●marking●



「春になって、街にも地方から出て来たのとか、新しいヤツらがうようよと出てきやがったね」
「まったくだ。あちこちおのぼりさん的にうろついてんのは……邪魔でしょうがないねぇ」
「そうそう。それに、そうとは知らず、香ちゃんにちょっかい出すバカなヤツらが増えてきてるよ?」
「あぁ……まだ新宿(ココ)の掟を知らないヤツラだね」
「なぁ、リョウちゃん?ここいらで誰のモノか、ちゃんとわかるようにしといた方がいいんじゃないのかい?」



桜の開花の知らせも届き、穏やかな春の日差しが降り注ぐようになってきた今日この頃。
毎度のことながらその面倒くさい時期がやってきたかと、
馴染みの情報屋どもに口出しされる前に、何となく気付いちゃいたのだが……。
やはりここらが潮時か、と、やれやれといったていで重い腰をあげた。
黙っておとなしく、俺の傍だけで笑ってりゃいいものを、あの跳ねっ返りは勝手気ままに動き回り、
そちこちに笑顔を振り撒くから……勘違いするヤローどもが多いこと、この上ない。
その残念なヤツらのいちいちに、釘を刺して歩かにゃならんこっちの身にもなってくれってモンだ。
でもまぁ、それがあいつらしいんだがな。



折しも3月が終わりを告げようとする頃……あいつの誕生日を迎えるのを、きっかけに。
こちらもそろそろ覚悟を決めるかと、肩をすくめながら顔馴染みの店の裏口をくぐる。
なにかと顔を知られてる身としては、こっそり裏口から入るしかないのが情けないトコロ。
でもまぁ、堂々と表口から入ろうものなら、街のヤツらにうるさく突かれるのは目に見えてるからな。
これも人気稼業のなせる業ってぇトコだろう。



その細く白い指先に、動かぬ証(シルシ)をつけたいと思ったのはいつからだろう。
香を手に入れてから、らしくもなく湧き出てきた独占力。
よそのヤローどもがいくら香にちょっかい出したところで、どうこうなるなんざ考えちゃいないが。
それでもその周囲をうようよと、うるさいばかりに飛び交う虫よけにはなるかな、と、思ったまでだ。
何に関しても無頓着、ことなかれ主義で生きてきたこの俺が、こんなにも手放せなくなるなんてな。
……ったく、らしくないぜ。



「……では、お品物はこれといたしまして」
槇村の遺した指輪を香が放すことはないから、それとかち合わないよう、シンプルなそれを選んだ。
香の細く白い指先に、ごてごてしたモンは似合わないからな。
「それで……刻印はなんといたしますか?」
口が堅いと評判の貴金属店のオーナーに穏やかな口調で問われ、しばし戸惑う。
その身につけてもらうもの……二人の証となるものだからこそ、何かのシルシは残したい。



「そうですね、for loveとか、またはforeverとか。またはlove foreverなど」
……うっわ、むずかゆい。
「それではwith loveとか? sweet heartなど」
あぁ……らしくもない、どうしたって、クサ過ぎるっ!!
「シンプルにEternityなども人気ですが……あぁ、表面に長文も人気ですよ。
I promise love of the eternity(永遠の愛を誓う)とかTo love you more(誰よりもあなたを愛す)とか」
ぐわっっっ‼‼‼……いったい、どのツラ下げてっ。
「I’m in love with you.(あなたに夢中)とか……あぁ、I protect you in my life(一生君を守る).なんてのはいかがです?
その力をもって香さんを守る……リョウさんにはぴったりだと思いますが」



どれもこれもこっ恥ずかしく、頭をガシガシとかきむしって視線を逸らす。
その身をもって想いを伝えてばかりの俺に、キザな言葉なんて吐けやしねぇ。
ましてやそれが、香の指にずっと残るともなれば……下手なものは選べなくて。
「~~~~~~~~っっっ‼‼‼」
どうにもこうにもコレといったモノが見つからなくて、しゃがみこんで頭を抱える。
そんな俺にオーナーも苦笑するばかりだった。



「……まぁ、リョウさんが口下手なのはわかってますから、ゆっくりお考え下さい。
最悪、当日彫り込むことになっても、他のお客様を優先して、いの一番にさせていただきますから」
こみ上げる笑みをおさえるよう、口元を押さえながら言ってくるオーナーが小憎らしい。
が、どうにも決められなくて、今日はこのまま店を後にすることにした。



香の誕生日まで、あと二日。
はてさて、どうしたもんだかなと……己の心に問いかければ、
情けないばかりの俺の頬を、桜の花びらがふわりと撫でていった。



END     2017.3.29