●背●



そんなつもりは無かったのに、偶然立ち聞きしてしまった告白シーン。

依頼人の女性がリョウに惹かれてしまうのは、いつものことで。
そんなコトでヤキモチだなんて、そんな弱い器じゃぁない。
でも、たいていは。
その想いを胸に秘めたまま、事件の解決と共にサヨウナラ…。
そう、そんなのが常だったから。
だからこんな風にストレートに告白されるリョウを見るのは、何だかとても切なかった。



「由紀さんから告白、されたんでしょ」
彼女が立ち去った後、しばらくたって。
屋上の手すりに頬杖をつきながらタバコを燻らすリョウの後ろに立って、そっと口を開く。
聞いてたのか……と、こちらに視線だけ振り返った瞳が語った。



「由紀さん……素敵な女性(ひと)だよね」
キミは危険から救った俺に、憧れめいた感情を持ってるだけだ。それは、恋なんかじゃぁ無い
おだやかな笑みを浮かべながらも、その実、ピシャリと拒絶する言葉。
でも、冷たくなりきれないその優しさが……時にはひどく残酷だってコト、わかってる?



「彼女……本気だよ」
「………………」
「本気でリョウのことが好きみたいだよ。彼女美人だし、リョウ好みだし……ふふ、よかったじゃない」
こちらに背を向けているのをいいコトに、ひきつった唇に無理に笑みを浮かべて。
ワザとらしいくらいに明るい声で、そう言ってやった。
「……それ、本気で言ってるワケ?」
タバコを燻らせたまま、小首を傾げて、チラとこちらを見やる。
その少し眇めた瞳が、射るように突き刺さった。
「………だ、だって………」



彼女とリョウがどうのこうの……なんて、想像するのもイヤだけど。
でも……女としては。
由紀さんの想いが本気だ…って、知ってたから。
本気で好きになった男性(ひと)には、本気で応えて欲しい。
傷つけないように、悲しませないように……なんて、そんな気遣いはいらない。
その心の内にある、そのままの想いで応えて欲しい……。
同じ女として、そう思った。



「バカか、お前、俺が彼女の気持ちに、応えられるワケねーだろ」
「………………」
苦笑しながら、その形のいい唇からゆっくりと紫煙を吐きだして、また背を向ける。
でも、それがどうしてなのかとは言わない。
女としては、その本音こそが聞きたいのに……。
………ずるいよ、リョウ…………。



初めは、恋に恋しているだけだった。
でも、いつの間にか、自分を見失うくらいに心惹かれて……。
そして気づけば、どうしようもなく欲しくてたまらない存在となっていた。



あの奥多摩での日以来、言葉にはしないながらも、何となくその心が…想いが伝わる。
でも、その肝心の言葉が無いままに。
これといった、きっかけの無いままに……いつまでも変わらず、宙ぶらりんな関係。
そのくせ、今のこの心地よい関係を壊したくはなくて。
自らその殻を打ち破る……そんな勇気も無くて。
何とも形容し難いこの曖昧な関係を、もう、ずっとずっと続けたまま。



でも時々……そう、ふとした瞬間。
……ねぇ、私の存在って、どれくらい?……
答えてくれるはずも無いのに……本気でそれを口にすることも出来ないクセに。
心の中で、その広い背中にそっと問い掛けてみたくなって……。
いつの間にか、そんなにも欲張りな女になってしまった私は、
未だ欲しい言葉をくれない男の、その心を見せてはくれない男の大きな背中に近寄って。
後ろからそのあたたかなぬくもりに、そっと頬を寄せた。




END   2006.4.24