止めた。
「……なぁに?」
振り返った私に、これまたそっぽを向いてほんのりと頬を染めたリョウが、ポツリと呟いた。
「その前に……コレ、解いてくんねぇ……?」
そう言ってそっぽを向いたまま、大きな蝶々結びのついた襟元をクイと突き出した。



素人が結んだそんなリボン、力を入れれば引き千切れるはずなのに。
あえてそれをしないで、私に解けと言ってくる。
いつもは上手なはずのポーカーフェイスがどこか緩んでいるように見えるのは、私の気のせい……?
その駄々っ子のような表情が、何とも言えず可愛くて。
どうしても言葉にしてくれないその想いが、何だかくすぐったくて。
これから始まるリョウと二人きりのクリスマスが、まるで夢のようで。
涙で揺らいだリボンの端を、しゅるりと解いた。




END    2005.12.23●PRESENT FOR YOU●



「年に一度のクリスマス。
我こそは寒さに負けないラブラブ・熱々カップルだと思う方、お申し込み受付中。
新宿イチの熱々カップルになって、常夏の島・ハワイへ行こう……?」



軽やかなジングルベルのメロディと、華やかなイルミネーションの煌めく街の中。
新宿駅東口の大画面に突如として現れた参加申し込み広告を、しげしげと眺める。
「寒さに負けない、熱々カップル……か……」
あの湖畔で泣けるほど嬉しい言葉を貰ったくせに、それ以降も何ら変わりの無い日々の私たち。
心が躍って……天にも昇るほどの嬉しさだったのに。
それなのに、いつの間にかそれ以上のものを求めてしまっている自分がいる。



街を歩く普通の恋人同士のように手を繋ぎ、指を絡ませ合って。
頬がくっつくくらいの距離で見詰め合って、それで……。
「…………」
でもそれは、致し方の無いコト。
私たちは、何時(いつ)命を狙われてもおかしくない、裏の世界の人間なんだもの。
「そんなコト、してられないよ……」
心ではわかっているくせに、想いがついて行かなくて。
自分でも情けないくらいの、切なげなため息がこぼれた。



「あ……ら、香ちゃん……?」
そんな物思いに耽っていた時、ポンと肩を叩かれて振り向けば。
緩い縦ロールがきれいに決まり、クリスマスらしくラメの入った真っ赤な口紅を
濡れ濡れと輝かせたドラクロアのママが、ニッコリと笑っていた。



「あ……ママ、こんにちは」
「こんなトコロで、どうしたの?あぁ、いつもの伝言板チェックね。
その様子だと、また依頼は無かったのかしら……?」
気がつけば、交差点の目の前で。
ママの話によれば、私は青信号を3つばかり、やり過ごしていたらしい。
ホントはリョウと普通の恋人同士のようなクリスマスを過ごしたいと思ってた……なんてコト、言えるはずも無くて。
今日も仕事が無くて途方に暮れていた……そう解釈してもらって、返ってホッとした。
「う…うん、そうなのよ。この年の瀬に、イヤになちゃうわね、あはは……」
「…………」



笑ってごまかすものの、ママは探るような目でじっと私を見据える。
そしてふいに周囲をキョロキョロと見回して、「あぁ……」と納得したような笑みを浮かべた。
「そうよねー香ちゃんとリョウちゃん、互いに思いが通じ合って、初めてのクリスマスですものね。
何かこう、いつもとは違う、素敵なモノにしたい……そう思うわよねーv」
「…えっ?い、いや、そんなコト私、べっ、別に……っ/////」
「ん~照れない照れない、わかってるってv」
「~~~っっっ/////」



誰も何も言って無いのに、リョウが私に思いを告げたというウワサは口の端によりこっそりと伝わって。
そしていつの間にか、歌舞伎町一同の暗黙の了解というコトになっていた。
リョウとのクリスマスだなんて、何ひとつ口にしてないのに。
歌舞伎町随一の、リョウが最も信頼を置くママには、何もかもお見通しみたい。
私って、そんなに顔に出るのかしら………//////
その後、色々とからかわれつつもママの仕事の時間になり、何とか上手く逃げるコトが出来た。
もっともあの調子じゃ、コチラから切り出さなければ、お店も放っておいて話し続けていたかもしれないわね。
でもその時、ママの瞳の端があやしく煌めいていたのに、私は全く気がつかなかったの。



アパートに帰って、いつもと変らずソファでゴロゴロするリョウに文句をこぼして、夕食の支度に取り掛かる。
相変わらずピーピーな財政難の我が冴羽商事だから、クリスマスといっても、たいしたコトは出来ない。
でもせめて、ほんのちょっぴりのクリスマス気分を……と、
チキンをローストして、いつもよりちょっぴり手の込んだおつまみを用意して。
昨日焼き上げておいた、二人で食べ切れるくらいのスポンジにタップリの生クリームをデコレーションして。
可愛らしいサンタと、トナカイとを飾ったの。



プレゼントなんて形に残るモノは、何にしたらいいかわからないし、
改まった感じがして、何だか照れくさい。
だからせめて、今日この日を二人で過ごしたい……。
そう思って、「何気取ってんだよ」と、リョウにからかわれない程度に、
私らしい、せめてもの“クリスマス”を造り上げたの。



それなのに……それなのに、よっ?!
ちょっと奮発したシャンパンも良く冷えて、後は焼き上がったチキンにリボンを結び付けるだけ……という時になって。
リョウは「タバコ買って来る」と言って、それきり戻らない。
チキンも出来上がり、香ばしく焼けた皮がパリパリと美味しそうなのに。
それなのに……どんどん冷えてちゃうじゃないっ!!



「わかっちゃいたんだけどね……」
はぁぁぁ~……と誰もいないリビングに、何ともいえない深いため息がこだまする。
糸の切れた凧のように、ドコへ飛んでいくのかわからないリョウの心。
ふわりと近づいてきたのかと思えばついと離れていくそれを、
どれほど自分手に引き寄せ、自分ひとりのものにしたいと望んだことか。
そしてようやく、欲しくて欲しくてたまらなかったそれを、あの湖畔で手に入れたと思ったのに。
それなのに……。



「結局リョウは、リョウなのよ……ね」
傍にいるだけで幸せだと、それで満足していたクセに。
どんどん欲深くなっていく自分に、そっとため息。
「クリスマスに好きな人と過ごしたい……そう思うのは、恋する女の子なら、普通のコトよ」
ドラクロアのママは、そう言ってくれたけど。
でも、こと恋愛というものに弱い私には、ホントにそうなのかどうか、判別するコトすら出来なくて。
「やっぱり欲張りなのかな、私って……」
と、またため息をこぼした。



窓辺に飾った、100円ショップで買った、小さなクリスマスツリー。
乾電池を入れただけの簡単な造りなのに、お値段の割にはイルミネーションが色鮮やかに煌めいて。
何よりその小ささが、あまり派手なコトを好まない私の性格にピッタリで、
一目惚れして、買ってしまった。
てっぺんに金色の星を掲げ、赤や青や黄色の電球がカチカチと点滅するのが、
外気との差で曇った窓ガラスに淡い色を映し出す。



それをシャツの袖口でクイと拭えば、窓の外にはクリスマスらしい、華やかなイルミネーション。
たくさんの小さな電球を灯した街路樹の下を、恋人たちが楽しそうに腕を組んで歩いて行くのが見える。
この冬一番の冷え込みだという外気さえも、
彼らには互いのぬくもりを感じるための、アクセントにしかならないのだろう。
寒さなどこれっぽっちも感じない、楽しそうな……幸せそうな笑顔。



「それにくらべて、私ったら……」
日々苦しい財政難とはいえ、そこそこ暖房を効かせているリビング。
それなのに……この身体の底から沁み渡るような寒さは何なのだろう……。
飲みかけのコーヒーを窓辺に置いて、眼下の恋人たちを何とは無しに眺める。
誰もが心躍り、笑顔あふれるクリスマス。
それなのに私はココで一人、何をしているのかしら……。
そんな寂寥感に包まれて、ほぅと力無いため息がこぼれた。



トゥルルルル…トゥルルルル…
静かなリビングに、けたたましいほどの電話のベルが鳴り響く。
いつの間にか眠り込んでいた私は、耳を劈くようなその音から耳を庇うようにと、
肩から掛けていたストールを頭からすっぽりと被って暖を取った。
「……はい、冴羽商事です……」
うたた寝をしていて身体が冷えたのか、上手く口が回らない。
掠れたような……舌足らずの小さな声が出た。



「あ、もしもし、香ちゃん?」
「あ、ママ……どうしたの?」
お店からなのだろうか、にぎやかなクリスマスのメロディにあわせ、
お客さんや女の子たち(戸籍上は未だ男性なんだけど☆)の歓声が聞える中。
それに負けじと、ドラクロアのママの、野太い声が割って入る。
「寒そうな声……一人ぽっちで淋しかったのね、香ちゃん」
「…………/////」
もう…ママったら、あれだけの短いやり取りの中で、
どうしてこうも私の心の内を見抜いちゃうのかしら。
そんな気恥ずかしさに思わず背筋を伸ばして、明るく元気な声を出す。



「やだ、ママったら、何言ってるんですか。私はいつだって、元気ですよ~だっ♪
リョウのバカがいなくて、一人で楽しく……」
……そういえば、ママはどうしてリョウが留守で私が一人だって、知ってるのかしら???
「……香ちゃん?無理しなくていいのよ」
「……え?」
ふふ……っと、野太いオカマさんの声にしては可愛らしい笑みをこぼして。
ママは小さな子に教え諭すように、ゆっくりと語りだした。



「あのね、香ちゃん。香ちゃんがいつも一生懸命にしてるから、
サンタさんから素敵なプレゼントが贈られるコトになったのよ。
ちょっと大きくて邪魔になるかもしれないんだけど……受け取ってくれるかしら?」
「プレゼント……私に、ですか?」
「そう。ちょっと重くて大変だったから、馬鹿力で有名なホノルルの新人と、
HEVENの用心棒に入ったマッチョなお兄さんとに、お宅の玄関まで運ばせたの。
多分、そろそろ着く頃……かな。
つまらないものだけど、私たち、歌舞伎町みんなの気持ちなの。
申し訳ないけど、受け取ってくれるかしら…?」



「え……えぇ。そんなに気を遣ってくれて……ありがとうございます」
ママの勢いに押し切られるように、思わず電話越しにぺこりと頭を下げた時。
ピンポ―――ン……
と、玄関のチャイムが鳴った。
耳聡いママはそれを聞き逃すことは無く。
「あ、着いたようね。じゃぁ香ちゃん?素敵なクリスマスを、ねv」
そう言うが早いが、コチラの返事を待たずに電話を切ってしまった。
「………?」
謎を含んだママの言葉に首をかしげていると、再びチャイムがなったので、
「はーい」と大きく返事をして、慌てて玄関に向かった。



「………うっす………」
扉を開ければ、フン……とそっぽを向いて、ふてくされたようなリョウが立っていた。
わざと目を合わせないようにしているその姿を、よく見れば。、
鋼のように鍛えられた逞しいその身体には、幅広の真っ赤なリボンがグルグルと巻きつけられていて。
そしてその襟元には、大きな蝶々結びに仕立てられていた。



「ど……どうしたの、そのカッコ???」
「……ねこまんまで飲んでたら、ドラクロアのママが乗り込んで来て。
何だかんだとわめきながら、人のコト、ヤローどもと一緒になって羽交い絞めにしやがって。
それで気がついたら……ンなカッコさせられてた……」
「させられた、って……」
「クリスマスはお前と過ごせ……ってさ、うるせーんだよ」



横を向いままのその頬が、ほんのりと赤く染まって。
唇を突き出したその表情が、何だか妙に子供っぽくて。
リョウの力をして抗えば、こんなカッコさせられる前に逃げ出せただろうに。
それをしないで、こうしてこのまま、素直にされるがままに運ばれて来たリョウの想いが嬉しくて。
リョウに負けず劣らず、自分の頬が赤く染まるのを感じた。



「…………//////」
「…………//////」



気まずい雰囲気の中、巻かれたリボンの胸元あたりに、一枚のカードが差し込まれているのを見つけた。



メリークリスマス、香ちゃん。
誰が何と言おうと、あなたとリョウちゃんは最高に素敵なカップルよ。
この聖き夜、最愛の人と素敵な夜をね……v  



あの時、新宿駅前の大画面の前で私の心を見透かしたようなママの瞳が甦る。
私の気持ちに気づいて、私が何に悩んでいるのかを察知して。
そしていつものように歌舞伎町を彷徨うリョウを捕まえて、
クリスマスのプレゼントとして送り届けてくれた……。



「もう……ママったら、こんなに手の込んだコトして/////」
私が何よりも望んでいた、リョウと二人きりで過ごすクリスマス……。
それを叶えるためにココまでしてくれたママの……
歌舞伎町のみんなの心遣いが嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。
そんな私の頭の上に、リョウのぶっきら棒な声が降りかかった。



「……ったく、しょうも無いコトしやがるヤツらだな。未だメシだって、ロクに食ってねぇのに……」
「ご飯……出来てるよ」
この日のためにと、頑張って用意したクリスマスのディナー。
ふいに食べてくれる人を無くして、放って置かれたままのそれらは、
今も未だ、キッチンのテーブルの上で主の訪れを、今か今かと待ち侘びている。
「じゃぁ……メシ、頼むわ」
「う、うん……っ/////」



夢にまで見たリョウと二人きりのクリスマスがふいに舞い込んで有頂天になっていた私は、
慌ててお料理を温めなおそうとキッチンに向かおうとする。
その背中を「おい……」と、リョが呼び止めた。
「……なぁに?」
振り返った私に、これまたそっぽを向いてほんのりと頬を染めたリョウが、ポツリと呟いた。
「その前に……コレ、解いてくんねぇ……?」
そう言ってそっぽを向いたまま、大きな蝶々結びのついた襟元をクイと突き出した。



素人が結んだそんなリボン、力を入れれば引き千切れるはずなのに。
あえてそれをしないで、私に解けと言ってくる。
いつもは上手なはずのポーカーフェイスがどこか緩んでいるように見えるのは、私の気のせい……?
その駄々っ子のような表情が、何とも言えず可愛くて。
どうしても言葉にしてくれないその想いが、何だかくすぐったくて。
これから始まるリョウと二人きりのクリスマスが、まるで夢のようで。
涙で揺らいだリボンの端を、しゅるりと解いた。




END    2005.12.23



TOP/BACK