●HAPPY BIRTHDAY!!●




ストーカーを振り払うために、婚約者のフリをして欲しい……
そんな依頼が飛び込んできたら、恥ずかしながら、担当は、

へらへら笑うリョウしか思い浮かばないんだケド、今回は逆。
なんと私への依頼だった。
絵梨子を介しての依頼じゃ断るわけにもいかず、気乗りしないままに渋々と。
だって名だたる名家の婚約者だなんて、替え玉であっても緊張するものなのに、よ?
それなりの旧家だったから、婚約披露のガーデンパーティーもかなりの規模を予想してたんだけど、
そういう裏事情を含んで、親しい親族友人たちだけの、こじんまりとしたものに。
でもまぁどうしたって、私たち庶民の言うトコロ以上の"こじんまり"なんだけどね。



そして人込みに紛れ込み、件の婚約パーティーへと乗り込んできたストーカー女性。
劇薬を手に忍び込むなんて、予想もつかない過激な行動に出たけれど、
ひそかにリョウが手をまわしてくれたおかげで、
速やかに冴子さんの手に引き渡すコトが出来て、一件落着。
やれやれ、だったわ?
「香さん……今回のコトで、魅力的なあなたに惹かれてしまいました。
このまま真剣に、結婚を前提に、お付き合いしてもらえませんか?」



内情を知るパーティー出席者の方々が帰り、肩の荷を下ろし、
やれやれと庭先の噴水に腰掛けていた私に、
"婚約者"たる依頼人からの、唐突の申し出。
「……えっとぉ……えっ、えぇっっっ?!」
告白なんて、そんなシーンに場慣れしたコトのない私が、
"婚約者"を前にドギマギしてる間に。
むんずと掴まれた腕のままに、そのまま後ろに引き寄せられた。



「……仕事は片付いた。そろそろこいつを返してもらおうか」
「……リョウっ!!」
「依頼料は約束どおり、振り込んどいてくれ……じゃ」
呆気にとられる依頼人をヨソに、有無を言わさず腕を取られ、
ずんずんと進むリョウに、引きずられていくようについて行く。
「……ひゃっ」
駐車場に停められたミニに押し込まれ、無造作にドアを閉めようとするリョウ。
私は着ていたドレスが引っ掛からないようにと、慌ててドレスの裾をたくし上げ、
その瞬間……バックミラーに映ったものに、目を奪われた。



ただでさえ狭いミニのバックシートに置かれた、花束とケーキの箱。
そのどちらにもきれいなリボンが掛けられて、狭い車内に似つかわしくない、
その鮮烈なまでの色鮮やかさが、私の視線を捕らえて離さない。
「……え……?」
「……今日はお前の誕生日だろ?ンな日に仕事なんかしてられっかよ」
「……リョウ……っ!!」
言葉を紡ぐ前に、くしゅんと身体を震わせる。
絵梨子に無理言って用意してもらった、婚約披露パーティーに相応しい、華やかなドレス。
パーティー用にと肩を剥き出しにしたそれは確かにきれいだけど、
さすがにこの季節には、まだ少し早かったみたい。
「……ったく、これだから……ほれ」
そう言って、着ていたコートを脱いで、ふわりと私に羽織らせる。
コートに残るリョウのにおいと温かさに、身体の力がほぅと抜けた。



「……ったく。ンなに似合ってなきゃ、あのクソヤローの選んだドレスなんて、とっとと脱がせちまうんだがな」
「………っ///」
“婚約者”の意向で、二人並んで対になるようにと、色をそろえてあつらえたドレス。
絵梨子の手によるものだったから、そんなに気にしてなかったハズなのに。
素っ気無いフリしたけど……実はそんなに気にしてたの……?
普段はそんなコト言ってくれないクセに、
こんな時だけ、欲しかったセリフをさりげなく口にするんだから……ホント、リョウってズルイ。



真っ赤になって何も言えないままに、リョウの顔をじっと見つめれば。
少し照れたようなリョウが、頭をポリポリとかきながらエンジンをかけ、
視線を前へと走らせながら、ゆっくりとハンドルを切り出した。
何気なさを装ってるけど……リョウの気持ちが手に取るようにわかって、何だかくすぐったい。
「でも……どうせ帰ったら脱がす気、なんでしょ?」
リョウその性格を知っているだけに、先読み可能な、その後の行動。
さりげなく視線を流せば、瞬時、驚いたように目を見開いて。
そのあと、当然とばかりに、ふふんと笑った。



「……香ちゃんも言うねぇ」
「……まぁ、ね。何年アンタのパートナーやってると思うのよ」
「……確かに(笑)」
有名スィーツ店のケーキの箱に、決して小さくはないバラの花束。
普段照れ屋なリョウが、いったいどんな顔して手に入れたのかしらね……?
一緒にいられるだけで、幸せな人。
今日この日は、何より誰より、一緒にいたい人……。



「帰ったら仕切り直しだが……誕生日、おめっとさん」
ハンドルを握りながら、チラと視線をよこすリョウに、くすりと微笑み。
「ありがと」と返しながら、その肩にもたれれば、
ハンドルから離した左手に、ぎゅっと抱きしめられた。



楽しいコト、辛いコト。
いろいろあった今日この日。
そしてまた、新たな3月31日が始まろうとしていた……。





  ~Happy birthday  Kaori~
                (倫さんよりのいただきものv)


END    2012.3.30