●チョコレートタイム●



ひょんなコトから、今年のバレンタインは美樹さんやかずえさんたちと手作りしようというコトに。
心のこもった手作りを…といえば聞こえはいいケド、要は不況対策。
まとめて一括、材料費を少しでも浮かせようってコトなのよ。(苦笑)
でも材料は同じでも、もちろんデザインや形は各々の個性を出して、よ?
そして仕上げには、それぞれ想いの丈を伝えるメッセージを入れようってコトにしたの。



「……と、こんな感じ……かな?」
搾り器を手ににこりと笑う美樹さんのそれは、あの結婚式でブーケにしたホトトギスをあしらったビターチョコに、
ホワイトチョコとすみれの砂糖漬けでアクセント。
その中央にその花言葉から、"永遠"を。
「あら、素敵じゃない。私も……こんな感じ?」
そう言うかずえさんは、ミックの姓から、軽やかに舞うような天使の姿をあしらって、華やかに。
そのクセ言葉はシンプルに、その胸に抱くようにしたハートのプレートには"LOVE"としたみたい。
二人ともとても凝った造りで、海坊主さんやミックへの気持ちがあふれてるなぁと、思わず感心してしまった。



「……それで?香さんは?」
「……へっ?あ……っと、私は……」
ごにょごにょと、口を濁したくなるのも当然のコト。
だって私が作っていたのは、オレンジピールをふんだんに使い、ブランデーの風味を加え。
極端に甘いモノが苦手なアイツにと、味こそスッキリとしたモノにしたケド……ずばり、ハンマー型のチョコだったんだもの。
毎年毎年、人が懸命に考えあぐねた末のものに、これでもかとケチつけられたら……いくら温厚な私でも、さすがにムカつく。
だから美樹さんやかずえさんには悪いケド、二人ほど心のこもったものはつくれない。
もちろん、胸に渦巻く想いは多々あるけれど……それを無下にされるくらいなら、こちらもそのつもりで手を打たなくちゃ、でしょ?
傷つきたくないための、自己防衛とでも言ってちょうだい。
"えり好みせず仕事しろっ!!"……なんて怒りの気持ちなら、それこそ最大限に込めてるんだケドね。(笑)



「香さん……これ……っ?」
「……じょ、冗談よね、香さん。これじゃぁあまりに、冴羽さんがかわいそうだわ?」
100tの字もしっかりと、意外にかわいく出来たハンマー型チョコに、ちょっぴり自慢げだったんだけど。
やっぱり美樹さんやかずえさんには驚かれ……というか、不評だった。
いや、酷評というべきかしら。
形はともかく、味的には文句ないシロモノだと思うんだけど……やっぱり、な反応。
「……あら、冗談なんかじゃないわ?本気よ、本気!」
フンッと鼻息荒く仁王立ちする私に二人はそれ以上何も言い返せず、
ふぅと重たげなため息をこぼした後、揃って諦めたように、がっくりと肩を落とした。



「……それで?チョコレートに書く言葉はどうするの?」
ハンマー型チョコを見てひどく落胆した美樹さんだけど、せめてもという希望的な眼差しをよせてくる。
「ん~……そうねぇ……」
チョコを作ってる間は、怒り奮闘で気にしてなかったケド。
そうねぇ……どうしようかしら。
数年前は気恥ずかしくて、"お義理"なんて書いちゃったケド。
確かあの時、リョウのヤツ。
「は……ん。義理で結構!間違ってもお前から本命チョコなんざ貰った日にゃ、リョウちゃんショック死しちまうからな。
ところでコレ…胃薬は必要ねぇんだろうな?」
なんて嫌味たっぷりにほざいて、笑いながら食べてたっけ。
くっそぉ~っ!!今、思い出しても、腹が立つぅ~っ!!(怒)



「か……香さん?」
「急に恐い顔して……いったいどうしたの?」
「……あ、あはははは~……。えーっと、何でもないわ。うん、何でも。ただちょっ…と…嫌なコト、思い出しただけ」
急に眼光鋭く、今にも雷を落としかねない形相の私を見て心配した二人に、大丈夫と笑みを作りながら、掌をひらひらと振る。
"また冴羽さん絡みね""うん、きっとそうよ"と、ごしょごしょと内緒話し。
おー……い、当たってるケド、丸聞こえよー。(苦笑)



「香さん……?よかったら話し、聞くわよ?」
「そうよ。どうせまた、冴羽さん絡みなんでしょ?」
「美樹さん…かずえさん……」
二人のあたたかな瞳が嬉しくて、先程思い出した記憶を口にすれば。
「あら、それは冴羽さんが悪いわよ」
「同感!冴羽さんもいいオトナなんだから、言っていいコトと悪いコトの区別くらい、つけて欲しいわよね」
うーん…同情してくれるのは嬉しいんだケド。
パートナーに対してこんな悩みを持たなくて済む二人に、そう言われるのは、何だかちょっと……
羨ましくて、変な劣等感を感じてみたりして。
我知らず、「……ふぅ」と、ため息がこぼれ落ちた。



「……大丈夫よ、香さん。そんなの、もう何年も前のコトなんでしょ?
今はもう、お互い、かけがえのないパートナーだってわかってるんだから。冴羽さんだって、そんなバカなマネはしないでしょうよ」
「そうよ?それでもし、また今年も冴羽さんがバカなコト言ってきたりしたら……。
その時は、私たちがとっちめてやるわ?ね?美樹さん♪」
ええ、と、かずえさんと共に美樹さんがにこりと笑う。
あぁ、本当に、何てひとたちなのかしら。
「……ありがとう、美樹さん、かずえさん」
気持ちを伝えるうまい言葉が見つからず、ただ、ありがとう、と。短い言葉、それだけを伝えた。



「ねぇ……私、今、ちょっといいコト思いついたんだけど」
「……なぁに?」
と、首を傾げる美樹さんと私に、ミックが愛してやまない、日本人特有の黒い瞳をきらりと輝かせて、かずえさんがにこりと笑った。
「"義理"でダメだったなら、いっそのコト……今年は"本命"って書くのはどうかしら」
「え~っ?!」
予想外の提案に驚き、声をあげる私に反し。
「あら……いいじゃない?それ♪」
と、ぽんと手を叩いたのは美樹さんで。
当のかずえさんは、楽しそうににこりと笑った。



「いい機会よ、香さん。冴羽さんを見返すチャンスよ」
「チャンスって言うのは大袈裟だケド……いいきっかけには、なると思うわ?」
……え?あの、えっと…本当に?
まだ状況が飲み込めない私は、しどろもどろ。
でも二人は、そんな私のコトなど気にもとめず、着々とコトを運ぼうとしてるのは明らかだった。
「何言ってるの、香さん。このごに及んで逃げ腰だなんて……そんなのダメよ。この際、ハッキリさせなきゃ」
「そうね。あなたたち二人、くっつきそうでくっつかないのは、どこかお互い、遠慮しあってるからなのよね。
でも……照れ屋なのはわかるケド、いつまでもズルズルとしないで。互いの気持ち……ココでハッキリさせた方がいいと思うわ?」
ズハズバと言いたい放題のかずえさんに、着々と理論で攻めてくる美樹さん。
二人を相手に、逃げられる可能性は……ゼロ、よね。(泣)



「えっと……確かに二人の言うコトも、一理あるケド。そうは、思うんだケド……でも……でも、よ?
そ、そうは言っても、そんなのいったい、どんな顔して渡せばいいのっ?!(爆)」
そう口にしたとたん、ボンッと、顔が真っ赤になって。
頭の上から、シュウシュウと湯気が噴き出してしまった。
「あらやだ、香さん。どんな顔って……そんなの気にするコトないわよ」
「そうそう。何も考えず、チョコと一緒に、そのままの香さんの気持ちを伝えればいいのよ。
変にかしこまったりしないで、いつもの香さんでいれば、大丈夫」
「そう!冴羽さんだって、飾らない、そのままの香さんを愛してるんだと思うわ?」
「あっ……あい……っ?!///」



うろたえてばかりの私を置いて、二人の話しはポンポンとまとまって。
「とにかく……ハイ♪」と、デコレーション用のチョコペンを握らされて。
二人が見てる目の前で、ハンマーを模ったチョコの、100tの文字の、その下に。
"本命"の二文字を刻みつけるコトになってしまった。
「ふぅ……っ」書き終えて、緊張がとけたのか、大きなため息をつく私に反し。
美樹さんとかずえさんは、満足そうな、会心の笑みを浮かべていた。
「うん……完璧♪」
「そうね、はじめはハンマーなんてどうかと思ったケド。
香さんの気持ちがいっぱい詰まったハンマーを、甘んじて受けなさい!!……って感じよね?」
手を取り合って、きゃいきゃいとはしゃぐ二人。
ねぇ?応援してくれるのは嬉しいんだケド……やっぱり何か、楽しんでない……?
そんなコトをチラと考えつつも、口には出せず。
たった今、自分で書き上げた二文字を見つめ。ただただ、頬を赤くそめた。



本当に……このチョコ渡して、大丈夫かな。
確かにこの前のコトは、今思い出してもムカつくケド……。
だからって、イキナリ"本命"ってのは……うっわ。
考えただけで、また顔が熱くなっちゃった。(汗)
でも……でも。
やっぱり美樹さんやかずえさんの言うとおり、そろそろ、ハッキリさせないといけないのかな。
いつも何だかんだと言い訳めいて、私の気持ちから逃げようとするリョウだけど……。
これを持って、正々堂々、真っ向から勝負したら。
そしたらリョウは、どう応えてくれるかしら。
逃げずにちゃんと、向き合ってくれる?
はぐらかしたりしないで、ちゃんとリョウの"ホントの気持ち"を、教えてくれる……?



予想もつかないコトに、頭の中はグルグルと。
でも……これを機会に、周囲ばかりか、当の本人たちにもあやふやなままのこの関係を、どうにかしたいとも思う。
「怖がって逃げちゃダメ、ってコトよね……」
「そうよ、香さん!ようやく"その気"になった?」
「大丈夫!香さんからココまでされちゃ、冴羽さんだって逃げようがないわよ♪」
思わずぽつりと口をついたセリフに、美樹さんとかずえさんが嬉々とした顔を見せて。
それまで躊躇していた私も、ためらいがちながらも、どうにか笑みを返すコトが出来た。



「そう考えたらハンマー型のチョコってのも、香さんらしくて正解だったんじゃない?」
「そうね。香さんの本気の入ったハンマーを受けてみろって感じよねv」
「さぁ、香さん?そうと決まれば、ラッピングにも気合いを入れなきゃね」
「そうよ。これからが最終ラウンド、最後の仕上げよ?
あぁ~…あの冴羽さんが、いったいどんな顔するのか楽しみね。さぁ、頑張りましょうv」
それぞれのパートナーへのチョコのコトなど、まるで忘れたかのような二人に、戸惑いがちにも微笑んで。
"その時"を想像して頬を赤らめ、胸をドキドキ震わせながら。
予想外に重大な役目を担うコトとなったそのチョコを、恭しげにパッドから取り上げた。





END   2010.2.14