●Sweethearts’ Christmas●



エリ・キタハラ恒例の、クリスマスショー。

いつものコトながら、渋る香と冴羽さんを説得してモデルを依頼したの。
常ならショーのラストを飾るのはウエディングドレスと相場が決まってるんだけど、
今年は一味、趣向を変えてみた。



いつものとおり、私の理想ぴったりに着こなしてくれたウエディングドレス姿の香と。
もっこり顔を隠し、いつもより3割増しくらいに見えるタキシード姿の冴羽さんが、拍手喝采を浴びたあと。
普通なら、ショーを飾ったモデルたちの拍手の中、デザイナーたる私が迎えられるところなんだけど。
ライトを落として暗転にした舞台中央から迫り出してきたのは、
家庭用にしてはちょっと大きめのクリスマスツリー。
そしてその横には、小さなソファに丸くなって眠るパジャマ姿の香。
意外な展開に、通常のフィナーレを予想していた観客席からはざわめきが起こったわ。



コトの起こりは、クリスマスショーを一週間後に控え、香のトコに泊まり込んだ最終チェック。
私と香とが書類とにらめっこしてる、その横で。
冴羽さんは相変わらず飄々とした体で、「飲みに行ってくる」と、姿を消した。
「ン、もう……ねぇ?冴羽さんて、いつもあぁなワケ?」
「は、はは……ま、まぁねぇ~」
熱いコーヒーが冷めるのも気に止めず、散々に打ち合わせをして。
ようやく二人して休んだのは、深夜1時を回ってから。
親友の気安さから、香の部屋に布団を敷いて、枕を並べての夜だった。
まるで修学旅行みたいにしばらくおしゃべりをしたけれど、もう遅いからと眠りについた。



……と、ショーを間近に控えた興奮のせいか、浅い眠りの中、
ふと目を覚ましてみれば、隣のベッドに香の姿はなくて。
不審に思ってリビングまで足を伸ばせば、ソファの上、膝を抱えた香が、まぁるくなって眠りこけてた。
そしてその横には、いつの間にか帰宅した冴羽さん。
「……ったく……そんなに風邪ひきたいのかよ、お前は……」
自身の悪行を省みない、そんな悪びれもしない口調とは裏腹に、
その口元にも瞳にも、やわらかな笑みが浮かんでて。
無骨な指が優しく愛おしげに、香のクセ毛を、まるで壊れ物を扱うようにそっと指先で弄び。
そしてその艶やかなまぁるい頬に、そっと唇を落としたの。
それはまるで、映画のワンシーンみたいにきれいな二人。
寒さを寸分も感じさせぬ、恋人どうしの熱い抱擁……そう、これよ、これっ!!



頭にピンと閃くものがあって、パタパタと部屋に戻り、枕辺に置いてたメモに覚え書き。
「あのね、今度のショーのラストは、こんな感じにしたいのv」
翌朝、そのメモ片手に香と冴羽さんに昨夜の感動的な閃きを提案したところ、香は案の定、真っ赤になって。
冴羽さんはと言えば、こちらもある程度予想してたケド、意地悪気ににやりと笑った。
あぁ、やっぱりあの時、私の気配に気付いてたのね?
それを知ってて、二人の仲を見せ付けるようなコトをして……。
二人の仲をからかわれて嫌なのか嬉しいのか、どちらなのか判断に苦しむ不適な笑顔。
ホント、冴羽さんの本心てわからないわ……?



それでも何やかんやと言い訳を並べる香を説得して、ショーのラストが決まったの。
まぁ冴羽さんが断るなんて、これっぽっちも考えてなかったけどね。
だって最愛の彼女の相手を、彼が他の男にやらせるワケないでしょ?
要は香がOKすれば、それでコトは決まりだったってコト。
友人の頼みを断れない香の性格は知ってるもの……ふふ、楽勝x2v(笑)



照明を極限にまで落とした真っ暗な舞台に、キラキラと輝くクリスマスツリー。
その横に、控え目なスポットがあてられたソファが浮かび上がる。
冴羽さんが跪くように腰を屈め、パジャマ姿で眠る香の頬にそっとくちづければ。
香が目を開けて、幾分緊張しながらも、ふわりと花のように微笑んで。
そんな彼女に満足気に笑みを浮かべた冴羽さんが、そっと香を抱き上げて。
可愛らしい光を放つツリーを残し、二人、静かに舞台の袖へと去って行った。
寒さに負けない、二人のクリスマスはこれから……そんな予感をさせながらね。



シンと静まり返った会場からは、ただただ、ため息の嵐。
そして二人が消えてひと呼吸置いてから、気付いたように拍手が起こり。
そこからはもう、大歓声!!
ふふふ……私の読み通り、ショーは大成功ねv



それなのに……拍手と大歓声の中、デザイナーたる私がモデルたちに向かえられても。
その舞台に、肝心の主役の二人の姿は見えなくて。
袖口にいたマネージャーの高橋さんが、焦りながら顔の前で大きなバツ印をつくってるのが見えた。
……やってくれたわね、二人とも。
大事なショーのフィナーレをトンズラなんて……まったく、もうっ!!(怒)



……でも……せっかくのクリスマスに、無理を言ったのは私だし。
日頃は表立って見せてはくれない、二人の仲のいいトコロを存分に。
しかもこの大観衆の中で見せ付けてくれたんだから……まぁ、許してあげましょうか。



今頃は二人、小さな愛車でどこへ向かっているのやら。
話題のイルミネーション・スポット?
それとも夜景を見下ろすホテルで、静かにグラスを傾けるのかしら?
でもやっぱり、二人が一番しっくりくる、あのレンガ造りのアパートで。
今日この日、二人でゆっくり、イブを過ごすんでしょうね。
もう邪魔はしないから、どうぞゆっくり、二人の時間(とき)を楽しんでちょうだいv
でも……でも、申し訳ないけど。
また来年のショーでもお世話になるから、よろしくねv(笑)




END    2008.12.24