●願いをこめて●



今年のクリスマスは仕事で日本へは帰れないと伝えたトコロ、受話器のむこうから、ひどく残念そうな香の声がした。
「そう……それは残念だけど。でも私も色々と忙しいから、調度よかったのかもしれないわ?」
聞けば、かつて槇村さんがお世話をしていた、くるみハウスという孤児院の、クリスマス会の準備をするんですって。
何かと自分のコトばかりにしか目がいかない世間の中、恵まれない小さな子供たちにも、きちんと目を向ける優しい香。
そんな女性に育ててくれた槇村さんに、感謝ししてもしつくせない。
離れて暮らしていた間、香がどう暮らしているのか…
さみしく荒んだ生活の中、歪んだ物の考え方をする子になってしまったんじゃと、心配したけど。
そんな考えは全く必要なかったみたい。
槇村さんといい、冴羽さんといい……本当に香はいい人たちに出会えて、よかったわ。



「じゃぁ、せめてものお詫びに、こちらからもクリスマスの飾りを見繕って送るわね」
「……え?そんな……いいわよ」
戸惑いがちの香。
人に甘えない、そんな謙虚さも好ましいケド。
でも、たまには人に甘えるってコトもして欲しいわ。
だってこの世にたった二人、血の繋がった姉妹なんだもの。
「いいのよ。クリスマスはもともと、欧米のモノでしょ?
本場というワケじゃないケド、アメリカらしいクリスマスグッズを送るわ。私から子供たちにクリスマスプレゼントよ?」
「ありがとう……さゆりさん」
やわらかく、穏やかな声。受話器の向こう、嬉しそうににっこりと微笑む香の笑顔が目に浮かんだわ。



「さてと……これでいいかな?」
くるみハウス用にと集めた品々を最終チェック。
ウインクしてるトナカイや、フラフープしてるサンタクロース、
互いに頬をふくらませたりアカンベーをしたりと、にらめっこしてる天使たちのオーナメントは、NYの今年の流行り。
スパンコールやビーズをあしらったものは、きれいに光に反射してくれるハズね。
そして見るだけじゃなく、お腹も喜びそうなのも、忘れずに。
カラフルな包み紙のキャンディや、ハートや星型のメレンゲに。
スノーマンの形をしたジンジャークッキーも添えてみた。そ
れに点滅する明るくポップな電飾たちを絡めれば、きっと素敵なツリーが出来るハズ。
お腹も満たされるコト、違いないわ?



そしてそれらをきれいなラッピングボックスに収め、もうひとつのプレゼントのチェックに取り掛かる。
詳しくは知らないケド、冴羽さんもその生い立ちから、家族で迎えるあたたかなクリスマスを知らないと香から聞いた。
そんな孤独感を知っている二人だからこそ、惹かれあったのかもしれないわね。
明るく屈託ない性格の香のコトだから、クリスマスは仲のいいお友だちとパーティーかしら。
冴羽さんは歌舞伎町のお姉さんたちと、相変わらず派手で賑やかなクリスマスを過ごすんでしょうけど。
でも二人、夜にはアパートで静かなイウ゛を迎えるんじゃないかな。
ただの勘なんだけど……そう思う。



だから二人だけの夜のために……と、部屋の隅に置けるような、小さめのツリーを用意した。
あの二人らしい、あたたかなツリー。
木のぬくもりが優しく、木目も美しい手作りのオーナメント。
LEDなどの、近頃流行りの派手で華やかな飾りは極力抑えて。
その代わり、金糸銀糸のきれいなレースのリボンを巻きつける。
そうしたらほんの少しの光りでも、金糸銀糸に反射して。
くどくない、きれいで柔らかな光りになるわ。
もっとも、クリスマス当日が"仕事"でなければいいのだけどね。



「そうそう、コレを入れてあげないとv」
そう言いながら手に取ったのは、華やかなクリスマスの飾りの中では少し見劣りがちな、くすんだ緑。
ヤドリギの下でのキスは無礼講……そんなクリスマスの言い伝えを、香が知っているかはわからないケド。
冴羽さんなら間違いなく知ってるハズ。
人の出入りの多いあのアパートのコトだから、ヘタにリビングなんかに飾って欲しくはないのだけど。
(間違ってお向かいのミックさんと何かあったりしたら、大変でしょ?
まぁそれこそ、冴羽さんの嫉妬する姿が見られて、もっけの幸いだけど。それはやっぱり…ね。)
だからその点は間違えないよう、注意書きを一筆したためなくちゃ。



多分きっと、ヤドリギの意味を知らない香。
多分きっと、ヤドリギの意味を知ってる冴羽さん。
"この"説明を、どうするのか……。
「……ふふっ……これは見モノねv」
仕事で帰国出来ないとはいえ、この荷物が開封される、その瞬間だけは、見たいと思う。
「今から詰め込んでも……あぁ、ダメね。やっぱりクリスマスには間に合わないわ」
たまりたまった仕事を頭に思い浮かべつつ、カレンダーとにらめっこ。
でも、どうしたトコロで収拾はつかなくて、ふぅとため息をこぼした。
「仕方ない……か。ヤドリギさん?二人のクリスマスを、私の代わりにしっかりと見届けてちょうだい?」
テープで蓋をし、梱包を終えた荷物に宛名ラベルを貼付けながら。
さも重大責務を任せたとばかりに、たくさんのクリスマスグッズを詰めた荷物の肩を、ポンと叩いた。





END   2009.12.12