●雨の日はお買い得?●




「……雨、かぁ……」
窓の外、途切れることなく降り注ぐ雨模様に目をやりながら、ふぅとため息をこぼす香。
そう……今日は3月31日、香の誕生日であり、槇村の命日でもある日だった。
2人連れ添って毎年墓参りに行くのだが、やはり今日この日が雨だと如実に
”あの日”を思い出すようで、香が沈み込むのも致し方なかった。



「……さて。雨だっつっても、天気はコロコロ変わるんだから、時期に止むだろ。
とりあえず、槇村ンとこ行こうぜ?」
「うん………」
気軽く誘いの言葉を向けてみるが、香の気持ちは停滞中。
……ったく……しょうがねぇなぁ……。
「ほら、早く仕度しろ。帰りにスーパー寄るんだろ?
雨の日はポイント3倍だとかって、お前、いつも浮かれてんじゃん」
「あー……そっかぁー……」
そこは主婦の鑑というべき、家事大好き・節約大好きの香ちゃん。
どうやらようやく、少しだけ気持ちが浮上したようだ。



「……ほら、早いトコ行こうぜ?空が明るくなってきたから、このままじゃ早い内にやむかもな。
そしたら3倍、終わっちまうぞ?どうすんだ?」
「……うん。よしっ、行こうっ‼‼」
ゲンキンなもので、うんと大きくうなづいてソファから勢いよく立ち上がった香の顔には、笑顔がのぞいていた。



「あ、でも……」
「……なんだ?」
生活費に入った財布を愛用のショルダーバッグに入れながら、小首をかしげた香がこちらを見やる。
「でも……今日は私の誕生日なんだよね」
「あぁ、そうだな」
「ポイント3倍はいいとして……誕生日にスーパーで食材買って、夕食作るのは、私なの?
こういう時って、フンパツして、レストランで食事とかじゃないの?」
軽く頬を膨らませ、じろりとにらむのがいつもの香らしくて、思わずくすりと笑った。



「まぁ当然、お前だな。俺が作ってやってもいいが、知ってるか?
男の料理ってのは、豪快で荒っぽくて大胆で、それでいて凝り性だから、
食材も値が張るし……その分、片づけも大変だぜ?」
「………………」
「それに外食でもいいが、誕生日を気取って”それなりのトコロ”だと、家計的にも厳しいんでない?
”それなりのトコロ”ってのは、値段の方も”それなりのトコロ”なワケだろ?
お前なら”それなりの出費”と、”ちょっぴり豪華な家メシ”と……どっちにする?」
「う゛ー……ちょ、ちょっぴり豪華な方……」



むぅと唇を突き出して返事を返す香は、心底悔しそうな顔。
ここであくまで”それなりのトコロ”と言われたら、むろん、今日という日を記念して
とびきり豪華な”それなりのトコロ”に連れて行こうかとも思ったのだが……まったく、どこまでも貧乏性の抜けないヤツだ。
「……あ。でも、ケーキつけるくらいはいいわよね?それくらいはいいでしょ?」
「……OK、了解。そんでたらふく食って、胸いっぱい・腹いっぱいになった香ちゃんに、
仕上げは俺からの熱ぅ~いマッサージ……な♪」
「……なっ……何、それ」



「何って、日頃働き過ぎの香ちゃんに、ホンのお礼の気持ちじゃん?
槇ちゃんに”大切にしてます”って、報告してやんないとな。
出ないと、天下一のシスコンの槇ちゃん、今晩あたり、化けて出て来そうだし?」
「たっ……大切って……/////」
予想通り、真っ赤に茹で上がった茶色い髪をくしゃりと撫でて。
「ほら……早くしないと置いてくぞ?」
と、軽いジョブを食わせながら愛車のキィを手に取れば、
むくれながらも頬を真っ赤に染め上げた香が、照れくさそうに腕を回してきた。




END    2018.3.31