●クリスマスの憂鬱。●



兄一人、妹一人。

そんな暮らしをしてきたせいか、香はお転婆ではあったが、
時として、ひどく大人びた物言いをする子供になっていた。



時は12月。
今年も残すところ、あとわずかとなった。
巷に流れるのは、軽やかなクリスマスソング。
と、ともに、テレビからは、今にもよだれの出そうなクリスマスケーキのCM。
そして新聞には、どれも子供が目をキラキラさせそうな、
クリスマスプレゼント用の玩具店の折り込み広告が山と入っていた。
警官として必要な情報収集であるそれらは、今やすっかり子供の味方で。
そのどれもこれもが、子供心をくすぐるに十二分なシロモノばかり。
街ですれ違う子供たちからは口々に、サンタクロースには何をお願いするのだと言った、
かわいらしい願いごとが聞かれるのだった。




久しぶりの非番の日。
香が帰宅早々にランドセルを放り投げた。
常ならば行儀が悪いと怒るところなのだが、笑顔で俺の胸に飛び込んでくる姿を無下には出来ず。
日頃は胸の奥に押し込めているであろう子供らしさを隠すこと無く、
ここぞとばかりに表に出す香を膝に乗せ、たまさかの兄妹のスキンシップ。
いつのまにか、膝にずしりとした重さを感じるようになった。
その成長の証たる重さが嬉しいような、寂しいような……。
日頃かまってやれないだけに、何とも言えない重さだった。







「……なぁ、香?もうすぐクリスマスだろ?今年はサンタクロースにどんなお願いをするんだ?」
「………………?」
いつも贅沢はさせちゃぁいなかったが、誕生日とこの日は別だ。
そこまで香に無理を強いらせるわけにゃぁいかんだろう。



「………………」
「クリスマスなんだからな。たまには子供らしくお願いしてみろ。新しい靴か?スカートか?
クラスで何か流行ってるおもちゃとかはないのか?」
「……いらない」
「……へ?いらないって、お前……」
「欲しいものなんて無いもん。何にもいらないよ」
「……し、しかしだな、みんなサンタさんにお願いを……」
「それにサンタクロースは、イイコにだけプレゼントをくれるんでしょ?
あたしみたいなお転婆のトコなんかに、サンタが来るハズないよ」
「………………」
サンタクロースの正体を知ってか知らずか、いけしゃぁしゃぁと言ってのける香に言葉を無くす。



「やだなぁ……そんな顔、しないでよ。そうだなぁ……あっ!!それじゃぁ、ひとつだけ」
「……な、何だ?やっぱり欲しいもの、あるんだろ?」
やはり子供だ。サンタさんからのプレゼントに期待しないなんて、あるはずないさ。
そう思っていた俺の気持ちを、またも香の返事は、見事なまでに打ち消してくれた。
「うーん……欲しいモノって言うか……さ。お兄ちゃんと一緒に、クリスマスケーキが食べたいな」
「……か、香……」



事件に追われ、よその家族のようにまともにクリスマスを祝ってやれたことなど、稀だった。
さぞかし寂しい思いをさせてきただろう。
それなのに心配かけないようにと、寂しいの文句ひとつもこぼさずに堪えてきた香。
……我慢強い子になったものだ。
いや、幼い香を、ここまで大人びさせてしまったのは、外ならぬ俺自身か……。
自嘲の笑みをこぼす俺に、香が不思議そうな視線をよこす。



「……そ、そうか。じゃぁクリスマスは香と二人でケーキを食べような。約束だ」
香のためにも、年相応のコトをさせてやらなければ……と、
仕事とは違う、妙な使命感に燃えてしまう。
「んー……そうだね」
大事な予定はいつも仕事でドタキャンしてるのを十分理解しているだけに、
香の笑顔にも半ば、諦めの色が浮かんだり。
“無理しないでね?”という気遣いの色が、そのあどけない瞳からも見て取れた。



あぁ……香にこんな表情(かお)させるだなんて、俺ちばアニキ失格だ。
こうなったら、たとえ凶悪犯がたてこもろうが、誰か他のヤツに押し付けてでも。
今年のクリスマスは何が何でも。
意地でも早く帰らねば……と、覚悟を決めた。
何より大切な香の笑顔を守るためならば……。
そう、そのためなら、絶対にどうにかしてみせるさ……。



そしてそんな俺の願いが通じたのか、その年のクリスマスは何ら事件も起こらずに。
香と二人、ゆっくりとケーキを突くことができたのだった。
クリームいっぱいのスポンジと、大きなイチゴを幸せそうに頬張る香に。
来年も、再来年も。
他の同級生たちと決して同じにようにとは、いかないまでも。
この笑顔を、力の限り守ってやろう……そう思った。



          ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



年を重ね、香も中学生。
その物言いはともかくとして、兄の欲目にも、少しは娘らしい身体になりホッとしてみたり。
「……香?今年のクリスマスには何が欲しい?」
「えー?いらないよ。アニキの薄給で生活してくのがやっとなんだからさ。贅沢は敵っ!!」
「………………」
年相応になれば、それなりに欲しいものも出来るだろうに。
現にこの前、無理して時間を割いて出掛けた三者面談。
校内ですれ違う女子生徒の髪には、控え目ながらもレースのリボンが巻かれたり。
その口元には、薄紅色のリップクリームなぞがうっすらと引かれていた。



相も変わらず、欲の無い娘に育ったもんだ。
変に色気づいた巷の女子高生までとは、いかないまでも。
せめてもう少しおしゃれに興味をもち、ジーンズばかりでなく。
制服以外でもスカートの似合う女の子になって欲しいもんだ。
そうでないと……そうでないと。
お兄ちゃんは悲しいぞぉ~っっっ!!!(泣)




END    2008.12.24