●chocolate kiss●



「学生に蔓延する麻薬の出所を潰してちょうだい」との、冴子からの依頼。

確かに昨今の大学生麻薬汚染にゃぁ頭が痛いが、
ネットで買った大麻種子を押入れと電気スタンドなぞで上手く育てちまうあたり、なかなか頭がよろしいようで。
(だって農学部とかなら話しは別だが、理工だの経済だのを勉強してるヤツらだぜ?
確かに違法行為じゃぁあるが、ンなみみっちいトコで草花を育てるなんざ、
それはそれですげぇ才能だろ、うん。)
まぁいっそのこと、「正しい野草の育て方」……なんてぇ本を書きゃ、百発百中、大当り。
印税がっぽり、左団扇でやってけるってぇモンだろう。



……で、当の大麻種子の出所だが、黒幕は大陸の、とある新興マフィアの一団で。
日本進出への足掛かりにと、たやすく手に入る利点を生かし。
まずは流行りモノ好きで日頃からインターネットを駆使してる大学生たちにと、触手を伸ばしたらしい。
それが読み通りうまくいったんだから、敵さんもほくほくだろう。
だが、あまりに調子づいたがために、すぐにそれと足がついちまったのも、若さゆえ。
ブツの出所をペラペラ喋っちまう口の軽さ……若さってヤツを計算に入れなかったあたり。
この世界で生きてくにゃぁ、まだまだだったってぇトコロかね。



そんなこんなで、大学生のたまり場だの何だのとあちこちさ迷い、ようやく見つけた闇サイト。
インターネットを通じての取引にもかかわらず、その存在をヤツらに広めていったのは、
はからずしも、口から口へという、実に古典的な手法だった。
どこのどんなヤツが受けるかわからない垂れ流しよか、
こいつは口を割らないだろうという、確実な人物チェックが必要だったんだろう。
だから当のサイトに辿りつくのに、意外にも手間取っちまった。
まぁ、その先は、とんとん拍子に黒幕まで辿りついたがな。



「どうにかバレンタインには、無事にカタぁつけられそうだ」
「……ほんと?」
そう伝えた香の声は、いつになく弾んでいて。
そのやわらかな微笑みを見ただけで、こっ恥ずかしい話、なんだかコチラまで浮かれちまった。
その声に、その笑顔に、闇雲に走り回って凝り固まった身体からふぅと力が抜けていったんだから……
ホント、天邪鬼な性格とは裏腹に、素直で正直な身体だぜ。(苦笑)



そしてバレンタイン当日。
夕方近くになって、ようやく帰り着いた愛しき我が家。
しばらくバタバタと忙しなくしてたせいか、何だかひどくホッとした。
玄関で笑顔の香に迎えられた時も、らしくもなく、笑顔で返しちまったり、な////



そしてまずは一息と、キッチンで熱いコーヒーを口にした。
その横で、大きなシチュー鍋を掻き回す香の背中を、じっと見つめる。
ただそれだけで心がホッとする何ざ……
俺ってば、いったいいつから、ンな乙女モードになっちまったんだ?(苦笑)
そんな俺の戸惑いも知らぬ香が、今にも笑顔がこぼれんばかりの声をその背中越しによこす。
「リョウが帰って来られるって言うから、張り切ってバレンタインのチョコケーキの他に、
お腹空かせてるだろうと思って、シチューもたくさん作ってたんだ。
もう少しで支度出来るから……とりあえず、お風呂入って来たら?」



自分で言うのも何だが、たまさかの熱心な仕事ぶりに、
とある部分が非常にというか……飢えに飢えていた俺。
シチューなぞ鍋ごと食ったって、この空腹感には追い付きゃしない。
シチューより何より、まず第一に。
俺には貪るように食っちまいたい大好物があるのだよ、香ちゃん♪(笑)



「ンな、つれないコト言わずにさぁ……一週間もオアヅケだったんだぜ?
俺が今、何食いたいか、わかってんだろ……?」
すでに飲み終えたカップをテーブルに置き去りにし、
どうしたってこぼれ出そうな意地の悪い笑みを押し殺しつつ、
元気よくシチュー鍋を掻き回すその後ろ姿にびたりと寄り添い、そっと囁けば。
「………なっっっ………///」
と、かわいらしい小さな耳を真っ赤に染めながら、大きな瞳がジロリとにらむ。
その表情(かお)すらも大好物だってこと……わかっちゃいねぇだろう。
だがまぁ、しかし、そこはとりあえず、おとなしくオアヅケを。
ここで機嫌を損ねたら最後、これから楽しみにしてるせっかくの夜が、すべてオジャンになっちまうからなv



「はいはい……わぁーったよ。先に風呂に入ります~」
今にもお玉を振り上げ、周囲にシチューを飛び散らせんばかりの勢いの香を、
寸でのところで軽くかわして返事を返す。
だがしかし……素直に従うのも、少々癪に障っちまって。
まずは、手付け。
無事に帰れたご褒美くらい貰ったってバチは当たらんだろう……と、
かわいらしく潤んだ大きな瞳の、その美しく赤く染まった目元に、
軽く唇を押し当てながら囁いた。
「とりあえず風呂とメシだが、その代わり……
夜はおとなぁ~しく、俺の言うコト聞いてくれよな、香ちゃん……?(笑)」
「………………っっっ/////」







その瞬間、目元ばかりか、首筋までも真っ赤に染め上げた香に微笑みつつ。
埃にまみれたジャケットを脱ぎながら、鼻歌まじりに風呂へと向かう。
何たって、今日は2月14日、バレンタイン。
恋人たちが、正々堂々とイチャついていい日、なんだろぅ?
ディナーのメインはこの際しっかりと、遠慮なく。
ベッドの上で、たぁ~っぷりといただくぜ……?
風呂場の鏡に映るそれに、我ながらしまりのねぇ顔だと思いつつ。
来るべき楽しい夜を思えば、くつくつと笑みがこぼれるのを止められなかった。




END    2009.2.11