●BIRTHDAY TRIP●



「ふぅ……。思ったより長くかかったわね」
久々の依頼で、思いがけず郊外の依頼人宅に泊まり込むことになって、気付けば2週間余り。
その間にリョウの誕生日も過ぎてしまい、ようやく片付いた今日は、早くも私の誕生日。
26日当日は、慌ただしいさなか、すれ違い様に「おめでとう」のひとことをかけただけで済ませてしまったから、
今年は何をするでもなく、久々に入った依頼料でおいしいもの作って、のんびり過ごそうかな、なんてね。



そんなコト考えてたら、新宿へとひた走っていたはずのミニが、ふいに脇道へと滑りこんだ。
「……?どうしたの、リョウ。ドコ行くの?」
「ん~?せっかくこんなトコまで遠出してきたんだから、たまにゃこのまま、お泊りしてこうかなって」
私の問い掛けを気にすることなく、いつものように飄々とハンドルを握る様からは、
相変わらず何を考えてるのか、さっぱりわからない。
「はぁ?いったいどういう風の吹きまわし?それに、泊まりって……まさか、“そういう”トコなんじゃ……」
「……ふーん?カオリンが考えてる“そういうトコ”ってどんなトコロかな?何か期待してくれてるワケ?」
「……っ///」



意地悪くにやついた笑みを浮かべるリョウに、ぷぅと黙り込む。
リョウがこうと決めたからには、梃子でも意志を変えないコトを知ってたから、これ以上何を言うことも出来なくて。
鼻歌まじりのリョウを尻目に、苛立だしげに唇を噛みしめて。
流れ行く車窓越しに、春の芽吹きを感じさせる木々の連なりを黙って見送った。



そうして山深い道なりを少し進んだ先に見えて来たのは、
あろうことか、テレビでも紹介されていた、某国要人がお忍びで泊まりに来たとかいう、隠れ家的高級旅館だった。
「ちょっ……リョウっ!!ここって、あの……?!」
「そっ。あの、有名旅館で~す」
「どっ……どうやってこんなトコっ」
「ふふん……まぁ、いろいろとね♪」
裏社会で名をはせてるとはいえ、まさかリョウがこんなジャンルにまで顔が利くなんて。
それにココ、いったい一泊いくらするのよっ!!
「……リョウ?ココってどれくらい……」
「ちっちっちっ……金の話しは無し、な」
「でっ……でもっ」
「たまにゃお前にも、ゆっくりさせてやろうと思ってさ♪」
「だっ……だからって、なにもこんな高級旅館……っ」



慌てふためく私を楽しげに見遣りながら、リョウはミニを、玉砂利の駐車スペースへと滑らかに流し入れる。
「いつもまめに働いてんだ。今日はお前の誕生日だから、ココでゆっくり過ごせばいい」
「……リョウ……」
普段のやり取りからは想像も出来ないようなセリフに戸惑いつつも、
大事に思ってくれてるコト、気遣ってくれてるコトが伝わってきて、鼻の奥がツンとなる。
「……で、過ぎちまった俺の誕生日の分は、お前にサービスしてもらうんだ♪」
「……へっ?」
「だーかーら。宿泊代分、お前とくんずほぐれつで、しっぽりさせてくれりゃ、いいんだって」
「……っ?!///」



こちらが言葉を失って、バカみたいに口をぱくぱく開けている間にも、
リョウはエンジンを止め、指先に引っ掛けたキィを楽しげにくるくると回しながら、にやりと笑う。
「まだ日は高いし、各々の部屋にゃ露天風呂もあるし。
食事の時間のやり取りなんかも電話らしいし、こっちが呼ばない限りは放っといてくれるって話しだから……
明日のチェックインまで、時間はたっぷりあるってワケだ」
ふふんと鼻で笑って、こちらを向いて。
大きな手に頭を捕らえられて、噛みつくようなキスをされた。
「てコトで、二人の誕生日、ゆっくり楽しもう……な♪」
「……っっっ///」




END    2015.3.31