●It's a Birthday●



煙草を吸いかけて、ふとマッチの火に目を留めて。

低いけどやわらかな、どこか懐かしいようなメロディが、男の口から刻まれる。
「……………?」
いぶかしむ俺の視線に、男は傭兵らしからぬ、ふっと照れたような笑みを返した。



「あぁ、今日は俺の誕生日なのさ。誕生日ったって、こんなトコにいりゃぁ、何てコトもねぇがな」
「………それ、なんて曲?」
「何だお前、ハピバースデーも知らないのか?」
「………ハピバースデー?」
と、横にいたもう一人の男が、「おい、コイツは……」と男の肩を小突き。
あぁそういえば……と、二人揃って、したり顔。
そう………俺は誕生日ってモノを知らなかった。



自分の名前すら覚えちゃいないガキの時分に、飛行機事故で天涯孤独の身となった俺。

部隊の長であるオヤジに育てられ、一兵士として、この密林の中で生きる術を学んだ。
部隊のみなも俺の境遇を知っちゃぁいたが、かの戦況下ではンなモン、特に珍しいことでもなくて。
ンなモンに気をとられてるくらいなら、今日の食事となる材料を探せ……と。
一日を生き延びる術を何より大事にとする、そんな毎日だった。



「あれはひでぇ事故だったぜ。お前が生きてたコトは、まるで奇跡さ」
かつての遠い日に視線を送りながら、オヤジはおだやかな瞳でそう言ってくれたし、
みなもやさしく、あたたかく俺を見守ってくれてはいたけれど。
誕生日………その意味するところを知り、
記憶にない昔に失ってしまったものと……自分には到底、縁のないものと。
懐かしく、羨ましく思ったコトも、また事実。
でもいつの間にか、明日をも知れぬ戦火の中で、
そんな想いもいつしか記憶の彼方へと消え去ってしまった。
いや、そうせざるを得なかったんだ……。



そんな俺に、誕生日のプレゼントを……
誕生日というそれ、そのものをプレゼントしてくれたのが、この彼女。
俺の人生に縁のないと思っていた、誕生日を、プレゼントを。
人を思いやる心を、そしてそのぬくもりの確かさってモンを……
この俺に教え、与えてくれたのが、この彼女。



CITY HUNTERとして……ハッキリと言やぁ、殺し屋として。
誰を信じるでもなく、一人で生きていくと決めたハズなのに。
それなのに……そんな彼女となら、ずっと二人で居続けたい……失いたくない。
らしくもないが、そう、思っちまったんだ。



「ハピバースデートゥーユー ハピバースデートゥーユー♪」
彼女の手作りによる小さなバースデーケーキの上で、いくつかの炎がやさしく揺れる。
その前で、恥ずかしそうにはにかみながら、
彼女らしい明るい声が、あの時と同じメロディを刻んでいった。




「ハピバースデーディァリョウ~ ハピバースデートゥーユー♪」
ひとしきり歌い終えて、炎の向こう側でにこりと微笑む香。
その魅惑的な大きな瞳が、さぁ、ロウソクの火を吹き消して?と、無言の催促をしてよこした。
誰がンなこっ恥ずかしいコト……と思いつつ、
俺なんかに誕生日をくれた彼女の想いを、無下には出来なくて。
幸せそうに俺を見つめる彼女の瞳に、根負けして。
二人の間で揺れるいくつかの小さな炎を、苦笑まじりでふぅと一息に吹き消した。




END    2008.3.25