●Give me your langease●



新しいドレスの生地にと考えていた繊維会社の方々を見送って、事務所に戻れば。

デスクの脇、来客用のソファにドッカと腰を下ろした大きな男の姿が目に止まった。
「……っと、冴羽さん…………?」
用もなく、アポイントも無くやって来るのはいつものコトだけど。
その横に親友たる香の姿が見えないのが、何だかちょっと気になるところ。
どうしたのと聞けば肩をすくめ、その目にいつもの、あの意地の悪い笑みを浮かべた。



「最近すっかりご無沙汰だからさ、絵梨子さんの会社、ヤバイんじゃねーかと思って♪」
「ちょっ……縁起でもないこと言わないでちょうだいっ?!ウチは至極、順風満帆ですっ!!
香にモデルを頼まないでもやってこれてるんだから、ありがたいと思ってちょうだい?
普段は香にちょっとお願いしただけでも、ものすごい剣幕なのに。その言い草は何なのよ、もうっ!!」



あまりの物言いに、せっかく淹れたコーヒーを、カップごと投げてやりたくなったわっ?!
ぷんぷんと頬をふくらませ、途切れる間も無く文句を切り出す私を何のそのと、冴羽さんはソファに座って悠々自適。
その長い足を組んで手近な雑誌をぱらりとめくる、その姿だけでも、十分モデルとしてやっていける。 
あぁ……だからこの内面とのギャップが余計に悔しいっ!!



「ふー……ん。最近は、こんなのが流行なんだ」
などと言いながらページをめくる。
どうせミニスカートから伸びる美脚や、ドレスの胸元から覗く谷間に釘付けなんでしょうよ。
いつものとおり、もっこり道を突き進むバカ男……そう、思ったのに。
ページをめくるその合間合間に、時々チラと、コチラに視線をよこしてくる。
その意味するところが何なのか、また何がしかの文句でも来るのかと身構えていたけれど。
でも……その瞳の中に、何だか困った子供のような、頼りなげな色が見え隠れして。
そうではないのだと……珍しいことだけど、彼は何か言いたげなのだと、気がついた。



「……なぁに?香も連れず、アナタが一人でココに来たってコトは、何か意味があるんでしょう?
いったいどうしたってのよ」
「……ん~……?べっつにぃ~………?」
いつもの軽口で受け流そうとするけれど、でも、私だって香を挟んでの長い付き合い。
いつもと違うその微妙なニュアンスに、気づかないとでも思っているの………?
けれどあえてそれを口には出さず、親友が長いこと手を妬いている、
どこまでも腹の底の読めない男のその横顔をじっと見つめた。



「………………」
は、はぁー……ん、わかった、わかったわ?
明日は女の子なら誰でもドキドキの、ホワイトデー。
この男、香に何をプレゼントしたらいいのか迷って、私に相談しに来たってトコロね?
親友である私にそれとなく探りを入れて、物欲も無く、特にワガママを言うでもない香の、
何か気に入りのものを贈りたい……そういったところかしら。



香のこと、ずいぶんと長い間放ってきたようだけど。
それでもこのバカ男、ようやくその罪深さを知ったってトコロかしら?
あんなイイ娘(こ)を放っておいて、自分がどれだけ罰当たりなコトをしてきたかって。
ようやく気がついたって……そういうコト……?



香自身が納得してるのだからと、諦めてはいたけれど。
でも、どうしようもないくらいじれったい二人だったから……彼だったから。
少しは成長したらしいその姿に、知らず、笑みがこぼれた。
でも……そう人を頼られても、困るのよね。
愛する彼女のためならば、少しは自分の頭を使って欲しいってモンだわ?



「……生憎だけど、私。香へのプレゼントの相談なら、何も出来やしないわよ」
「…………へっ………?」
ページを繰る手を止め、どうしてバレた?という、驚きの表情。
鳩が豆鉄砲を食らった顔とは、昔の人はよく言ったものだわ。(苦笑)
「香への……ホワイトデーのプレゼントを、どうしたらいいかって、探りを入れに来たんでしょ?
ンなモン人に頼らないで、自分で決めなさいっ!!まったくもう……いつもの傲慢なまでの自信家はドコへ行ったの?!」
「………ンなコト、言わないでさぁー……絵梨子さん。頼むよ」



それでも面と向ってのお願いは恥ずかしいのか、その顔半分を雑誌に隠して、視線だけをよこしてくる。
でも……その、いつもは自信満々な鋭い瞳も、意志の強そうな太い眉も、どことなく下がり気味で。
普段の彼とは違う、いつになく情け無いその声音に、表情に。
香への想いの丈が垣間見えて、何だか少しホッとした。
私や周囲が心配するまでもなく、彼は彼なりに、香をちゃんと大事に想ってくれてたのね……。



「だぁ~……めっ!!困った時だけ人を頼ろうとしないで、たまには自分で考えなさい?
でも、まぁ……香の場合、モノなんか要らないだろうけどね」
「………じゃぁ、何だってんだよ」
「……まだわからないの?長いこと一緒に暮らしてきて、香の性格、まだわかってないのね」
「……………」



「香が欲しいのはね、冴羽さん……あなたからの言葉よ。
好きでも愛してるでも、お前が大事だでも、傍に居てほしいでも……この際、何でもいいの。
あなたが香をどう想ってるかを……あなたの心からの言葉を、香に贈ってあげてちょうだい。
あの子は何より、それを待ち望んでるはずよ………?」
「……………ンなモン、この俺が言えるワケ無いっしょ、絵梨子さん。
向いの金髪バカ男ならいざ知らず、大の男が、ンな、小っ恥ずかしいセリフ……」
「……だぁーめっ!!香に喜んでもらいたいんでしょ?あの子の笑顔が見たいんでしょ?
それなら、コレ……コレが一番確実よっv」



自信たっぷり、にっこりとVサインする私の前で、
それに相反するように、冴羽さんは眉間に皺を寄せ、ガシガシと嫌そうに頭をかいた。
「………ったく……どいつもこいつも、同じコト言いやがる………」
あら、私以外にも参考意見を聞いたような口振りじゃない?
なぁ~んだ、どうにも困って、親友である私のトコに来たってワケじゃないのね。
でも……ヨソでもドコでも、みんなから同じコト言われるなんて……ふふ。
みんな、この二人のコト、よくよくわかってるってコトよね。



「そこまでみんなに言われたんなら、いいかげん、覚悟を決めて欲しいものだわ?ねぇ……冴羽さん?」
くすりと笑えば、不機嫌度MAXのジロリとした視線をよこし、「ちっ……」と舌打ち。
そして、これ以上ココに居る用は無いとばかりに、挨拶も無しに荒々しく事務所を出て行った。



やれやれ……そのワガママぶりは、相変わらずのようだけど。
時に、拗ねた子供のようになるところも変わらずだけど。
でも……ようやく二人の間の長い春に、何かのピリオドを打つ気になったのは確かなようで。
軋みも激しく閉められたその扉の外、カツカツと遠ざかる荒々しい足音の主に目を細めて、小さく呟いた。
「………ありがとう、冴羽さん……そして、頑張って……ね?」




END    2007.3.9