●素直になれなくて●



リビングで待つ俺の前に、コトリと食後のコーヒーを置いた香が、やおら俺に問い掛けてきた。

「ねぇ、リョウ?今年はどのケーキにする……?」
そんな言葉とともにテーブルに置かれたのは、デパ地下に始まって、近所の有名スイーツの店、
はたまたスーパーやコンビニまでと、ありとあらゆるクリスマスケーキが紹介されたパンフレット。
あまたのクエスチョンマークが乱舞する俺を見て、頬杖ついて俺を見上げてた香がぷぅとふくれた。



「ほら……リョウってば去年、私が作ったクリスマスケーキに、散々ぶーたれたじゃない?
そりゃぁ確かに、作ってる途中に遊びに来た唯香ちゃんの質問をかわしながらだったから、
スポンジのふくれ具合もイマイチだったし、クリームも甘くしすぎちゃったけど……」



そう……何かと手づくり好きな香が去年もケーキを作っていたのだが、
冬休みに入った唯香が自由時間をフルに生かそうと、早速アパートに乗り込んで来て。
ケーキ作りを手伝うとか何とか言いながら、そのずっとを質問攻めに。
際どい問掛けにウソもつけなければ、上手くかわす術も知らない香は顔を赤くしたり青くしたり。
そんな中で仕上がったケーキとやらは、そりゃぁ近年稀に見る、香らしからぬ、たいした出来だった。



「あの時、リョウが言ったじゃない。ンなモン食わせて俺を殺す気かって。
だから今年は、お店のちゃんとしたのをって思ってさ」
「……………」
「あ、最近のは甘さ控え目にしてあるから、きっとリョウでも大丈夫よ。
ほら、洋酒の香りがする、大人向けのビタータイプってのもあるし……」
ガサガサと大量のチラシをひっくり返し、とっくり返し。
よくもまぁ、そこまで集めたもんだと感心する。



まぁひとえに、すべては俺のひとことから始まったんだろう。
そしてその言葉を真に受け、手づくり大好きの香が自分を押し込め、
この暮れの家計の大変な時期に、ヨソからケーキを買う気になるなんざ……
ったく、いじらしいったらありゃしねぇ。



「んぁ~?スーパーやコンビニはともかく、デパートやなんかはたけぇんだろ?ウチにそんな余裕ねーだろ」
「うん、そりゃぁ、ね。でもまぁ、一年に一度のコトだし?
何よりクリスマスなんだから、少しくらいフンパツしたって大丈夫っv」
「………………」



確かに日々依頼の無さに苦しむ冴羽家ではあるが、
たかだかケーキのひとつやふたつ買うのに大変な程、逼迫しちゃぁいないし、そこまで落ちぶれちゃいねぇ。
だが、元来イベント好きの香が毎年楽しそうにケーキを作ってる様は見ていてほっと心が和むし。
いつものメンバー揃ってのパーティー用とは別の、
冴羽家用のケーキを二人でつつき合うってのも……あながち嫌いってワケじゃぁなくて。
そいつが、ドコのどいつが作ったかわからねぇ市販のシロモノに取って代わるなんざ……
出来れば御免被りたい。



「暮れ内はただでさえ物入りなんだ。ンなモンは贅沢ってヤツだろ。
いいよ……今年もおまぁの作ったマズいヤツで、我慢してやるよ」
「マズイだけは余計よっ!!普段ならちゃんとしたのが作れるんですっ!!
去年は唯香ちゃんが、あんなに答えづらい質問ばかりするから……///」
と、去年のコトを思い出してか、その頬がほんのりと染まる様が妙にかわいらしくてドキリとする。
……ったく……こいつ、ワザとやってんじゃねぇだろうな。



「はいはい。そんじゃぁせいぜい、その旨いケーキとやらを頼むぜ」
最近とみに下手になったポーカーフェイスで、かろうじて己の心をひた隠し。
じゃぁな、と、コーヒーを飲み干して立ち上がる。
「……あっ!こら、リョウっ!!ドコ行くのっ!!」
「なぁ~に。おまぁの旨いケーキ食う前の前菜に、胃薬用意しとこうかと思ってさ♪」
「何ですって~っ?!こら、リョウっ!!待ちなさぁ~いっ!!」
怒りの声とともに追い掛けてきそうなハンマーを振り切って、勢いよく街中へ飛び出した。



「どこぞの大量生産されたケーキなんて、クソくらえ。
お前の手作りが一番だ……なんてクソ恥ずかしいセリフ、言えるかってんだ///」
誰に聞かせるワケでもなく一人ごちて、頬を切るような寒風吹きすさぶ中。
寒さのせいだけではない、熱を持って少し赤らんでいるであろう己の頬を、無骨な拳でクイと拭った。




END   2008.12.24