●やきもち。●



「Excus me」
と、伝言板チェックしている背中にイキナリ英語で声をかけられて振り向けば、
まだ幼さの残る外国人青年が、バックパッカーなのか、その背に大きなリュックをしょって、立っていた。
流暢な英語に思わずドギマギしちゃったケド、どうにか都庁展望船に行きたいんだとわかって、
差し出された地図を片手に教えてあげることが出来た。
ホッと胸を撫で下ろして微笑めば、思わずお互い、安堵の笑みを浮かべたり。
そしておもむろに、ポケットに入れた手を私の前に差し出して。
「Thank yuo♪」
と、その目尻に少しシワのよったにこやかな笑顔とともに、一粒のチョコレートが手渡された。



「…………?」
わけがわからず小首をかしげる私に「happy Valentine♪」と、片手をあげ、青年はにこやかな笑顔のままに去って行った。
そういえば今日は、バレンタイン。
欧米では、男女構わずプレゼントを贈りあうとか言ってたっけ。
欧米らしさと日本らしさとのあわさった、小さなチョコレート。
きらきら光るセロハンに包まれた、掌にころりとおさまる小さな日本と外国との掛橋に、思わずくすっと笑ってしまった。



「……ちょっと目ぇ離したスキに、何やってんだか」
「……リョウ!!」
ふいに背後から声をかけられ振り向けば、壁に背を預け、不機嫌度MAXでにらみつけてるリョウがいた。
「他の男にちょっかい出されてんじゃねぇよ」
と、ぶっきらぼうなセリフとともに、またひとにらみ。
「……何よ。ただ道を聞かれて答えただけでしょ?
それにちょっかいって言うなら、道行く女の子のお尻を追い掛けてるあんたの方が、迷惑度100%のちょっかい出してるじゃない?」



売り言葉に買い言葉で噛みつけば、ふいにぷいとそっぽを向いて。
それでいて、無言でこちらへと差し出された太い腕がぐるりと回され、私の頭をがっしりとホールドされてしまった。
何だかまるで、“俺のもの”って宣言してるみたい。
身体を重ねてから、こうして少しは感情を表に出してくれるようになったのがうれしい半面、なんだかちょっぴりくすぐったい。
「……ったく。油断もスキもありゃしねぇ」
「……じゃぁ、リョウは何かくれるの?」
「……はぁ?何だって俺が」
と、旗色が悪くなるや、ふいにホールドしていた腕をといて、すたすたと歩いて行ってしまった。



小さなチョコレート一粒で、これだけやきもち妬くような人だとは思わなかったわと、思わず肩をすくめたり。
甘いものの苦手な誰かさんのために、家にはとびきり苦くて洋酒をきかせたチョコレートが準備してあるんだけどな……と、
誰かさんが喜びそうなネタばらしは、まだまだ内緒なの。
そして何気なさを装って、口にくわえたタバコから紫煙をなびかせて前を行くリョウの背中に、ふふっと笑みをひとつこぼして。
こちらを意識してるのがバレバレなのに、それと知られぬよう、
ずんずんと前を歩いてく大きな背中に置いて行かれぬよう、駆け足で走り出した。



END    2015.2.14