●ヤドリギだけが知っている●



「わぁ~すごい素敵っ♪」
"仕事が忙しくて今年のクリスマスは帰国出来ないから"と言うNYのさゆりさんから送られてきた、色とりどりのクリスマスの飾り。
それほど大きくない箱から、今にもあふれんばかりのそれらに、香は目を丸くして歓声をあげた。
電話中、香ががちょっと口にしたくるみハウスのコトを気遣って、
"ハウスのパーティーで使って欲しい"と、たくさんのツリー用の飾りを送ってよこしたのだった。
もちろん日本の流通のスゴさは知ってるが、そのどれもこれもが、NYらしいPOPでカラフルな明るいものばかり。
さすがはNY、自由の国だなと、意味のない感動をしたり。
そのくせそれらはけばけばしさも無く、選んださゆりさんの人柄がにじみ出るような、どれもあたたかみのある品々だった。



「ねぇ、リョウ。見て見て?これなんか、サンタクロースがフラフープしてるのよ?」
持ち前の大きな瞳をきらきらとさせながら、香が見せてよこしたオーナメントは、
真っ赤な帽子も口ヒゲも構わずに、サンタクロースが金色のフラフープを回しているモノだった。
「えぇ~?リョウちゃん、どうせ腰振るなら、ミニスカのサンタさんがいいなぁ~」
頭に浮かんだそのままを口にすれば、とたんに飛んで来るミニハンマー。
「……いてっ!!」
「さゆりさんに失礼でしょ!!……っとにバカなんだからっ!!」
そう言ったが早いが、プンと頬を膨らませて、また荷解きを始めた。
じゃぁお前は、本当にサンタのオヤジが汗かきながらフラフープ回してる姿が見たいのか……と、そう思ったが。
それを口にしたあとの慘状が目に浮かび、あえて口をつぐんだ。
……ったく…あの細い身体のいったいドコに、山のようなハンマーを隠してやがんだか。



「……っと、これ、何かしら」
「……あん……?」
戸惑いがちな声に視線をくれれば、色とりどりの荷物の中から引っ張り出した、くすんだ緑の一塊。
「あぁ、それは……」
クリスマス、ヤドリギの下に立った者同士のキスは無礼講……
そんな昔からの伝承とはいえ、ロマンチックなクリスマスに憧れる女性たちの間じゃ、結構メジャーな話で。
でもまぁ、あの槇ちゃんの下での、純粋培養とあっちゃぁ。
ンな色恋めいたモノとは無縁の、ロマンチックのカケラもない、慎ましいクリスマスだったろうから。
ヤドリギの存在なんざ、初耳だろう。



「ねぇ……何?知ってるの?リョウ」
「……………」
持ち前の大きな瞳を好奇心いっぱいに輝かせ、小首を傾げて問い掛ける様は可愛いが。
果たしてそれに、素直に答えていいものかどうか……。
クリスマスにキスなんざ、常にイチャイチャのバカップルどもにゃぁ、何等躊躇うコトもないだろうが。
海坊主と美樹ちゃんの結婚式以来、微妙なライン上にいる俺と香の場合、それは刺激が強すぎる。
そのいわれを告げたが早いが、香はその頬を真っ赤に染めて黙り込み。
そして俺も、そんな香にかける言葉もなく……気まずい空気が流れるであろうコトは明白。
そうなるコトがわかってて、あえて"コイツ"を送りつけてきたであろう、さゆりさん。
その思惑通りになるのも癪で、かといって、このままはぐらかすには、香が納得しそうもなく……俺はしばし、言葉を無くした。



「……た、単なる飾りだろ。リビングとか人の集まるトコじゃなく、お前の部屋に飾れってさ」
「えー?そんなコト書いてあるの?でも……そんなコト、何も英語で書いてこなくったっていいのにね」
「……クリスマスだから、それなりの雰囲気を出したんじゃねぇの?」
「……ふーん……?」
イマイチ納得いかないという顔ながら、渋々という体で、香は"そいつ"を自室に持ってった。
よしよし、これで間違っても"あの"下にミックと二人……なんてえ最悪のコトは、少なくとも回避出来そうだ。
……ったく、さゆりさんも迷惑なモノ送りやがって……。
そんな思いのままに、香はくるみハウスで子供たちと楽しんだ後、
美樹ちゃんやかすみちゃんたちとキャッツでクリスマスパーティーという名の飲み会を。
俺はといえば例年どおり、歌舞伎町の夜の蝶々たちと、華やかな乱痴気騒ぎをしたのだった。



そして、夜。
まだかろうじてクリスマス・イウ゛という深夜に足音忍ばせてアパートに帰れば、
一足先に帰宅していたパジャマ姿の香に出迎えられた。
「……遅いっ!!何時だと思ってるの?」
「ンだよ……世の中クリスマスだろ?こんな時くらいハメ外したっていーじゃねぇか」
「アンタはいつもハメ外しっぱなしでしょーがっ!!……もう、いいわ。お風呂沸いてるから、早く入ってらっしゃい」
「ふぁ~い……」
触らぬ神に祟りなしと、反撃する気もなく、そのまま風呂に逃げ込んだ。



「……リョウ?コーヒー飲むでしょ?」
「………あぁ」
熱い湯舟に浸かってとろりといい気分で上がれば、脱衣所の扉越しに聞こえる声。
それは思ったより穏やかで、帰宅直後の刺々しさがなくなった分、さらに気分が軽くなり。
まだ滴る髪をタオルで拭いながら、リビングへと足を向けた。
「よっこらせっと……ん?」
ソファに腰を下ろしながら、ふぅと上を見上げれば、そこにはあるハズの無いモノが存在してて。
思わず立ち上がり、素っ頓狂な声をあげちまったトコロへ、湯気のたったカップを手にした香が入って来た。
「お待たせ、リョウ」
「おま……っ、これ?!」
あろうことか、ソファの上、見上げたそこには、
うまいコト騙して香の部屋に飾られているハズのヤドリギが下げられていたのだった。



「………っ///」
俺の言葉に真っ赤になった香は手にした熱いカップを戸惑いがちにテーブルに置き、
俺と対峙するかのように立ち向かい、やがて意を決したように唇を開いた。
「……くっ、クリスマスには、ヤドリギの下でのキスは無礼講なんでしょっ?///」
そう言って目をつむり、真っ赤になって唇を突き出す香。
……ったく、色気も何もあったモンじゃねぇ。
どうやらキャッツでのパーティーで、さゆりさんから送られたヤドリギのその意味を、美樹ちゃんか誰かに聞いちまったようだ。
が、しかし…香がこういう態度に出てくるとは、予想外だった。おいおい、どーすんだよ、この状況っ!!(汗)



…が……香からのせっかくのお誘いなんて、この先もそうあるコトではないだろうし。
何しろ、超がつく程オクテの香からのアプローチ。
あの奥多摩以来、何かとそれらしい雰囲気から逃げ出していた香が、
今までの関係から、ようやく一歩、前へ踏み出そうと覚悟したのなら。
さゆりさんの思惑どおりになるのは癪だが……せっかくのそいつを無にしちゃぁ、勿体ねぇだろう、うん。
「……い、いいのか?ンなコトしといて、どうなるかわかってんのか?」
恥ずかしいコトに、思わず念押ししちまう、気の弱さ。
しかもその声まで上擦っちまうのは、共に二人が抱えて来た、長い年月の証というものか。
……こくん……。
真っ赤になりながら固く目を閉じ、それでも頷いてくれた姿がいじらしかった。



細かく震える身体をそっと抱き寄せ、緊張で額にはりついた茶色の髪をくしゃりと撫でて。
今宵……聖なる一夜となるか、想いのままに淫らな夜となるかは。
キリストだって聖母マリアにだってわからないだろうな、と。
そんな苦笑を唇の端にのぼらせながら。
瞳と共に固く閉じられたやわらかな唇にゆっくりと指を滑らせ、そのぬくみを確かめながら。
そっとそれに自分の唇を重ねた。





END   2009.12.24