●This is my present●



爆風にあおられケガをしたリョウと香くんが運ばれて来たのは、二日前のこと。

香くんのケガはどれもかすり傷程度で、何ら問題はなく。
リョウの方も骨折が二箇所に、肋骨のひとつにかなり深いヒビが入っておったが……
ヤツのことじゃ、そう心配することもなかろうて。



とはいえ、詳しいことはわからんが。
自分のせいでリョウがケガをした……と、香くんは妙に落ち込んでおる。
鎮痛剤を投与し気持ちよさげに寝入るリョウの傍を、片時も離れようとはしない。
「私がついてるから」と言うかずえくんの言葉に耳も貸さず、ずっとベッドの脇に居ついておるようじゃ。
そして睡眠で十分に体力を回復したリョウが目覚めたのを確認したとたん、
安堵し……気がゆるんだのじゃろう。
まるで入れ替わるように、香くんが倒れてしまったのじゃ。



「まったく……たいしたコトねぇってのに。
何にでも一生懸命になりすぎるんだよな……あのバカ」
池の縁に佇み、小さくため息をこぼすリョウ。
足元の小石を手に取り、痛まない左腕で大きく振りかぶる。
ぽちゃん……と音をさせて沈んだそれは、水面にいくつもの波紋を残して消えていきよった。



「お前さんらしくもないのぉ……何をそんなに苛立っておる?」
ワシの姿を見とめ、ひとりごちたそれを聞かれたかと肩をすくめるリョウ。
その苦笑する表情(かお)が妙に幼く見えて、あぁ、こやつはまだまだベビーフェイスじゃったかと思った。



「最後に……敵のボスをしとめようとしたんですが。
倒したと思ったザコが俺の背後で、最後の足掻きとばかりに銃を構えてたんですよ。
それに気づいた香が、あらかじめ仕掛けておいたトラップを作動させたんですが……
俺たちも仕掛けの近くによりすぎてたもんだから、そのあおりを食らっちまったんです」
「ふむ……香くんにしてみれば、お前さんを護ろうと必死だったのじゃろうな」
「えぇ、それはわかるんですが……」



「身を呈した香くんをありがたいと思う反面、
この世界にそこまで足を突っ込ませたことを今更ながら悔いておる……そういうところか」
「………まぁ……そんなところですね」
やり場のない思いを持て余すかのように、リョウは再び足元の小石を手に取る。
「……やめんか、馬鹿者。そんなことをしたら、池の鯉が驚くじゃろうて」
「………はぁ…………」



「今更何をどう言ったところで、香くんの決心は変わらんじゃろう。
それに、お前さんだってもう、香くんを手放せなくなって来ておるんじゃろう……?」
「……………………」
「それなら今更、そんなことでくよくよと悩むでない。みっともない男は嫌われるぞ?」
「あいつの前では……あいつの前では、いつだっていっぱしの男でいたかったんですけどね。
気づけばいつの間にか、どんどん情けねぇ男になっちまって……ったく、しょうがないです」



いつになく、しおらしいリョウの姿。
でもその人間臭さが、お前という男をどんどん魅力的にしているのだということを……
お前さんは、全く気づいておらんじゃろう。
香くんと出会って、本当の意味で、お前さんは人間(ひと)になったんじゃな……。



「ふふ……焦ることはなかろう。お前さんはお前さんらしくしておればいいのじゃ。
もっこりも何もかも全部含めて、そのありのままのお前さんに、香くんは惚れておるのじゃろうからな」
「……………教授…………」
ふぉっふぉっふぉっ……と笑うワシの横で、リョウが恥ずかしげに苦笑しながら頭をかいた。



「さぁて、折しも今日はホワイトデーだそうじゃな。
どうせお前さんのことじゃ、何も用意しておらんのじゃろうて。
ほれ……ミックに頼んでおいたものじゃ。そろそろ香くんも目を覚ます。これを持って行きなさい。
そしてその無事な姿を見せ、早く安心させてやることじゃ」
……と、後ろ手に持っておった小さな紙袋を手渡そうとしたのじゃが、
リョウのヤツはふるふると首を振りよった。



「……ありがとうございます、教授。でも、そいつはいりません。
アイツにはそんな小洒落たモンでなく、こんなので十分なんですよ」
……と言って、そのデカイ図体を器用に屈め、足元の小さな花を摘みよった。
小さいくせに香り高く、凛とした佇まいの一輪の花。
そんな可憐さと力強さとが、香くんに似ておった。



「ふぉっふぉっふぉっ……他の男の買って来たものなぞ、やれん……そういうトコロかの?」
「……………………」
何をどう言い訳することもなく、くすぐったそうな笑みを返してぺこりと頭を下げる。
肯定とも否定ともとれないその笑みに。
本人は気づいてないじゃろうが、意外にも足早なその動きに、くつくつと笑いがこみ上げる。
次第に小さくなって行くその大きな背中に、午後の日差しがやわらかく降り注ぐ。
その若人の未来に幸あれと願い、静かに微笑みかけた。




END    2007.3.9