●White X’mas●



仲良しみんなが集まっての、キャッツでの恒例クリスマス・パーティーを終え、帰宅した。

誰もいないアパートは、シンと静まり返って。
時計の秒針の音がカチカチと響くのが、楽しかったパーティーと相反するように、淋しさを際立たせていた。



お風呂が湧くまでの間に、明日の朝食の下ごしらえだけしてしまおうと、冷蔵庫の中とにらめっこ。
そんな私をヨソに、クリスマス気分に飲まれてか、いつもより少し大目にアルコールを重ねたリョウは、ちょっぴりご機嫌で。
ソファに座り、ジングルベルの鼻歌なんかを歌いながら、気持ちよさ気にタバコを吸ってる。
そんなリョウを見るにつけ、楽しいクリスマスの思い出も無かったであろうリョウの少年兵だった頃の日々を思い。
リョウが楽しいクリスマスを過ごせてよかった……と、そっと胸を撫で下ろした。



下ごしらえも軽く済んで、お風呂の様子を見に行けば、ほんわかと暖かそうな湯気が湧いていた。
「リョウ~?お風呂、沸いたわよ?」
と、未だソファに座り、何本目かのタバコを吸うリョウに声を掛ければ。
「ん~……後でいい~……」
という、暢気な返事。
お風呂は殿方が先……なんて考えは無いけれど。
一応、リョウの稼ぎで生活しているだけに、リョウに先に入ってもらうようにしてるのよね。
でも…まぁ、本人があぁ言ってるんだから、たまにはイイか…。
「んじゃ、お先にいただくわね?」
「ん~どうぞ~……」
水仕事で冷えた指先を庇うように擦りながら、あったかなお湯の待つバスルームへと足を進めた。



「あ~いいお湯だったぁ~。お待たせ、リョウ。あったかい内にどうぞ?」
淹れたてのコーヒーを手にリビングに入れば、リョウは興味無さ気にテレビを見ていた。
「ホラ、今日は冷えるんだから、あったかい内に入っちゃいなさいよ」
「……雪……」
「………?」
「……雪、降って来たぞ」
「……え……?雪……?」



リョウの言葉に窓辺に寄ってカーテンを引けば、チラチラと、白い真綿のような雪の欠片が舞っている。
それは、風に吹きひと吹きされれば、跡形も無く消えてなくなりそうな儚げなものなのに。
それにも負けず、時間を掛けてゆっくりと降ったのか、すでにベランダの手すりや道々を、うっすらと白く染め上げていた。
「うわぁ~……きれい……」
真っ黒な暗幕のような空から、まるで桜の花びらが舞うようかのに、白い粉雪が降って来る。
軽く柔らかであろうその粉雪が、スローモーションのようにゆっくりとゆっくりと。
まるでその雪の結晶までもが見えるかのようなゆっくりとした速度で舞い落ちてくるのを、
時のたつのも忘れ、ただただうっとりと見上げていた。




「たかが雪だろうに……何がそんなに嬉しいのかねぇ……」
いつの間にか私の後に来ていたリョウが、さもつまらなそうな顔をして空を見上げる。
「だって…ホワイト・クリスマスよ?クリスマスに雪が降るなんてコト、めったに無いんだもの。素敵じゃない?ふふっv」
「……何か、イイ思い出でもあるわけ、香ちゃん?」
あまりに私が嬉しそうな顔をしていたのか、いぶかしんだリョウが尋ねて来た。
特別イイ思い出ってワケじゃないけど、ん~……どうしよっかなぁ~……。
しばし考えて、でも、特に内緒にするほどの話でも無くて。
「えっと、ね……?」と、雪のクリスマスにまつわる、昔話を始めた。



あれは…中学3年生の頃だったかしら。クリスマスの日に、やっぱりこんな風に、夜になってから雪が降って来て。
それが珍しくて、寝る前にもう一度…って、窓の外をそうっと覗いたのね。
そしたら…アパートの前の電柱の影に、クラスメイトの男の子が立ってたの。

年末間近のパトロールで、クリスマスはいつも忙しかったはずのアニキが、その日は珍しく家にいて。
アニキには “ゴミ、捨ててくるね“…なんてウソついて、外に出たの。
そしたら彼、嬉しそうに私の顔を見て笑ったの…。
彼……お父さんの仕事の関係で引っ越して、3学期からは別の学校に行くことが決まってたのよ。
それで、そのぉ……



「……好きなお前の姿を、最後に一目……って?」
「………ん………///// 傘も持って無くてね?いつからそこに立ってたのか、髪も肩先も、しっとりと雪に覆われてて。
“傘持ってくるから、ちょっと待ってて”…って言ったのに、“いらない”って言って……」
「………それで?」
「それで……スッと手を差し出して、握手したの。長いこと雪の下にいたはずのに、その手だけはあったかくて……。
そして、“ありがとう”って言って、走ってったの……ふふ、そんな思い出v」

「……………」



気がつけば、共に窓の外を眺めていたリョウは何一つ言わず、後ろに突っ立ったまま。
部屋の空気が温まって、冷たい外気との差に曇り始めたガラス窓。
その横に飾っておいた、我が家の財政にちょうどピッタリのサイズの
小さなクリスマスツリーのイルミネーションが、リョウの横顔をほんのりと映し出す。

チラリ……と、その横顔を盗み見れば、どこか憮然とした表情で。
…えっとぉ……もしかしてリョウ、妬いて……る……?
「えぇっとぉ……リョウ?もう、顔も名前も覚えてない男の子なのよ……?」
そんな窺うような私の言葉に、チラと視線をよこして。
“わかってるよ……”とばかりに苦笑して、そのまま後ろからギュと抱きしめてくれた。



太く逞しい腕に絡め取られて苦しいはずなのに、誰よりもドコよりも安心出来る、私の大好きな場所。
スッと押し当てられた横顔に頬を寄せれば、夜になって伸び始めた顎のあたりが、チクチクとくすぐったい。
「リョウ……くすぐったいよ……」
私を取り巻くその腕を振り払う……そんな気も無いくせに、ほんの少し、抗ってみせる。



「こんなに冷えちまって……いつまで窓の外を見てる気だ?そんなに風邪ひきたいのか、お前は」
先ほどはあんな優しげな瞳をくれたのに、未だどこか憮然としたリョウが可愛くて。
遠い昔の、雪のクリスマスの思い出にまで妬いてくれるのが、何だかひどく嬉しくて。



「うん……寒いね。風邪ひかないように、あたためて……?」
と、上目遣いに呟いてみれば。
一瞬、目を大きく見開いて、そしてニヤリ…と、私の大好きな笑みをくれて。
「ヤケドするくらい、熱くしてやるよ……」
と、耳元に囁かれた。
カーテンを閉めて、雪景色にサヨナラをして。
優しく肩を抱いてくれるリョウに身体を寄せて。
誘われるままに、リビングを後にした。



これから、二人きりのクリスマス・イヴが始まる。




END    2005.12.23