●happy white flower●



午後も遅く、とっぷりと陽が暮れる頃。
毎度のことながら、ふらふらとナンパに出ていたリョウが戻って来た。
「たらいまぁ~」
玄関から響く声は、いつもより若干おとなしかったケド。
いつもなら夕飯の時間をムシしてまでフラついてるのが早く帰って来たのだから、
まぁヨシとしよう……と、特に何も気にとめなかった。

 

「おーっす。香ぃ、今日……」
「おかえり、リョウ。珍しく早いじゃない。いつもこれくらいにしてよね?今日は肉じゃがよ。もう少し待ってて?」
キッチンを覗きに来たリョウが、そのすべてを言う前に背中越しに返事を返し。
ぐつぐつと煮立つ鍋に箸を刺し、煮込み具合を確認する。
うん、いい感じ♪……と、背中にまだリョウの気配を感じて、呆れ口調で振り返った。
「……なぁに?待てないの?リビングにクッキーがあるから、少しだけなら食べていいわよ?」
そう言って振り返ってみれば、とある一点を凝視するリョウがいた。



「……何だ?これ」
「……え?あぁ、ミックからのプレゼントよ。ほら……今日はホワイトデーでしょ?チョコのお返しですって」
リョウの視線の先に据えられていたのは、花瓶に活けられた大きな花束。
リョウが出掛けてる間に来たミックから、チョコのお返しにと受け取ったものだった。
真紅を主に、赤ややピンクのバラがあしらわれ。
それらを囲むように、ウ゛ェールのような真っ白なカスミソウがふわりと揺れる。
冴えないアパートのリビングなどより、どこかの応接室が似合いそう。
そんな今にも花瓶からあふれんばかりの花々が、キッチンのテーブルの上で、堂々と自己主張していた。



「綺麗でしょ?ウチには似合わないくらいと思ったんだけどねー」
そう言えば、リョウの戸惑いがちの視線が気にかかる。
「……なぁに?どうかした?」と、小首を傾げつつ窺えば、その大きな背から見え隠れしたのは小さなブーケ。
私の視線に気付いたリョウが渋々というていで、己の前に差し出した。



「……ベっ、別に、お前に買って来たワケじゃねーからな?
花屋のオバちゃんが、売れ残って困るってぇから……適当にまとめてもらっただけだ」
「ふーん………」
そう返事を返すものの、リョウ自身がブーケを買ったのは、先刻承知。
"香ちゃん、リョウちゃんが花束買ってったよ。ホワイトデーは期待しなよ♪"
お節介が大好きなこの街のみんなのおかげで、さっきからそんな手合いの電話がひっきりなし。
ホント、ヘンな意味で有名人だから、その一挙手一動は注目の的。
この街で隠し事なんて、そうそう出来やしないのよね。



オレンジやピンクや白やらの小さな花々でまとめられた、かわいらしいミニブーケ。
きれいなレースペーパーで巻かれたその根本には、ぐるりと白いリボンがあしらわれてて。
真っ白なサテンのそれに金の刺繍で"ハッピーホワイトデー"と刻まれていた。
丁寧にラッピングされたそれは、誰がどう見たって、ホワイトデー用に作られた花束なのにね。(笑)



ミックからの豪勢な花束に対し、リョウからのそれはミニブーケ。
その差に戸惑い口ごもるリョウに、そっと微笑みつつ、にっこりと笑みを返した。
「……そうね。ウチにはこれくらいが調度いいわよね。
ミックからのは確かに綺麗だけど。あれじゃぁ何だか、ウチの中で浮いちゃって見えるわ……?」



そう言いながら肉じゃがを弱火にし、食器棚から手頃なピッチャーを取り出して活けていけば、
どこか気の張っていたその肩から、ほぅと力が抜けていくのが見えた。
「……は、ん。たまにゃテーブルに花があるってのも、いーんじゃねぇか」
そんな軽口たたくクセに、その目元口元が優しく見えるから、何だかこちらまで嬉しくなってしまう。



「……ありがとね、リョウ」
キッチンを出て行こうとするその背に、ひとこと呟けば。
「……んぁ~?俺は何もしてねぇぜ。
花屋のオバチャンに無理矢理花買わされて、なけなしの小遣い減っちまったんだ。飲みにも行けやしねぇ」
「……ふふっ。じゃぁ今日は、ウチでゆっくりご飯にしてちょうだい?肉じゃが、もう少しで出来るから」
思わず漏れ出る笑みをこらえながら、そう言えば。
「あぁ、ビールもな。たっぷり食ってやっから、早いトコ頼むわ」
と、背中ごしに手をひらひらとさせながらキッチンをあとにする。



まったく……どこまで口が重いんだろう。どこまで素直じゃないんだろう。
そんなパートナーに苦笑しながらも、日頃はひた隠しにしてるその想いを、
最近はこうしてさりげなくカタチにしてくれるようになったのが、何より嬉しい。



「まぁ……ね。好きだの何だのと、そう口に出されても、返って気持ち悪いわよね」
その性格を知り尽くしているからこそ、そんな風にも言えるようになったかな、と。
気付けばもう、ずいぶんと長い間傍にいるパートナーの存在を思う。
互いが互いを想いあう気持ちさえ確かなら、言葉なんていらない。
そんな確固たる自信を持てるようになった自分の成長に、くすりと笑みをこぼした。





END    2009.3.26