●Dynamite Rhapsody●



バレンタインに香から心づくしのチョコを貰ったクセに、いつもの如くつっけんどんなリョウ。

こう見えて照れ屋なコイツの性格とわかっちゃいるものの、その自信たっぷりな様が気にいらねぇ。
己の想いのカケラも見せないクセに、香に愛されてると……
その想いを受けていいのは、世界広しと言えど、この俺一人なのだ……と。
その余裕しゃくしゃくな態度が頭にくる。



「いい加減、素直になっちまったらどうだ?ほれ、お前にコレやるよ」
「…………んぁ?」
「今夜カズエにと用意しといたんだが、生憎と急な学会が入っちまってな。
前払いのキャンセル不可なシロモノだし。
無駄にするのもナンだから……お前、香連れて、行って来い」



そう言って手渡したのは、新宿でも名のあるホテルの、ディナーつき宿泊券。
しかもホワイトデー用、豪華スイートだ。
カズエのためにと、去年から予約してあったのだが……
仕事一筋、いつもキラキラと輝いた瞳で研究を重ねるカズエのためにゃ、
涙を飲んで耐え忍ぶしかないだろう。



「ホワイトデー用の、スペシャルスイートだぜ?
ディナーの後、酒に酔った勢いで、その胸ン中、ぶちまけちまえ。そしていい加減、香を安心させてやれ」
見掛けによらず、人一倍照れ屋なコイツの性格を知っていて。
そのじれったい関係に、オレたち悪友がいくらハッパを掛けても、
そうと進展を見せないヤツだと、知っていて。



そのくせ、こうまでしても、コイツがこの話に乗ってくるハズがないと……
香との仲がどうなるワケもない、と。
それも重々、知っていて。
それでいて、こうしてヤツをけしかけるようなコトするんだから……オレも相当、だな。
香の幸せを願いつつ、やはりどうしたって想いは残る。
そう……それが初恋ってヤツさ。(笑)



「……ったく、うるせぇな。わかったよ、ありがたく貰っとくよ」
しばらく仏頂面だったリョウが、小さくため息をひとつこぼして、
そう言って、オレの手から件のチケットをひらりと掴んでいきやがった。
「………へっ?」
鳶に油揚げ、目が点とは、まさしく今のオレだろう。
コイツが…リョウが、ホテルのチケットを受け取ったっ?!



何が起こったか解読出来ず、目を白黒させるオレにニヤリと笑う。
「何だよ、やっぱり金が惜しいんじゃねーか?今更返せってったって、聞く耳持たんからな」
などと言うヤツに、「いや、ンなこたぁ言わねぇが……」と、返すのが精一杯で。
そんなオレに構いもせずに、リョウは胸ポケットから携帯電話を取り出して、
慣れた手つきで短縮ボタンを押した。



「……あぁ、俺。おまぁ、今晩、メシの支度しなくていーかんな。
んぁ?何って?たまにゃあ外でメシ食おうって言ってんだよ」
日頃滅多にないリョウの甘言に、電話の向こうで?マークに囲まれているであろう香の顔が目に浮かぶ。
「今日はホワイトデーだろ?たまにゃお前にラクさせてやろうってコト。
あぁ、時間になったら車出すから……あぁ、その前にゃ帰るよ」



「じゃぁな」、と言って、通話を終えかけたリョウが、最後に思い出したようにひとことを付け加えた。
「あぁ、今晩はホテルでディナーだからな。それなりに、めかし込んで来い。
そら……こないだ絵梨子さんに貰ったヤツがあるだろ、あれにしろ」
ニヤリと楽しそうな笑みを浮かべて、リョウが携帯電話をしまう。
「……………っっっ?!?!」
よもやコイツが、ただの外食の誘いではなく、ホテルでディナーに。
しかも香に"めかし込んでこい"なんてセリフを吐くなんざ……考えられんっ!!



……もしもーし、冴羽クン?
お前いったい、どうしちまったんだ?何か悪いモンでも食ったか……?
気遣いがちなオレの問い掛けにリョウのヤツはふふんと笑う。



「……んぁ?べっつにいー?
ホワイトデーくらいキチンと香と過ごせってぇ、お前の気遣いに乗ってやろうってだけさ。」
「し、しかしだな。ただの外食じゃないぞ?ホテルのディナーだぞ?……わかってるか?
オマケにその後にゃ、豪華スイートでのお泊りが……って、まぁ、これはさすがのお前でも使わんだろうが」
「……ンだよ、それ。遠慮なく使わせて貰うから、ケチケチすんなよ」
「…………☆★♂♀∞@Ф。Фξбωб?!(汗)」



……おい……今コイツ、何つった?
ホテルのスイートに、香とお泊りって言わなかったか……っ?!



サーッと血の気の引く音をこめかみに感じながら、クラリとする頭を押さえ、

危うく倒れそうな身体をどうにかと踏ん張った。
「おっ、お前ら、いつの間に……っ?!?!いつだ?いつの間に、二人はそんな関係になってたんだっ?」
あまりの驚きに、言葉を無くしたオレ。
それでもしっかりヤツの胸ぐらを捕まえて、力の限り揺さぶった。
「……っ……バカ!!何しやがる……っ!!」
リョウは軽い抵抗を見せながらも、気がつけば支離滅裂なコトを喚いているオレを軽くいなし。
オレの言わんとするところを察して、ふふんと意地悪く笑った。



「さぁ~て、ね。ただでさえ小うるさいお前らに、わざわざ言う程のコトでもねーだろ。
それに……何か?お前に断りを入れなきゃならん理由でも、あったっけか……?」
ニタリと笑うその笑みが、次第に鋭いナイフの切っ先のように凍り付く。
ここでひとこと「大ありだっ!!」とでも叫ぼうものなら、血を見るのは明らかで。
はは……オレは明日から、日の目を見れない身体になってんだろーな。



この上なく意地悪で、かつ、自信満々。
口では言わないまでも、その目が、その口元が、"ざまぁ見ろ"と言っている。
コイツ……みなの心配をヨソに、ちゃっかり既成事実をこさえやがったっ!!
ニヤリと笑うリョウが、嫌がる香のか細い身体を組み敷く姿が目に浮かぶ。
……NO~っっっ!!!オレのカオリが、オレの清く麗しい、初恋の君がぁ~っっっ!!!(号泣)



「……いっ、いつだ!お前、オレのカオリを、いつその毒牙に掛けやがったっっっ!!!」
あまりのコトに、考えてるコトが口まで回らねぇ。
くそっ……ガッデム!!それ程にこの事実はショックだったってぇコトだ。
「……んぁ?誰の、だって?……ったく、お前、まだンなコトほざいてんのかよ。いい加減にしろ」



息せき切って問い詰めるオレに、リョウはさも不愉快そうに片眉をあげる。
その呆れ口調の言葉尻とは裏腹に、その視線は"それなり"のシロモノで。
"これで名実ともに香は俺のモンだ。勝手に手出しすんじゃねぇ"と、
その横っ面にハッキリと記されていた。
あぁ、オレでなければ、普通のヤツらなら。
この視線だけで、すぐにでもアッチの世界へ旅立てるだろうよ。



そうこうする内にも、件のチケットを手にしたリョウは、そのデカイ図体を颯爽とチビた愛車に滑り込ませ。
「じゃぁな、ミック。たまにゃお前も役に立つコトすんのな。恩に着るぜ……?」
と言ってニヤリと笑い、オレが反論する間もなく、そのまま車を走らせて行きやがった。



長いこと掛かって、ようやく手に入れたカオリ姫の元へ向かうその姿は、まさに水を得た魚というヤツで。
その姫のお相手たるナイト役にあぶれちまったオレは、ただただため息が出るばかり。
こうなるコトは承知してたハズなのに。
カオリの幸せを思えば、彼女が想う相手と結ばれたコトを、祝ってやるべきなのに。
それなのに……それを素直に出来ない、オレがいる。



………はぁぁぁ~…………。
どうにもこうにもやるせない想いを、一息に吐き出して。
と、同時に、鼻息荒く飛び出したヤツの残した排気ガスに、けほりと噎せた。
「……見てろよ、リョウ。このままで済むと思うなよ?
オレから香を奪った報いは、キッチリと受けて貰うからなっっっ!!!」
おとなしく黙っているのもガラじゃぁないし、どうにもこうにもシャクだから。
まずは気分転換という名の鬱憤晴らしに、近年稀に見る極上のネタを手に、
我らが悪友どものたまり場である喫茶店へと足を進めた。




END    2008.3.14