●だから今日は、許してあげる。●



暮れなずむ夕日に視線をくれながら、病院の屋上にミックと二人。

風にたなびく洗濯物の大きなシーツの陰に私がいるとは、露とも思わず。
日頃から口の重いリョウが、ミックに促されて、その本音をポツリポツリと語り出した。



死の危険を身近く感じたから……ですって?
ただの種族維持本能ですって?
何言ってるのよ、バカ言わないでよ。
あの時のあの二人のあの想いを、そんなワケのわからないモノで片付けないでよ。



ねぇ……私だって、バカじゃないよ?
時としてリョウが男としての視線をくれてたコト、ちゃんと気付いてたよ?
一緒に暮らす毎日の中で、それに気付かないほど、私だって子供じゃないの。



ねぇ……あの船での、あのガラス越しのあのキスを。
互いに自分でも持て余していた、本当の想いを。
二人がそれを素直に表に出したあの瞬間……。
あなたはそれを、死を前にした人間の、ただの種族維持本能だったって言うの?
そこに想いは、無かったっていうの?



それまで積み重ねてきた二人の日々の……
互いに押し隠して来た想いのタガが外れた瞬間だったって。
そう思っては、くれないの……?



む゛~~~……。
考えれば考えるほど、頭にきたわ。
えぇ、あったまきたわっ!!
何よ、何なのよ。
乙女の純情、何だと思ってるのよっ!!
私が記憶喪失のフリまでして確かめようとしてた努力は、いったい何だったのよっ!!
まったくもう……いくらもっこりバカだからって、ここまでとは思わなかったわっ?!



でも……ミックに促されつつでは、あったけど。
多少、誘導尋問っぽくは、あったけど。
それでも、あの時のあの感情を……あの行為を。
“それ”じゃぁなかったと……そう口にしてくれたのが。
リョウの胸の内にある感情そのままの、
その素直な表れなのだと言ってくれたことが……どうしようもなく、嬉しいよ……?
だからこの際、"……じゃぁない……と思う"ってセリフは、カットしといてあげる。(笑)



ねぇ、リョウ?今回の葉月さんのコトは、正直、辛かった。
ミックを交え、別々のCHとして行動するコトになっても……私がミックのパートナーとなっても。
それでもリョウは、平気なのかな……って。
淋しいのは……切なくて悲しいのは、私だけなのかな……って。
本当に辛かったよ……?



だからお願い。
もう二度と、そんなコトは言わないで?
離れていったりしないで?
今回のコトは、いつものリョウの軽口として。
アクシデントとして、許してあげる。
だからもう、仲直りしよう?
いつもの二人に戻ろう?



リョウと離れて淋しかった。
もちろんミックだって、格段の腕前を持つ、プロのスイーパーだけど。
でも……次にどう動くかが、読めないの。
どうアシストしていいか、わからないの。
私の動きのすべて、アシストとしてのフォローのすべてが、悔しいけど、リョウ仕様なんだもの。
だからミックをけなすワケじゃないけど……ミックがリョウに劣ってるっていうんじゃぁないケド。
ミックとは組めない……やっていけない。
そう思ったの。



ふふ……皮肉よね。
離れてみて、私の中のリョウという存在が、どれほどのものかを知るなんて。
悔しいくらい大きな場所を占めてるんだもの……まったく、やんなっちゃうなぁ。
でも、やっぱりというか……あぁ、そうだったんだな……って。
リョウから離れていくコトなんて、出来ないんだな……って。
そう、改めて感じたところの方が強かった……かな?
ねぇ……リョウと二人でCITY HUNTERだって。
そう言っても、イイんだよね……?



でも……でも、ねぇ?
いつかはその気持ち……リョウがひた隠しにして来た、ホントの気持ち。
今回もズルけて、ちょこっと曖昧にした、ホントの気持ち。
いつかはちゃんと、伝えてね?
今はもう、見逃してあげるけど。
今日のところは……許してあげるけど。
そのセリフを、その気持ちを。
リョウの心の内のすべてを、いつの日かきっと、教えてね?
今日のところは、これで戻ってあげるけど。
“次”はちゃんとしてくれないと、許さないんだからっ!!



「ほら、次の依頼が入ったわよ!!依頼者と会う約束してきたから、早く来てっ!!」
だから今は、そんな想いを胸に押し込めて。
いつもの強気な"わたし"という顔の下に、その秘めたる想いを塗り込めて。
まだ懲りもせず、何やらブツブツと言い訳を続けるリョウの手を、グイと力強く引き寄せた。




END   2008.3.16