●snow chocolate●



関係が変わって、はじめてのバレンタイン。

いつもは心を隠し、めーいっぱい「お義理モード」のチョコを、
照れ隠しも手伝って、「くれてやる」的な態度で渡してたけど……。
さすがに今年は、そうもいかなくなってしまった。
私的にも、今まで隠してきた想いの丈を詰め込んだチョコをあげたかったし。
何より、漆黒の瞳をこれでもかときらめかせるリョウの期待を、裏切るわけにはいかなかったの。



甘いモノが苦手なリョウを思って、甘さは控えめに、
ブランデーを加えながら、ビターなダークチョコレートをゆっくりと溶かしてく。
どうしようかと散々迷った形は、ちょっぴり気恥ずかしいハート型。
そしてつややかな光を放つ表面には、真っ赤なチェリーをトッピング。
上から軽く粉砂糖を散らせば、真っ白な雪の上から、
ちょこんとチェリーがはにかんだような顔を覗かせるのが、かわいらしかった。
いつもの私らしからぬ、いかにも乙女チックな感じのチョコに、気恥ずかしさが先に出る。
こんなの渡して大丈夫かしら……と思いつつ、渡した時、
リョウはいったいどんな顔するかしら、と、思わずくすりと笑みがこぼれた。



ギフトボックスに詰めて、ほんのり桜色の、やわらかなオーガンジーの包装紙できれいに包んで、
仕上げには気恥ずかしいほどの、真っ赤なリボンをきゅっと結んだ。
なけなしの、それでも、めーいっぱいの気持ちを詰め込んで用意した、精一杯のチョコレート。
でも、さすがに面と向かって手渡すのは恥ずかしいから、
リビングのテーブルの上、いかにも読み止しのそれのように、新聞紙を乗せてそっと隠して。
逸る気持ちを必死に隠して、夜の巡回に出かけてったリョウの帰りを待った。



「たっだいま~♪」
外の寒さも何のそのという、間抜なほど陽気な声を響かせて、
どでかい紙袋にわんさと入れたチョコを、これみよがしに見せびらかせながら、
リョウがリビングに入って来た。
ふふんと景気づけの鼻歌なんかがいつもより耳に障るのは、私がぴりぴりしてる証拠かしら。
それでも、こちらのそんな気持ちをカケラも察するコトの出来ないヤツは、
リビングに入るやいなや、戦利品の数々を、勢いよく、
まるで私の嫉妬心をあおるように見せびらかしながら、
テーブルの上にざばざばとチョコを広げていった。



そして、私の精一杯の、ありったけの気持ちを込めたチョコレートはといえば、
まるで天から降ってきた、星の数ほどのチョコの山の中に……悲しくも、姿を消していったの。
「いンやぁ~……リョウちゃんたら、もってもて♪困っちゃぁ~う♪」
そのゴツイ身体のどこから出て来るんだという、クソ甘ったるい声を出し、
身をくねらせながら、こちらの様子をちらりとうかがう。
「……そう。よかったわね」
「お……おぅ。でも……肝心要の本命からのを、まだもらってないんだけどな~」
予想外に冷ややかな声が返ってきたのに驚いたのか、一瞬怯んだものの、
それでもめげずに、つんつんと、太い指先で人のほっぺたを突いてきて。
にやりと意地悪く微笑む様が妙に色っぽくて……悔しいったらありゃしない。
でも、当然もらえるだろうと思ってソファに踏ん反り返ってるその態度には、
さすがの私もブチ切れた。



「……こンの、あほんだらがぁぁぁ~っっっ!!!(怒)」
「……っひゃぁぁぁぁぁ~~~っっっ!!!」
かわいさあまって、憎さ百倍……いやいや、数億倍。
天文学的数値の怒りをこめた、バレンタイン特製、
通常よりトゲトゲ3割増しのこんぺいとうを振り落とせば、
「……どっ……どし、て……?」
と、その下からか細い声と共に、ひくひくと動く指先が……ぱたりと落ちた。



「その脳ミソ入ってないバカ頭冷やして、よぉ~っく考えなさい。ふん……っ!!」
力をなくしたそのガタイのいい身体を、ロープでグルグルとふん縛って、
簀巻きにした“それ”を、ベランダの手すりからポイと放れば。
降り始めた粉雪が、見る見るうちに漆黒の髪を白く染めていく。
ちょっぴり可哀想かなとも思ったけど……乙女心を踏みにじった罰、よ。
反省するまで、絶対絶対、許してやんないんだからっ!!



「……か、香しゃぁ~ん……?」
情けない声を振り切って、ぴしゃりと窓を閉める。
こんなハチャメチャな私たちにも、いつかは巷の恋人たちのような、
甘いバレンタインを過ごせる日がくるのかしら……と、
私にはちょっぴり強めのブランデーの効いたハートのチョコを、パキリと割って口に放った。



END    2014.2.14