●It's a birthday?●



都心からちょいとばかり外れた片田舎で、珍しく遊び甲斐のあるヤローどもと鬼ごっこ。
まぁ昔の俺たちに係わり合いがあったヤツだけに、あえて無駄な気を使わせてはと思い、リョウと二人。
女どもには内緒でこっそりと抜け出て来た。
……が、しかし……思いの外、遊び甲斐のあるヤツらで。
用意してきたバズーカーや手榴弾も、心なしか頼りなくなってきちまった。
くっそ……俺としたコトが情けねぇ。
それを見越したリョウが、いやらしげな笑みをよこしやがった。



「おい、海坊主。お前まさか、弾切れってんじゃぁねぇだろうな。……ったく、ちんたらやってんじゃねぇよ」
「……うるせぇ!元はと言えば、ヤツの目当てはお前じゃねぇかっ!!」
愛用のマグナムに装填するリョウの嫌味な視線に軽く返しつつ、残りの弾数を頭で勘定していく。
……ちっ……こうなったらもう、ちんたらやってるヒマはねぇな。
隣にいるリョウの顔をチラと見遣り、今日というその日付に思いを寄せた。
さて、いっちょ派手にやってやるか。



ふぅと一息入れ、ちまちま片付けるより、ココは一時に……と、ロケットランチャーを構え直したその瞬間。
あまりに間延びしたリョウの声が振り掛かった。
「まぁ俺としちゃぁ、最近退屈してたトコだから恩の字ってトコか?
ナンパばっかじゃ身体も鈍っちまうから、たまにゃいい運動しねぇとな♪」
「……バカな。今日はいつだか香が作ってくれた、お前の誕生日とやらじゃねぇか」
「……はん?」
「せっかく香がお前のために作った誕生日だろう。今だってお前を待ってるんだ。早く帰ってやれ」
「……るっせーよ」
ハナから他人の説教なぞ聞くヤツじゃぁなかったが、コト、香絡みとなると、その頑固さは人一倍。
いや……単に素直になれないだけの、あまのじゃく……か。



「リョウ……お前、そんなコト言って、あの日……香に誕生日を作ってもらった次の日のお前。
えらく浮かれてたやがったの。自分じゃぁ気付いてねぇだろ」
「………なっ?!」
あの日。
マリーとのコトで、まだ解決の糸口を見てない時分だったにもかかわらず。
口にこそ出さないが、リョウのヤツはえらく機嫌がよさそうで。
気になってそっと香に聞いてみたところ、件の誕生日の一件を聞かされたのだった。



己の素性を知らぬリョウにとって、その存在を認め、誰もがもつ"誕生日"というモノを作ってくれた。
それが口にこそ出さないが、曲がりなりにも初めて本気で惚れた女からの"それ"だとしたら……
浮かれちまうのも、仕方あるまい。
いつも好き勝手やってきたリョウという男の人間くさい一面を見せつけられて。
その気持ちの高ぶりが間近く伝わってきて。
ガラにもなくかわいいヤツ……と微笑んしまったことが、まるで昨日のコトのように思い出せた。



「日頃はそのシケた性格が災いして、感情を表に出さねぇだろうが。
今日この日くらいは素直になったらどうだ。お前のためじゃぁない。香のためにも……な」
「フン……お節介にも程があるぜ。るっせーよ、タコ」
「ふっ……そんな心にもないバカ言わねぇで、ココは俺に任せて、とっとと帰りやがれ」
そう言ってやれば、鼻歌まじりでマグナムを弄ってたリョウの動きが止まった。



「ンだよ、珍しく殊勝な物言いじゃねぇか。どうしちまったんだ?鬼ならぬ、タコの撹乱か?」
「バカ言うな。誰がお前の心配をしてると言った。俺は愛弟子たる香の悲しむ顔を見たくないだけだ」
「へへぇ~ん?まぁ、いいけどね。だがアイツも、少しは成長したようだし。
その性格から、黙って待ってるようなタマじゃねぇんだな、これが」
「………?」
と、その時。
いぶかしむ俺の耳に、じょじょに近づいてくる聞き慣れたエンジン音。
それとともに聞こえてきたのは、さらに身近く聞き慣れた、二人の女の声がだった。
「リョウーっ!!」
「ファルコーンっ!!」



香………美樹っ!!」
「ほれ見ろ。最近あのバカ天使のヤツ、すっかり口が軽くなっちまってさ。まぁ~た香のヤツに押し切られたんだろ」
俺の目には見えないが、その口ぶりから察するに。
どうやら窓から身を乗り出すようにしてる二人の車を運転してるのは、ミックのようだった。
心配かけまいと内緒で出て来たのが、返ってあだとなったようで。
二人に迫られ、しどろもどろに白状しちまったであろうミックの、肩を竦めた情けねぇ様が見える気がした。



そして次第に前方から近づいてくる車から「ファルコン…はいっ!!」という美樹の声とともに、ランチャーの弾が投げてよこされる。
「ひゅぅ~っ!さっすが、美樹ちゃん。タコのコトなら何でもお見通しってか?いやぁ~愛されてんな、海坊主っ♪」
「……うるせぇっ!!そう言ってやがるお前だって……」
「んぁ………?」
振り向いたリョウ目掛けて飛んで来たのは、香特製手榴弾と閃光弾。



「リョウっ!!いつもより火薬、少し多めにしてあるから気をつけてっ!!」
「うわっ……とっとっ」
愛用のマグナムを慌てて懐に入れたリョウが、飛び込んできた手榴弾たちを手早くキャッチした。
「弾みでピンが抜けたらどーすんだ、このバカっ!!」
「ごめーんっ!!あっちの方の下っ端は私に任せて。リョウはそっちに専念して!!」
と、言うが早いが、カラシニコフを肩に提げ、手製の手榴弾やら閃光弾やらを一抱えにして走り出す。



「ふふん……雑魚は片付けるから戦いに専念しろってさ。ははは…すっかり尻に敷かれてるじゃねぇか」
「ばっ……何言ってやがるっ」
「まぁまぁ、いいじゃねぇか」
「………ふんっ!!」
口では文句を言いつつも、「悪ぃ、美樹ちゃん。香のヤツがバカしないように、頼むわ」と、
茂みの向こうに消えて行く香の後を追う美樹に、素早く声をかける。
「……任せて♪」
美樹の声に、ふぅと苦笑まじりの安堵の吐息がもれ聞こえた。



「……てコトで、海ちゃん?不安だった装備もバッチリだ。俺の誕生日だの何だのと言ってるヒマはねぇぜ?
女たちの手前、ここまでされて。このまま尻尾巻いて敵前逃亡なんざ、男が廃る……だろ?」
楽しそうなその口ぶりからは、ニヤリと意地悪く微笑む表情(かお)がありありと目に浮かぶ。
「フンッ!!勝手にしやがれっ!!」
と、捨て台詞を吐けば、くっくと、いとも楽しげに笑いやがった。
「……よしっ!行くぞっ!!」
「そうこなくっちゃっ♪」



マシンガンを肩に掛け、美樹に寄越されたランチャー弾をしっかりと装備し直せば。
敵も一息入れてたのか、しばし休戦中だった木々の間から、また夥しい銃声が降り注ぐ。
それを軽くいなしながら、リョウと二人。
敵の総本山目指して走り出した。





END    2009.4.3