●二つ並んだ歯ブラシ●



買い物のついでに立ち寄った、ドラッグストア。
古くからある、老舗薬局と言っても過言ではないんだケド、やはり時代の波に添ってなのか、ドラックストアの名を掲げていた。
歌舞伎町の中に店を構えるだけあって、ドリンクやら錠剤やら、怪しげな栄養剤のラインナップは、よくぞここまでと舌を巻くほど。
でも笑顔の優しいおじいちゃん・おばあちゃん店主夫妻は誰でもあたたかく迎えてくれるので、
つい気を許して、いろいろと相談してしまう。
ある意味、歌舞伎町の名カウンセラーとも言えるんじゃないかしら。



ハードな仕事柄、消毒液やら絆創膏、包帯なんかは、いくらあっても困らない必需品で。 悲しいかな、毎日のようにちょこちょこと使っては消耗してる。 だからいざという時に切らさないよう、セールの時はまとめ買いとかしているけれど、 常にあるものとして使ってるから、気付いた時には底を尽き、どうしたって足りなくなっちゃうのよね。



アパートに残るストックを頭に思い浮かべながら、あれやこれやと足りないものをカゴに入れていけば、 決して重くはないものの、それらはみな嵩張るものばかりで。 いつしか「よいしょ」と声をかけたくなるくらいになったカゴを見て、 店主夫妻が"相変わらずだね"というように、優しい笑みをよこした。 さて、これで忘れものはないかな、と、指折り数えながら、「あ、そうだ」と、とあるコーナーにくるりと足を向けた。 「そろそろ毛先が開いてきてたのよね。え~っと……」 色も長さも、ずらりと居並ぶ歯ブラシたちにぐるりと視線を走らせて、しばし逡巡。 そして思わずにこりと微笑みながら、満足のいく2本を手に取った。



まず私用のは、毛先やわらかめで、奥までしっかり磨けるヘッドが小さいタイプ。 奥歯の奥の、狭いトコロまでキチンと磨かないと気持ち悪いから、どうしたって小さめヘッドは譲れないの。 だから狭いトコロでも動かしやすいよう、よくしなる、やわらい毛先が好みなのよね。



一方のリョウのは、しっかりかための大きめヘッド。 なんたって馬車馬なみに食べるヤツだし、敵を相手に身体を駆使するから、奥歯への負担はかなりハード。 しっかりと噛み締めて最大限の力を出すためにも、歯みがきをはじめとした噛み合わせは何より大事。 だから普段はズボラを絵に描いたようなヤツだけど、リョウは意外にも、かなりこまめに歯を磨いてるの。



でもあの性格だから、毛先のかたさとかはいっさい気にしたりしないけどね。 がしがしと、見ているこっちが思わず顔をしかめるくらい力強くしないと、磨いた気がしないみたい。 だから毛先はかためながらも、少しでも歯や歯茎の負担にならないよう、 一時(いちどき)に広範囲を磨けるようにと、通常よりも大きめヘッドをチョイス。 普段、何気なく歯を磨いてるみたいだけど、私がこんな細かいトコロまで気遣ってあげてるってコト…… 少しは気付いて欲しいんだけどな。



一日のはじまりをすっきりとスタートさせるべく、爽やかなクリアカラーのピンクとブルーを選んだ。 洗面所のガラスのコップにさせば、差し込む光りにきらきらと輝いて、きれいだろうな。 いつもそっけないばかりの誰かさんに期待するのは無理だから、 せめて歯ブラシくらいは、仲睦まじい恋人同士のように寄り添わせてみたい……。 そんな乙女ちっくな自分にくすりと笑ってしまうケド、たまにはそんなコト考えるくらい、いいわよね?



こちらの気持ちなんか、これっぼっちも気付かずに、美人を見ては、にたりと笑い。 仮にも人間だってのに、見えない尻尾をブンブン振って、勢いよく追っかけてく…… そんな、どうしようもないバカなヤツなんだから。 でも……それでも想う気持ちは、止められなくて。 ねぇ、リョウ……? お願いだから、そろそろ気付いてよね? ……と、どこまでも朴念仁な誰かさんの代わりに、ブルーの歯ブラシをこつんと小突いた。




END    2016.3.16