●未来の花嫁●



「おめでとう、千香子さん。幸せにね」

「ありがとう、香さん。冴羽さんも……本当に、本当にありがとうございました」
そう言って、大きな瞳を涙でキラキラさせた千香子さんと、
ご主人となった孝明さんを乗せた車が、颯爽と走り出した。


会社のインサイダー取引に巻き込まれた、孝明さん。

直属の上司が手を染めていたことを探り出したまではよかったのだけど、
その親戚筋に暴力団がいたとかで、命を狙われるハメに。
そしてその魔の手は、千香子さんへも伸びていき……
二人してXYZへと、助けを求めて来たのだった。


コトが公になりかけて、十重二十重となった敵の防御対策には苦労したけど、
どうにかそれを乗り越えて、一件落着。
かねてから予定どおり、二人の結婚式も無事に迎えられた。
お世話になった二人に、最後まで幸せを見届けて欲しいという千香子さんに招かれた、二人の結婚式。
長いヴェールをゆっくりと引きながら、真っ白なウエディングドレスに身をまとった千香子さんは、
リョウのもっこりを止めるのが大変なほどに、本当にきれいだった。


式が終わって、二人、たくさんの空き缶を結びつけたオープンカーに乗り。
教会の鐘が厳かに鳴り響く中、ガラゴロと派手な音を立てながら、
参列者が振り撒いた、まるで雪のような花びらの舞う中を。
少し早い春の訪れの陽の光の中、笑顔で旅立っていった。


「ふぅ……終わったわね」
二人の車が、見えなくなって。
事件解決、結婚式も無事に終え、ようやくと思わずため息まじりに笑顔で問えば。
珍しく文句も無く、しっかりと着こなしたスーツ姿のリョウが、
うるさげにネクタイを緩めながら、忌々しそうにつぶやいた。
「……ったく……あんなヤツなんかより、俺の方が百万倍もいいオトコなのにさ。
千香子ちゃん、見る目ないのなぁ~」
そんなコトを言いながらも、二人の乗った車が消え去った先を見つめるその瞳は、優しさに満ちていた。
自分だって無事に事件が解決して、新たな道へと出発した二人を祝ってるくせに……
素直にそれを、表には出さないの。
まったく……かわいくないんだからっ。(笑)


「千香子さん……きれいだったね」
ウエディングドレス姿で彼に手を引かれていく千香子さんは笑顔に満ち溢れ、
本当に幸せそうで……正直、うらやましいくらいだった。
香さんたちのときは、ぜひ呼んで下さいね
……なぁ~んて、千香子さんは言ってたけど……ねぇ?
そんな日は、いったいいつになることやら……って感じだわ?


「さぁ~て、とっとと帰るぞ」
もうこんな堅苦しいのはごめんだ、とばかりに、
春のような日差しの中、ウーンとひと伸びしたリョウが、
脱いだジャケットを肩に掛けながら言った。
でも……教会の駐車場に停めたミニへと向う時。
さりげなくこちらへと手を差し出して、そっと指を絡めてくれた。


今まではそんな素振りも見せなかったクセに、このところのリョウは、ちょっとだけ。
ホントにホントに、ちょこっとだけなんだけど……
その仕草の端々に、私への想いを覗かせてくれるようになった。
もちろん、めったにそんな時はないのだけれど。
だからこそ……そんな時、私は無性に嬉しくなるの。



「ねぇ……二人のゴールは、いったいいつなの?」
美樹さんのツッコミに、苦笑まじりに肩をすくめてみせたけど。
二人の気持ちに間違いが無ければ……いつの日かちゃんと、辿り着けるハズ。


でも……ねぇ?
これでも私だって、夢見る乙女の端くれだよ?
時には不安になっちゃうの。
極度に照れ屋のリョウからプロポーズだなんて、してもらえるとは思ってないケド。
それでもやっぱり……ねぇ?
「本当にその気はあるの?」と、聞きたくなるよ。
だから時折、言葉も無く、ただじっとその瞳に問い掛けてみる。
まぁ、いつも素知らぬフリされてばかりだけれど。(苦笑)


絵梨子を介して伝えられるようになった、かつてのクラスメイトたちの近況報告。
最近、とみに多くなったのは、彼女たちの苗字が変わったという知らせ。
リョウが傍で聞いてる手前、あのコもこのコもそうだと聞くと、思いはちょっぴり複雑……微妙なの。
あのコはクラスで一番地味でオクテだったのに……誰より先に愛する人を射止めて、花嫁になった。
そんな風にストレートに想いを伝えられる彼女たちが、ちょっぴりうらやましい。


もし……もし、リョウからプロポーズされたら。
その時の答えは……なんて、実はとうの昔に決めてある。
答えはこの胸の奥、鍵の掛かった引き出しの中。
もうずいぶんと長いこと、しまいこんだまま。
いつかはリョウにこの答えを返すのだと、大事に大事にしまったまま。
それを未だ、表に出せずにいるのは……どうにもハッキリしない、誰かさんの悪いクセのせい。


ねぇ……プロポーズはまだなの?
いったいいつまで待たせるつもりなの?
ウエディングケーキにナイフを入れる日は、いったいいつになるの……?
プロポーズの返事と共にしまいこんだままの問い掛けたい言葉は、まだまだたくさん。


家族の一人になって欲しい……
あの日、あのセリフのあと……すぐにはぐらかしてくれちゃったけど。
あの時から私、ずっとずっと、そのつもりだよ?
ずっとずっと、家族というものを知らないリョウの、
じゃぁない、ただ一人の家族のつもりだよ……?


ねぇ……自惚れて悪いケド。
あなたの花嫁が隣にいること、忘れたりしないでね……?


ハンドルを握ったリョウに、視線だけでそう問い掛ける。
「……ンだよ……」
「……ん~?べっつにぃ~?」
胸の奥、想いは色々渦巻くけれど。
それらすべてを口にせず、そううそぶいて、微笑んでみせた。
でも……でもいつの日か、きっと。
約束だから……ね……?




END   2009.3.15