●jelly beans●



マスコミ関係という仕事をこれ幸いとフルに生かし、取材先のツテで手に入れた小さな包み。

可憐なレース柄の織り込まれた包装紙の中身はもちろん、ホワイトデーの贈り物だ。
研究で教授宅に泊まり込みのカズエには、今朝方熱いキスと共に手渡してきた。
そしてもうひとつのこれは、いまだ忘れえぬ初恋の君・カオリへのプレゼントだ。



日課ともいえるナンパでリョウが留守なのをいいコトに、
「Hello」と勝手知ったる友人宅へ上がりこむ。
案の定、仕事もせず、ナンパに勤しむばかりのリョウに業を煮やしたカオリが一人。
そこへオレのプレゼントを渡したのだから……眉間の皺もどこへやらと、
いつもの花のような笑みを返してくれた。
リョウの留守にカオリを独占。
ひとしきり話に花を咲かせ、気分よくしていたところへ……邪魔な男が帰還した。



「天気は申し分ないってのに、ナンパが不調でさ~。
仕方ねぇから久々にパチンコ行ったら、これがもう、連続で大当たりっ♪」
……と、リビングのテーブルにドデカい紙袋をドサリと置いて、
中から気に入りの煙草のカートンを自慢気に取り出した。



「あのねぇ……アンタ、ウチの経済状況、わかってるワケ?
パチンコするお金があるくらいなら、少しは……」
……と、仕事もせずに出費ばかりの男に文句を言おうとしたカオリがとたん、
その目の色を喜々としたものに変えた。
「大丈夫、大丈夫。ちゃんとお前のコトも考えてきたさ。
ほれ……米だろ?ツナ缶だろ?カレールーにシチュールーだろ?
乾麺に、お徳用のおつまみセットまであるんだぜ~」



「うっわ、すご……っ!!これだけあれば、少しは食費の足しに……って。
ふ、ふーんだ。そんなモンで騙されたりしないわよーだっ!!」
頬をふくらませ、プンプンと怒っているようには見えるけど。
でも……カオリ?無意識だろうが、その揉み手は何だい……?(苦笑)



そんな中、紙袋の最後にころりと転がったそれを、カオリが目ざとく手に取った。
「あれ?これ……も?ジェリービーンズ……?」
小さなガラス製の小瓶いっぱいに詰められているのは、色鮮やかなジェリービーンズ。
カオリの手の中、窓から差し込む穏やかな日差しが小瓶にきらりと反射して、
カラフルなジェリービーンズをより一層美しく見せていた。



「あぁ……他にイイのが無かったからな。ついでだ、ついで」
「ふーん…………」
口に貼られていたラベルをペリと剥がして、結わえられていたリボンしゅると解き。
細く白い指先で器用にそのひとつを摘み上げて、ふっくらとした唇のその中に放り込む。
「………あ、おいしーっv」
とたん、満面の笑みを浮かべるカオリ。
目を細め、もぐもぐとその感触を味わっているその顔は、ひどく幸せそうだった。



「ん~……おいしいっvミックもどう?」
「……え?あ、あぁ、thanks、カオ………」
と、言いかけて、横からビシバシと伝わる殺気にその続きを押し止める。
「……ソ、sorry、カオリ。甘いものはあまり、得意じゃないんだ」
「……そう?そんなに甘くないんだけど……まぁ、いいわ。コーヒー淹れて来るわね。リョウも飲むでしょ?」
「…………あぁ、頼む………」



そう言って、リョウが持ち帰った戦利品を喜々として懐に抱え込み、
カオリは足取り軽く、キッチンへと消えて行った。
リビングに残された、ヤローが二人。
しばしの沈黙の後、その静寂を破ったのはオレだった。



「おい……冴羽家はパチンコする余裕なんて、あるのかよ」
「ふ……ん。あるトコにゃアルのさ。でなきゃいざって時、やって行けんだろ」
いけしゃぁしゃぁと言ってのけるリョウに、ジロリと鋭い視線をやるものの。
そんなもの、屁とも思ってないヤツにはまるで効果ナシ。



「あれ……あのジェリービーンズ。あれって都内でも有名な菓子店が、この春に出した新作だろ。
どれも果実100%で、中に細かい果肉が入ってるってヤツ。
大人向けに苦味のあるカカオとか、香りのいいリキュールなんかも使ってるって」
「……………………」



「あれ……確か一瓶で4・5千円はするってぇ、えらく値の張るヤツじゃなぁったか?
世の女の子たちが目の色変えて、こぞって予約して、早くて3ヶ月待ちだとか言う……その、アレだろ?」
「………ふー……ん。そうだったか……?」



どうやって裏から手を回したのかは知らないが、ふふんと鼻で笑う、その自信たっぷりな態度が気にいらねぇ。
カオリのことだ、手の届かないような有名高級菓子店の新商品などには、何ら関心は無いのだろう。
リョウのヤツ、それを幸いとばかりに、密かに用意するなんざ。
しかも日頃のその悪行さから、カオリから何の期待もされてない、このホワイトデーに用意するなんざ……。



「……っ……汚ねぇーヤツ」
「……………言ってろ」



お前はかずえくんのトコでおとなしくしてればいーんだよ
と、声にならない脅迫めいた視線をよこし、プカリとうまそうにタバコを吹かす。
どこまでも自信満々、いつだって余裕綽々。
長い付き合い、その底意地の悪さは重々知ってはいたが。
だが、こと、カオリ絡みになると……その視線も気配も、更に鋭さを増して。
どうしたって白旗を掲げてしまうのは……何故だろう。



近づくコーヒーの香りに、ふと、その目に優しさを滲ませる。
そんなおだやかな表情を見せるようになったコイツと、それを成しえた彼女との関係に。
その絆の強さを見せつけられて、どうにもやりきれない敗北感に打ちのめされた。




END    2007.3.9