●はじまりの日●



パァァァ………ン………




聳え立つ摩天楼の中、最後の銃声が一際長く尾を引きながら消え去った頃。
激しい銃撃戦の中、静かに明るみを帯び始めていた東の空が、ゆっくりと明けようとしていた。



「ふぅ……ようやく片付いたな」
「……あぁ。まったく、手こずらせるヤツらだったぜ」
互いに軽く視線を合わせ、どちらからというわけでもなく、ふぅとため息。



ハリウッド女優を巻き込んでの、ヤク絡みの依頼。
次代のスター候補である彼女は、まさしく金の卵。
その名声に傷をつけないように、コトは全て隠密裏に……という、映画会社の社長の依頼だった。
スターへの階段を上り行く彼女が、過去、ほんの短い間だったとはいえ、
ヤクの密売組織のドンである男の、愛人だったなんてコトは。
ライバル会社にとっては喉から手が出るほどの、極上のエサだもんな。



日々次々と入れ替わる、ハリウッドのスターたち。
その中で、自らの過去の汚点を消し去った彼女が、
果たして、どれほどの頂点を極められるのか……。
そこまではもう、俺たちの知ったこっちゃない。
後は指定口座に指定した金額が振り込まれるのを、美味い酒でも飲みながら待つだけだった。



「なぁ……どうしても行くのか?」
「………あぁ。そう言っただろ?」
まだ熱を持つライフルを小脇に抱えながら、胸ポケットから取り出した煙草に火をつける。
ふぅと美味そうに吐き出した紫煙。
ヤツ好みの、少し特徴的な苦味のあるそれが、朝の熱を含む風にゆるゆると流れていった。



「何だって日本へなんか……」
「自分の生まれた国を、一度くらい見ておこうかな……ってさ」
「ホームシック……か?」
「ばーか。ンなんじゃねーよ」
目を細め、くすくすと楽しそうに笑う。
その決意は、固いようだった。



「日本女性は慎み深くて、やまとなでしことかって言うんだろ?いい彼女が出来るといいな」
「さぁ……どうだかな。俺としては多少跳ねっ返りな、話ひとつにしろ、受け答えに手応えのある女の方が好みだな」
「………ヘンなヤツだな。女はおとなしく可愛らしく、自分を頼ってくるような方がいいじゃないか」
「うるせーよ。ンなの、好みの問題だろ?」
……と、まだ温みのあるライフルで、クイと頭を小突かれる。



「……って!!何すんだよ、危ないなぁ。でも、まぁ。記憶が無いにしろ、やっぱ母国ってのはいいモンだろうな。
気に入った女が出来て、案外そのまま、居ついちまうんじゃないか?」
「は……ん。この俺が、女とそんな面倒な関係になるはずねーだろ」
淋しさ半分、からかい半分で言葉を続ければ。
短くなった煙草を吸いながら、ニヤリと口元を歪め、意地悪な笑みをよこした。



「……リョウ……。お前が根はいいヤツだと、わかってるが。今までいったい、どれだけの人間を撥ねつけてきた?
もちろん、それはお前が育ってきた過去が、お前をそうさせてるのはわかってるが。
だが、このままじゃ。いつか本当に、純粋にお前って男を好きになったヤツまで、跳ねつけちまうかもしれないぜ……?」
「…………………」
誰でもない、このオレだから……。
パートナーを組み、少しはお前って男を知ったオレだからこそ、言えるセリフ。



「全部とは、言わん。少しでいい……変えろよ、その性格」
「……うるせー。お前に言われたかねぇよ」
…と、言葉は悪いが、オレの思うところはキチンと伝わったらしく、目を細めて軽く微笑んだ。
そして視線を絡ませながら、ふっと笑って。
そのまま明るくなり始めた空を見上げて、ハハハ……と声を上げて笑う。
ゆったりと雲を流していく風が二人の笑い声も、空の彼方へと運んでいった。



「ハハハ……リョウ。また、会えるよな?」
「………あぁ………」
ニヤリと笑みを交わしながら、軽く握った拳と拳をぶつけ合う。
そう……オレだって、これほど気の合うヤツと組んだのは初めてだったんだ。
いつになるかはわからんが……また、お前と組めることを祈ってるよ……。



東の空に、太陽が初めの一筋の光を放った。
今日という日が始まろうとしていた。




END    2006.7.19