●金色の光の中で●



「わぁ~……きれいだねぇ……」
「あぁ……そうだな」



香と2人、久々にゆっくりとした一日を送った。
俺の誕生日も香の誕生日も、珍しいことに、久々に入った仕事の真っ最中で。
お互いの誕生日を共に過ごす……という二人だけの約束事みたいなモノは、
叶えられたっちゃぁ、必然的に叶えられたってぇワケだが。
それだけじゃぁ納得しないのが香というオンナなワケで、
今日は一日、外へ連れ出し、珍しくデートっぽいコトをしてみたり。



新宿御苑に行き、満開の桜の中、のんびりと二人で花見何ぞをしてみるのも、思えばかなりの久しぶり。
あらかじめ釘を刺しといた甲斐あって、いつもの煩い輩と顔を合わせても
チャチャが入ることも無く、さりげなく視界から消えていくから、のんびりと春の日差しを堪能出来た。
空を覆いつくすような桜の花びらが、風にはらはらと散って行く……
日本の季節の美しさを、らしくも無く感じたりしてな。
そしてそのまま少し郊外へと車を走らせ、小洒落た隠れ家的レストランで、冴羽家にしては破格のランチ。
まぁこんな時用の、香には内緒の軍資金てぇモノがあるのだよ、うん。



「お誕生日おめでとう、リョウ」
「あぁ、お前もおめでとう……な」
いろいろ言いたいことはあるんだろうが、ジト目でにらんだのも束の間、
"それ" の出所を探らずにグラスを合わせ、美味そうに微笑んでくれた香にホッとした。
いつも働き過ぎの香をゆっくり労ってやりたいのに、そんな理由で揉めたりしたくはないもんな。
そして高台の、見晴らし台のある公園へとドライブを続け、
暖かな春の日差しがゆっくりと山裾に落ちて行くのを二人で見つめる。
周囲を金色に染め上げていく太陽の光の美しさ、荘厳さえ感じるような輝きに、
俺らしくもないが香と二人、言葉も無く。
まばゆいばかりの金色がゆっくりと色を変えて暮れ行くのを、ただただ見つめていた。



思えば香と暮らすようになって、もう何年になるだろう。
はじめはこんな素人を身近に置く危険性を十分に知っていたはずなのに、いつの間にか、手放せなくなって。
この細く白い手を血に染めたくなくて、表の世界に返そうとしたくせに……
気づけばそれに相反し、強く引き寄せている俺がいた。
「裏社会で生きる男が、弱みとなる女を手元に置くなんてな」と、
嘲笑(笑わ)れることもあるだろうが、そんなコトはもう今更だ。



誰にどうこう言われようが、もう香の手を放すことはしないし……出来やしない。
香の存在が、香の命も……俺の命も脅かすかもしれないが、そんなコトはもう構わない。
たとえ弱みとなるようだとしても、それでもどんな敵にだって負けやしない……
そういう気持ちさえ俺の中にあるのなら、それでいいんだ。
いやむしろ、香という守るべき存在が出来、常に傍らにいるからこそ、
俺は誰よりも強くなれている……今はそう思えるようになっているんだ。



「……ふっ……」
知らず、小さな笑みがこぼれる。
香のいなかった頃のことが、まるで嘘のような変わりっぷりだ。
だが、あの頃の俺は何にも執着せず、命をも顧みず……
ただ心の中で死へのカウントダウンを感じながら生きていた。
たとえ裏社会から英雄視されていたとしても、ただ生き急いでただけの、悲しい男だったと今では思う。
あの頃の俺を見て……俺の様になりたくて、同じようにバカをやっちまうヤツラがあとへと続くだろう。
だが……残念ながら、そいつらに言ってやりたい。
”守るべきものがいてこそ、男は強くなれるもんなんだぜ”……ってな。



香と出会って、共に生きようと手を取り合って、俺は変わった。
今はただ生きたい……こいつと生きていく未来(さき)を想像するのが、嬉しくてたまらない。
ジャングルの中、あの悪魔の薬によって、ゲリラ戦で数えきれないほどの命を奪って来た俺。
ニューヨーク時代、金で命を請け負い、虫けらのように他人の人生を奪って来た俺。
そんな俺の手を取り、隣で笑っていてくれる香に……
俺と共に生きることを選んでくれた香に、この気持ちをどう伝えればいいのだろう。
お前の存在に俺は癒され……”赦された”と、そう思えるようになったんだ。
お前と並び立ち、生きていくことによって……両手を真っ赤に染め上げてしまったこんな俺でも、
”人並に生きていいんだ”……と、そう思えるようになったんだ。



目にまぶしいばかりの金色の夕陽から、周囲は徐々に青みを帯びたうす闇へと色を変えていき、
小さな星明りが、徐々にその姿を現してきた。
映り行く景色を見つめながら、自分だけの世界に入っちまってた俺の腕に、
細く白い手が絡められ、きゅっと強く握られる。
服を通して伝わる体温が……預けられた頬の重さが、愛おしい。
何よりもかけがえのない……汚れに汚れちまった俺というモノを浄化してくれた香。
絡められた腕をそっと解き、細い肩を抱くようにして胸の中に封じ込めれば、
瞬時、驚いたように身を縮こまらせた香が、ゆっくりと身体を預けて来る。
そのぬくもりを手放したくなくて……潤んだ茶色い瞳がゆっくりととじたのを確認して、
誘われるように唇を重ねた。



END    2019.4.12