●赤ずきんちゃん気をつけて●



「はい、完成……っ」

と言って、絵梨子さんにポンと肩を叩かれ、
ようやく長きに渡った拷問の時間(とき)から、解放された。
コトはいつもの、彼女のおせっかいから始まった。



クリスマスを前に開かれた、来春向けの、エリ・キタハラ春夏コレクション。
例によってモデルの一人に狩り出された香は、春夏向けの薄手のニットやドレスを身にまとい。
周囲にこれみよがしの笑顔を振り撒きやがるから、勘違いして楽屋口に押しかけるバカどもや、
出待ちして後をつけようとするストーカーまがいのヤローどもをかわすのに、こちとらえらい苦労したぜ。



そんなコレクションも無事終わり、例によって、振り込まれた依頼料の他に+αとして、
俺たち二人にクリスマスだからと送られてきた招待状。
出向いてみれば、クリスマス用の衣装を用意したとかで、
俺と香はそれぞれ別々の控室へと押しやられちまった。
「だってあなたたち、放っておいたら、恋人らしいクリスマスなんて、しないでしょ?
香が遠慮して諦めるのはともかく、冴羽さんは絶対に気付かないフリしそうだし」
「……」
俺と香の何を知ってるんだと言いたいトコロだが、当たらずとも遠からずという感じで、言葉もない。
「だからこうして、お膳立てしてあげてるんじゃない。ありがたく思いなさいよ?」
ふんと腕組みしてじろりと俺を見下す様は、機嫌の悪い時の香そっくりだった。
いやいや、どーせなら、腹の足しにもならないドレスやスーツなんぞより、
その分、現ナマでいただきたいトコロだがな。



「じゃぁ、香が先にクラウンタワーの前で待ってるハズだから、よろしくね」
「何だよ、わざわざ待ち合わせなんざ……」
ぶつくさと文句を言いたいのに、きっちりと締められたタイが息苦しい。
隙を見て、そっと人差し指を差し込んでみるが、
いち早く目にした絵梨子さんのデザイナー根性に、
すぐさま(しかもさっきより更にきつめに・爆)手直しされちまった。
「……減るモンじゃないんだし、クリスマスくらい、恋人たちらしい雰囲気出しなさいよね。
香の支度のが時間かかるけど、冴羽さんが女性スタッフをからかってる間に着々と支度してったから、
意外にも早く仕上がったのv」
「はぁ……」




「香はあなたみたいに往生際悪くないですからね。
それに冴羽さんの方はスーツ来て、ちょこっとヘアをいじるだけだし?そんな時間もかからないもんね♪」
「……モトがいいから、いじりがいが無いだけだろ?」
ふふんと前髪をかきあげれば、「あーっ!!人がせっかく整えたヘアスタイルを台なしにしないでっ!!」
と、怒鳴られて、またブラシでがしがしと直され、あまつさえヘアスプレーまで吹き掛けられた。
「はい、いいわよ。さぁ、バカ言ってないで、早く香のトコに行ったらどう?
早くしないと、きれいな香に目をつけた男たちに、さらわれちゃうわよ?」



嫌味ったらしくほくそ笑む絵梨子さんを尻目に、言われたとおりクラウンタワーに向かえば、
大きなウインドウに背を預け、パティオに聳え立つように飾られたクリスマスツリーに、
うっとりとする香がいた。
深い真紅のコートはシックで大人っぽく、それでいて、襟元の真っ白なファーがかわいらしさを覗かせるが、
煌めくイルミネーションに目をきらきらさせる姿は、まるで子供のようで。
小首をかしげ、流れるクリスマスソングにほんのわずかに身体を揺らすその姿は、まるで童話の赤ずきん。
それでいて、襟元から覗く真っ白な肌は、下に着たドレスが深い襟ぐりの、
かなりセクシーなものだという証拠。
ポリューム感あふれる襟元のファーに対し、ほっそりとしたボディラインは、
街行く男どもの目を奪うにゃ充分だった。



魅惑的な唇から白い吐息を漏らす様は、すでにいっぱしの女のそれで。
その唇の動きを読めば、"リョウ遅いな……"と、
己の名前が彼女の唇の上を滑る様が、何ともくすぐったい。
それでいて、彼女の心の内を占めているのが俺だというコトが誇らしく、思わずそっと、笑みをこぼした。
折しもクリスマスらしく粉雪が舞い始めたせいか、寒さに朱く色づいた頬が、かわいらしさを。
絵梨子さんの腕により彩られた、濡れたような朱い唇が、艶めいた色気をかもしだしていた。
普段はボーイッシュというか、どこか中性的な雰囲気の抜けない香だが、
今日は絵梨子さんの手によって、見事に変身。
道行く彼女連れの男までもが、すれ違うたびに、その姿に食い入るように視線を走らせるほどだった。



やれやれ、俺だけが知ってりゃぁいいものの……と、知らず、ため息がこぼれる。
あんなカッコして街中に立たせたら、舌なめずりするヤローどもの餌食になるのは、一目瞭然。
絵梨子さんも少しは考えて欲しいモンだぜ……と、グチる間にも、
勘違いしたバカどもが香に近寄って、何事かを囁いている。
普段あれだけ俺を罵倒するクセに、言い寄られるコトが無いから、戸惑うばかりの香。
まぁそれも、普段から俺が暴力女だの男女だのと言ってるせいもあるんだろうけどな。(苦笑)
そうこうする内にも、勘違いヤローはその細腕を掴み、香をどこぞへと連れ出そうとしやがる。
おいおい、お前なんかにゃ過ぎた女だってのがわからんのか?



「……俺の女に何か用か?」
「……リョウっ!!」
精一杯ふてぶてしい態度で凄みを利かしてにらみつければ、
言葉もなく、真っ青になって、一目散に逃げて行く。
ふんっ……足先にも引っ掛からない、つまんねえヤツ。
香はそんな根性もないヤツが触れていい女じゃねぇんだよ、
その気があったら、顔洗って出直して来いってんだ。
喜んで相手してやるよ。



「リョウ、そのカッコ……」
「あぁ、絵梨子さんにしてやられたよ。お前もだろ?」
上質なコートの襟元から覗く、らしくもないディナージャケットに目を丸くした香だが、
そう言われて己の姿を見、「でも……似合ってるよ?///」と、小さく呟くが早いか、見る間に頬が染まってく。
そんなところがかわいくて、軽く整えられた茶色の髪をくしゃりと撫でた。
「ご丁寧にも、ホテルのディナーを抑えててくれてるらしいが、それまで間があるし……どうする?
イルミネーションでも見ながら、少し歩くか?」
すっと腕を出せば、うれしそうに腕を絡めてくる香が愛おしい。



コートのポケットには、絵梨子さんのそれとは別に用意しておいた、小さな箱が転がっている。
絵梨子さんにゃ悪いが、俺だってやる時ゃやるのさ。(笑)
その小さな感触を確かめながら、さらにとびきりの笑顔が見れるその瞬間を思い浮かべ。
らしくもなく、今夜だけは……と、二人、
街中の恋人たちの波に紛れるように、冷たい夜気の中へと歩き出した。




END    2012.12.23