●カーセックス●



『遊びだってさ、ただやりたいだけだってさ、お前とやるからいいの』




「俺、いっぺん車の中でやってみたかったんだよね」



「は?」



香は素っ頓狂な声を出した。



「お前、なんつー声出してんだよ」



いつもの如くのカーチェイスで修理に出したミニクーパー、その変わりに遼が代車で奪ってきたのは、ガレージの主人の愛車。白いその車はいつも乗る赤いクーパーとも、自分のCR-Xとも違う。重量感のある車だった。流線型なのに、何処がごつごつとしたイメージ。ホイールの金色が眩しい。スバルのインプレッサ。後部にはWRXという文字が踊る。更にヘッドライトの下に赤くSTIと入っている。どうやら高い車らしい・・・・・・その位しか香にはわからない。



折角、いつもと違う車もあるし、ちょっとドライブでも行ってみる?



夜の高速なんてどう?軽く誘いをかけた遼に連れられて、デート気分で、車の助手席に乗り込んだ。



深く包み込む形のシート、なれない座席にシートベルトがうまくはめられず、遼がはめてくれた。妙に優しい。助手席の自分にのし掛かるようにしてシートベルトをはめる遼。真剣な顔でシートベルトをはめる。不器用な香の手に自分の手を添えて。乾いて固い遼の手は少し冷たかった。



思わぬ接近にどきりとしたところで、「何期待してんだよ」ぴし、と額を指で弾かれた。



なのに。なのに。



首都高速から東名高速にスムーズに流れは速い。
夜の闇に流れるライトは夜景より美しくて、乗り慣れぬ車と共に、やけに新鮮に見える。



「いやさ、いつもの車でやってさ」



遼は厚顔無恥に言葉を続ける。
「仕事中に思い出したらやばいだろ」



だから、いい機会だなぁと思って。横顔がライトに照らされて・・・・・・ちゃらけて無い。本気だよこの人どうしよう。香は少し泣きが入りかける。この辺りで笑って誤魔化して置いた方が身のためのような気がする。



「じょ、冗談は・・・・・・」



「あ、ここで降りよっと」



「きゃぁ!」



がくんと加速に頭が後ろに引っ張られる。素早くシフトダウンして加速、気づいたらメーターは160㎞を越えている。



(ほ、ほんと?これほんと?ねぇこれほんと?)



香の心の叫びは置いてきぼりで、車は追い越し車線から左に二車線、制限速度を守ろうとする車の間を縫って行った。



「はい、と言うわけでやりますか」



(なんでなんでなんでー!?何で山?どうしてここ山?)



高速を降りて、既に明かりの少ない寂れたところだったのが、あれよあれよという間に車は山道を走りだし、車線は白から黄色、しまいには真ん中の線は消えて、アスファルトの感触がごつごつとしたものに変わって・・・・・・要するに山奥。車がすれ違うために設けられた山側のスペースに停車した。



エンジンの音、ぎ、と強くサイドブレーキを引いた。



「香」



「だぁー!!ちょっと待って、待ってって!」



車内、普段よりは広くても所詮車内。逃げる余裕はない。
天井にも手がついてしまうし、勿論隣にいる相手にも簡単に手が届く。
深く抉れたシートのため、上半身をしっかりと起こすことさえままならない。



「落ち着いて、ね、落ち着きましょう?」



冷や汗を流しながら無理に笑いを浮かべる。後ろ手にドアを開けようとする。
遼が真顔で怖い。
いつもはへらへらしてるから平気で殴り倒しているのに、こんなところで真剣な顔をしないで欲しい。殴り倒すにも殴れない。



(ひぃいー!!開かないー!!)



ガチャガチャと手探りで開けようとしてもうまく開かない。



「お前、往生際、悪いよね」



興味の失せたような声音で言う。
ひょっとしたらこれはいけるかも。逃げられるかも知れない。
香は更に平静を装う。けれど常に表裏一体型の香のこと、それは無理がある。



「そそそそそそうかしら?」



遼の右手がすっと伸びる。止める間もなくその手は香の躰を乗り越えて、座席のリクライニングのバーを引き上げる。



「たっ!」



がくん、と座席が後ろに落ちる。頭を打って、ついでに舌も噛む。



(いーたーいー・・・・・・)



涙目を開けると、間際に遼の顔。



(ひっ!)



「流石にもう逃げられないんじゃねぇ?」



低く囁く声は、確信的。
喉仏の隆起がやけにくっきり見える。
鎖骨へと伸びたラインの美しさ。



(もうやだ・・・・・・・・・)



香はささやかな抵抗としてドアから剥がれ落ちた手で胸元を覆った。



エンジンの振動が響く。頭に、腰に、遼が触れている部分に。



「・・・・・・やだってば・・・・・・」



辺りはしんとして無音だ。都会ではあり得ない本物の静寂がある。
山の中の気配が全て息を殺して自分達を感じ取ろうとしているような気がする。



香は熱に浮かされて拒絶の言葉を口にする。
30度ほどに倒された運転席に座る遼の膝の上に跨っている。
タイトなスカートがまくれ上がって、太股が露わになる。その下着の間に手を差し込んでいる。
上着はずり上がって、はずれたブラジャーが申し訳なさそうにぶら下がっている。こぼれた胸の先端は赤く凝って、遼の歯の間で更に固く赤くなる。



「何で?濡れてるけど」



情けなさにじわりと涙が浮かぶ。



「どうせあたしの躰が目当てなんでしょ!」



悔し紛れに、別にそう思っているわけではないけれど、昼のメロドラマで使われていた陳腐な台詞を投げつけてみる。
ちょっとは乙女心の機微というものを察して欲しいものだ。



「うん、そう」



指がぐっと内部に入ってくる。ぐるりとかき混ぜる。



「お前の躰を玩びたいの、俺」



「やっあ・・・・・・!」



「お前が、いいんだ・・・・・・」



明かりはひとつもなくて、外から漏れ込んでくる月明かりが照らす。青白く照らされた遼は余裕綽々で香はその頬を抓ってみる。



(馬鹿・・・・・・)



強く力を込めることは出来ない。



(そんなこと言われたら、許しちゃうじゃない)



「ん」



目を瞑る。キスをねだる。



「はいはい畏まりました、おじょーさま」



唇ですくい上げる。触れ合う。擦れ合う。共有する。
尻にハンドルが当たる。その腰を熱い手のひらが抱き込む。



「狭いから手間かけてやれなくてすまんね」



覚えたてのティーンエイジャーのような不器用さと性急さ。
狭い空間は自然と肌と肌を近づけ、それが興奮を煽る。
早く、早くどうにかなってしまいたい。
くつろげた股間から隆起したものがあって、それが濡れた花弁を押し分けて入ってくる。
少しずつ、ゆっくりと開いていく。



「はっぁ・・・・・・」



その瞬間、車のヘッドライトが香の目を灼いた。
続けざまに数台通り抜ける。



(暴走族・・・・・・走り屋・・・?)



後から下卑た笑い声が聞こえてきた。あまり柄がよろしくない。



「よそ見すんなよ」



尻たぶを掴んで、遼が自分の腰に引きつける。
ぐり、と突き当たる。



「あぁあっ!」



一気に奥まで埋められて、香は遼の肩口に顔を埋める。
衝撃に火花が散った。
遼は動かず、香を引き寄せたままじっとしている。
体内で脈打つ慣れない感覚に香は鳥肌が立つのを感じる。
まだ遼は動かない。



(な・・・んで・・・・・・)



コツコツ。


フロントガラスがノックされる。



香がびくりと身をすくませた。
遼が繋がったまま、パワーウィンドウのスイッチを押す。
モーターの回る音がして、ガラスが下がる。



「いいねぇ、お楽しみ。俺達も混ぜてくんない?」



先ほどの車の連中が引き返してきたのだ。女は犯して、それを男に見学させてやって、身ぐるみ剥いで山の中に置いてくる。いつもうまくいくから、今回もうまく行くと思ってる。腰抜けばかりだと思っている。



「お楽しみは分け合おうぜ?」



彼らの目はまだ闇に順応しきっていない。
それでもずりあげられた衣服の間から覗く白い肌としなやかさは確認できる。



遼は答えない。香は遼の首に抱きつく腕に力を込めた。
慌てない。遼を信頼してるから。
けれど。



(まだ、入ってるのに)



入ってる。硬さを失わないものが。



抜いてと騒ぎ立てるわけにも行かないし、かえって緊張して自分の躰が締め付けているのがわかる。収縮して形を確かめている。奥へ奥へと誘い込むように。



(入ってるのに、人に)



見られてる。
そのことがどうしようもなく恥ずかしい。
それで余計に中に入り込んでいるものを絞り上げる。



「おい!きいてんのかよ!!」



その時、遼が男達を見た。
それは全く何気ない、ゆったりとした動作だった。
香からは遼の顔は見えない。
顔を隠すように埋めた遼の首元に一層近く唇を摺り寄せる。



一瞥で、男達の躰は凍り付いた。



絡まった香の躰も、男を着飾る宝飾品のように見える。
深淵を覗かせる鉄の色の瞳。



「ひっ・・・・・・!」



「お・・・おい、行こうぜ」



ばたばたと男達が立ち去る。



遼がウィンドウを上げた。



「香、もういいぜ」



「・・・・・・何したの?」



「なーんも。俺今忙しいし」



遼は香の耳たぶを噛む。
息を吹き込み、舌をねじ込む。



「や・・・ん・・・・・・っ」



「・・・・・・あんまりきつくすんなよな」



人に見られながらやったって、もったいないだろ、とろくでもないことを呟きながら下から香を突き上げる。



「誰にも見せたくねぇんだよ・・・・・・」



狭いから密着した部分が熱を持つ。
籠もって、逃げ場がない。
そう、香が思ったとき、弾けて熱に飲まれた。



カタ、とダッシュボードを開ける。ウェットティッシュのボトルから、片手だけで器用に白い濡れた紙を引き出す。



「な、なに・・・・・・」



助手席で荒い息を納めようとしている香の足を抱え上げ、濡れたティッシュを先ほどまで質量を銜えていた部分にあてがう。



「ひ・・・ぁ・・・・・・・!」



敏感になった粘膜をアルコールが刺激する。急激に熱を奪う。



「や、やめ、ぁ・・・・・・!」



それでも遼は止めない。丁寧に拭っていく。



「ほい、完了」



香は震える指で衣服を整えながら遼を睨み付けた。



「最低。最低。さーいーてーいー。あんた最低。」



顔が赤くなっているのは羞恥と怒りの為だけではない。



「何でこういうことできちゃうわけ?馬鹿っ!」



遼はヘッドライトをつけた。車を発進させる。



「だってやりたかったんだもん」



カーチェイス、上がる香の悲鳴、それを聞くたびに、まるであの時の声みたいだな、と。
その場で欲情したら流石によろしくないので、あまり意識に上らないようにしているのけど、そりゃぁ条件が揃えばやるでしょ。
本当はいつでも押し倒してしまいたい。



そこまで正直には言わないけど。



「でも、やっぱり狭いし、うちでやる方がいい声で啼いてくれるよな」



香はもう一度大きな声で繰り返した。



「最低。あんた最低!!もう黙れ!!」



「さっきまでは素直で可愛かったのになぁ。震えてぎゅうぎゅう締め付けてくるし」



「ぎゃー!!やめてー!!」



先ほどの男達の声が蘇ってくる。
車の中だわ、人には見られるわ、丁寧に後始末までされるわ、



(あたしの人権は・・・・・・!)



何処に行った。勿論遼の胸次第。
そんな男でも惚れてるんだからしょうがない。



「ぎゃーって、お前・・・・・・」



アパートに戻ったのは深夜2時。
香が疲れ果てていたのは言うまでもない。



アパートに着いて真っ先に香がしたことは、車の持ち主に悪いと思いつつも、ダッシュボードの中のウェットティッシュをごみ箱行きにすることだった。





        ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆