●Let's go on a date●



ドコのどいつだか知らないが、多分最近、他所から移って来たヤツなんだろう。
若い男が香に惚れ、駅前の目立つ所で熱心に口説いてた……なんて情報は、街中に張り巡らされた情報屋のルートをたどり。
ものの数分後には、ヤツの容姿から背格好に至るまで、俺の耳に寸分違わぬ状態で届けられた。
まぁ情報屋の仕事の内……ってか、俺に内緒で秘密裏にその人数を増やしてる、香ファンクラブとやらの会員情報ってのが正解か。



仮にも裏社会の末端に属する者てして、素人相手に厄介な横槍を出すわけにもいかなくて。 そのくせ、そのまま見過ごすってわけにもいかず……と、俺ンところに持ち込んだんだろう。 まったく、しゃぁねぇな。 新宿(まち)に脚を踏み入れて間もない兄ちゃんに、新宿の掟ってのを教えてやらないと。
とはいえ、面と向かって「こいつは俺のモンだから手を出すな」、なんてこっ恥ずかしいコト出来るワケもなく。 だがしかし、どうにかして香からヤツを遠ざけろという周囲の手痛い眼差しも厄介で。 その上、あいつの回りに変な虫が飛び交ってるのをこのまま見過ごすってのも、どうにも出来ない性分で……。 さて、どうしたモンかなと、未だぎゃんぎゃん喚くように鳴り響く携帯電話にちらりと視線を走らせ、タバコをくわえながら肩をすくめた。
そして思い付いたのが、らしくもないバレンタインデート。 バレンタインの今日この日、好きな相手に女の側から告白するなんてのは、日本独自の文化なワケで。 欧米じゃ、男女を問わずの"恋人たちの日"なんだから、と、たまにゃ"そういう"雰囲気を出してみようかと香を誘った。
「うれしいけど……ふふっ。何だか照れちゃうね///」 折よく春めいた日、香は絵梨子さんからプレゼントされたチョコレート色のワンピースを身にまとい、 肩をすくめつつ、うれしそうに微笑んでいる。 茶色の猫毛におだやかな陽射しが降り注ぎ、いつもよりやわらかな雰囲気を見せていた。 足どり軽く数歩進んで、くるりと振り返って小首を傾げれば、アクセントになっている襟元の焦茶のリボンが軽やかに揺れて。 額にかかった前髪を軽くかきあげ、はにかむように微笑む様なんざ、思わずこちらが見惚れちまうほど。 まったく、俺としたこどがザマぁないぜ。



「今日も駅前をうろついてたよ」と、出掛けに一報が届いてたので、 香に絶賛横恋慕中のヤツに二人の姿を見せるべく、いつもの伝言板チェックを兼ねて駅前まで繰り出せば……居る居る。 地下街へと続く階段脇に、それらしい男の影が、ちらほらと。 香を見て脚を踏み出したものの、その隣に俺の姿を見留めて踏み止まって。 そのまま身を隠した柱の影から、探るような視線を走らせた。 毎度のことながら期待虚しく伝言板をあとにして、そのまま春らしく華やぐ街のウインドーをひやかしながらゆっくり歩けば、 どうやら諦めの悪いヤツらしく、つかず離れず跡を追ってきやがった。
バレンタイン限定のデザートがウリだというランチに誘い、恋人同士よろしく見せ付けてやるけれど、 どうにも頭が悪いのか、未だしつこくつきまとう。 未だ周囲の気配に疎い香が気付いてないのに安堵して、こっ恥ずかしながらも、指を絡めた恋人つなぎ。 そしてそのまま、脚の向くまま気の向くままにと、新宿の街をブラブラと。 「あのね?たまにはこんなのもいいかな、と、思ったの…」 と、こちらは香からプレゼントされたシャツ姿という、珍しくラフな格好。 そんな俺の稀に見るレアな姿に、街中で顔を合わせるヤツらのからかうような、にやけたような視線が背に刺さる。 ……が、俺をあおったのはお前らだろ、と、今日ばかりは気付かないフリをしてやり過ごした。 そしてそのまま、日ごろのプレイボーイも何のそのと、流れのままに新宿御苑に足を向け。 まだ若い芝生の上で、香の膝に頭を預け、香手製のチョコレートをその口に放り込んでもらったり……と、 いったいドコのバカップルだと言われそうなコトまでして、ようやくヤツに諦めてもらったぜ。
完っ全にらしくもないけど、まぁたまには、こんなバレンタインてのもオツなモンだよな……?





END    2016.2.14