●Do you need me?・・・・・・I need you●



あたしたちって恋人同士じゃない。




パートナーだって、都合のいい言葉だわ。
でも、一番その言葉に安心してるのはあたし。
パートナーでなかったらこんなにリョウに立ち入ることは出来ないし、もし恋人なら・・・・・・ううん、恋人なんてあたしには荷が重過ぎる。
そういう甘い言葉はあたしには似合わない。



当たり前みたいに一緒の時間を重ねながら心はすれ違ってばっかり。
あんなわかりにくい男、そうはいないと思う。
抱かれる・・・・・・こういう言い方って好きじゃないけど、そうなってから、あたしたちの関係が変わったかというと、ぜんぜん変わってない、と、思うのよ。
それどころか、少し居心地の悪いものになってしまったのかもしれない。
醜い喧嘩、言い争い、いっぱいして、やっと落ち着いてきた。



その度に恐ろしくなる。
遼の持つ闇の重さに。



私の好きなあの人の心の中には、あたしの立ち入れない場所があるの。
それが悔しくて。
その場所を理解できない自分がどうしようもなく悔しくて。
もどかしい。



あたしの手に与えられた武器は心しかない。
あたしを好きだという、ひょっとしてあなたから見れば未熟で幼稚な心しかない。



それでも逃げ出したくない。



あなたの傍にいたい。



素直に甘えることも出来なくていつも傍にいる理由を探してる。



正直、男の人の肌がこんなに気持ちいいなんて知らなかった。
男の人の肌って熱い。
遼の肌は引き締まってすべやかで触れていると心地いい。
男の人って何もかも違う、なんて思ってしまう。
いくらあたしが男勝りでも、全然違う。
そんな風に気を逸らしていると決まって遼はあたしにキスをする。
あたしは遼しか知らないから、巧いとか下手とかわかんないけど、魂が抜かれるような、キスというより接吻とでも表したほうがしっくりくるような、そんなキスをしてくる。



口の中から遼の舌が消えても、まだ柔らかさとくすぐったさが残っている。
「すっげー。やらしい顔してるよ、お前」
意地悪だ。
そんなこと言われても自分じゃわからないってば。
まだ、口の中が痺れてるみたいなんだから。
やめてよ、ほら、また。
「顔、真っ赤」
人一倍照れ屋なのかな、慣れないし、すぐ顔が赤くなっちゃう。
キスだけでいつも駄目になっちゃう。
裸になるのも恥ずかしい。
あたしはそんなに自分のプロポーションに自信が無い。
あったら大丈夫なのかもしれないけど。
それでも、こうして遼の為すがままになるのは、多分、これが彼への信頼を表す一番の行為だと思うから。
「服、脱がすよ・・・」
あたしはただ黙り込むしか出来なくて、遼はそれを了解だととったらしく、器用にあたしの服を脱がせていく。
こういうとこを見ると、遼は慣れてるんだな、なんてちょっぴり悲しくなってしまう。
仕方の無いことなんだろうけど。
あたし以外の人にも、触れたんだ。



最後の一枚を剥ぎ取られる瞬間になって、
「あ、明かり・・・消して・・・」
喉が絡まってうまく声が出ない。
上ずって興奮したみたいな声になる。
やだな、恥ずかしい。
遼はあたしを見て、ちょっと口の端を持ち上げて、
「・・・・・・オーケイ」
明かりを消してくれた。やっと落ち着く。
落ち着きついでにおずおずと腕を伸ばして遼に抱きついてみる。
振り払われないかと一瞬不安になるけれど、抱き返してくれる。
嬉しい。
広い肩に包まれて雛鳥にでもなったような気分。
背中に回った遼の手が不思議なリズムで撫でてくる。
最初は背中の真ん中あたりを撫でていたんだけど、段々手が下に下りてくる。
残った一枚を脱がそうとしてるのかな。
くすぐったくてもぞもぞしてしまう。
遼はそれが面白いのかずーっと撫でている。
「遼、も」



「ん?」
「遼も・・・服・・・脱いでよ・・・・・・あたしばっかり」
いつもあたしばっかり翻弄されて、少し悔しい。
キスも抱き合うときもあたしは心臓が口からぽろっとこぼれるんじゃないかと思うくらいどきどきしてるのに、いっつも遼は余裕シャクシャク。
こんなにどきどきするのはあたしだけなの?
「じゃぁ、お前が脱がせてくれよ」
えーっ!普通ってそういうことするの?そういうもんなの?こういう時って。
無言の抗議はニヤにヤ笑いで撥ね付けられて・・・・・・わかったわよ!やりゃあいいんでしょ!やりゃあ!
遼の腕を上げさせてTシャツを脱がせる。
あたしなぜか正座。
自分より図体のでかい相手の服脱がすのってひょっとしてすごく大変なんじゃないの?
さて次は、と、ズボンに手を伸ばそうとするけれど・・・・・・やっぱり出来ない。
ちらり、上目遣いに遼を見るけど、・・・駄目、許してくんない。
ジーンズのウエストに手をやって、ボタンに手をかけるけど、震えちゃう。
すると、遼があたしの手に自分の手を重ねてきた。
「わーかったよ、もう」
遼は自分で残ったズボンをちゃっちゃと脱いで、そのまま下まで脱いで・・・・・・要するに全裸になってしまう。
あたしは見ていられなくてシーツに包まった。
寸前に垣間見た遼の身体は、引き締まっていて、浮き出た鎖骨のラインが閉じた瞼の残像になって残る。
「何隠れてんの、お前」
あたし、あんたが何でそんなに堂々としてるのかわかんない・・・・・・っ!
羞恥心ってものは無いのか、羞恥心ってものは!
「はっ、恥ずかしくないのぉ!?」
「別に。お前、何度も見てるだろ」
まだ慣れないわけ?
駄目です。慣れません。
シーツの中を逃げようとするけれど、たくましい腕に掴まって、両手で頬を挟まれる。
「でっけぇ目・・・・・・」
悪かったわね。
昔から嘘のつけない顔ってよく言われたわよ。



嘘なんてつかない。
あなたとこうしていたいからここにいる。
無理なんてしてない。
これが一番あたしの自然な形。



きっとあたしまだほっぺた熱い。
遼は触ってるからわかっちゃうよね。
遼はあたしのことは全部お見通し。
恥ずかしいけれど、嫌じゃないって、そこまでちゃんとわかってくれている?
あたし、こういうことされることが、決して嫌なんじゃないんだよ。
嬉しいのよ。



けれどあたしはこういうことにいつまで経っても慣れなくて、今も緊張してる。
遼がそんなあたしにちょっと眉を眇める。
眉がほのかに寄せられて、悲しげな表情に見える。
遼の目に暗い影が差すとあたしは途端に胸が引き絞られるように痛くなる。
今もそう。
悪態をつくことも忘れて、遼を見入ってしまった。
遼が目を閉じて顔を寄せてきたので、慌てて私も目を閉じる。



あたしが、あなたを悲しませたりしていませんか?



寄せられた唇があたしの唇の寸前で止まる。
あ、煙草の匂い。
あたしは煙草吸わないんだけど、煙草の味にはもう慣れた。
それは遼のキスだから。
きっとあたしは一生煙草の味がしないキスは知らないままだと思う。
遼が禁煙しない限り。
遼に染み付いた煙草の匂い。
髪に香る煙草の匂い。
触れていないんだけど触れてるみたい、唇がじんじんする。
熱を持った唇の輪郭を遼の舌がなぞる。うっすらと唇が開いてしまう。
「・・・・・・誘われてるみたいだな」
「そ・・・んな・・・・・・こと・・・・・・」
誘うだけの器用さがあれば良かったのかもしれないけど。
遼の唇が降りていく。
喉から鎖骨のくぼみ、くすぐったくて身をよじる。
遼の手があたしの胸をシーツの上から優しくもんでくる。
親指で乳首の上を掠められて、びくりと反応してしまう。
遼がくすくす笑ってる。
あたしって感じやすいのかな。
でも、それは全部遼が悪いんだと思う
あたしに全部教えたのは遼なんだから。
そう、結局、遼の思うがまま。
乳首をシーツの上から吸われて、
「やっ・・・あ・・・ん・・・」
思わず声が出る。
やだ、あたし何て声だしてんの・・・!
これ以上余計な声が出ないように両手で口を覆う。



遼はあたしの身体から的確に快感を引き出していく。
それはわき腹のある一点だったり、太腿の内側だったり、二の腕の柔らかいところだったり、あたしが知らないあたしの感じるところを遼は細かく憶えてる。
遼は直にあたしの乳房に触れてくる。
硬くしこった乳首が痛いくらいに感じる。
こんなに感じてあたしどうなっちゃうんだろう。
快感ってものをあたしは遼に教えられるまで何も知らなかった。
遼に与えられるままに快感に染め上げられていく。
どんどん自分が変わっていくのが怖い。
あたしの最後の砦に遼が忍ばせる。
あたしは足をきつく閉じようとするけれどうまく力が入らない。
「香、かわいい・・・」
こんなときばっかりそんなこと言って、遼はあたしの力を奪おうとする。
でも、うっとりした遼の囁きは決して嫌じゃない。
「あぁん・・・!」
口を塞いだ手の間から悲鳴が漏れた。
遼の指が触れるところに、どうしてこんなにと思うほど熱が生まれる。
「濡れてるよ・・・香」
そんなこと言わないで。
いたたまれなくなってしまう。
あたしは多分ちょっと泣きそうな顔をしていたのだと思う。
なだめるように遼があたしのこめかみや目じりについばむようなキスをしてくる。
くっと入り込んでくる遼の指に鳥肌が立つ。
思わず力が入る。
そうすると遼の指の形がはっきりとわかるような気がする。
「香・・・ここ、舐めていい?」
あたしが何も言わないうちに遼はあたしの足の間に身体を入れて、下腹に舌を這わせてくる。
お臍を舌で抉る。
熱が競りあがってくるような感覚。
「香・・・・・・」
あたしの返事を待たず、遼はそのまま足の間に顔を埋めた。
暖かい吐息が吹きかけられる。
逃げようとしても腰ががっちり固定され、かえって遼に向かって突き出すようになってしまう。
そこを遼の舌が捉えた。
「やだ・・・・・・っ!んっ・・・!は・・・あ・・・!」
じんわりと熱が溢れていくような感じがする。
じんじんと痺れる。
舌はちろちろとあたしの弱いところを刺激する。
もうあんまりしっかり考えることが出来ない。
すがりつくものが無くて、でもすがりつきたくて、行き場の無い両手を遼の髪の間に差し込んだ。
「や・・・だ・・・っ!」
あたしは与えられる快感の量に追いついていけない。
こんなに乱れてしまっていいのだろうか。
あたしどこか変じゃない?
駄目だよ、もうあまりちゃんと考えられない。
やっと腰を解放されたときには、足を閉じるだけの力もなくて頭も霞がかかったようになっている。
あたしはぱたりと腕をシーツに落とした。
胸が激しく上下してる。息苦しい。
「遼・・・・・・」
呆れてない?
こんなあたしでもいいのだろうか。
「どうした?もう、へばっちゃったか?」
抱きしめてくれる。
やっと安心する。
そのまま首筋から耳を辿って、遼の頬にキスした。
遼が珍しくじっとしているので、あたしは遼の顔を唇で記憶した。
高い鼻梁や、案外長い睫、意志の強そうな眉と引き締まった顔。
そこから顎にキスをするとざらっと舌感触、唇は乾いて熱かった。
あたしは絶対遼を忘れない。
この顔をこの声を忘れない。



たとえ、あたしがいなくなっても、この記憶だけはどこかに残るといい。
あなたをこんなに大切に思う記憶だけは。



丹念に口付ける。
何度も何度も繰り返し、口付ける。
薄っすらと笑みを浮かべる口角に唇を寄せたとき、遼が唇を合わせてきた。
もうじっとしてるのに飽きたとでも言いたげな激しいキス。
どちらのものともつかない唾液が流れ込んでくる。
キスって甘いものじゃないと思う。
少なくともあたしにとってはそう。
キスするたびにカウントダウンが進んでいくみたいな気がする。
一回一回どんどん価値を増していく。
遼とキスできるのはあと何回?
なんて思うと、一度触れ合った唇を離すのが切なくてたまらない。
遼があたしの足を抱え上げた。
「入れるぞ・・・・・・」
いちいちそういうこと言わないで欲しい。
恥ずかしくなるから。
欠けていたところに破片が収まるような満ち足りる感じと、圧迫感、この瞬間はいつまでたってもなれることは出来ないと思う。
ぐっと遼が押し入ってきた。
「はぁ・・・んっ・・・・・・!」
あたしの身体は柔軟に遼を受け入れる。
それこそ初めての頃は痛みにきゃあきゃあ騒いでたけど、もう我慢できないほどじゃない。
しばらく動かないでじっとしていてくれる。
トク、トクと遼の鼓動は、充分に早くなっていて、嬉しくなる。
ああ、生きててくれたんだなあ、って妙に嬉しくなる。
「も・・・だいじょぶ・・・よ・・・・・・?」
遼はあたしに無理な負担がかからないようにゆっくりと進めてくれる。
でもそれって、逆に遼に負担をかけてる、きっと。
あたしは遼が望むならどんなに辛くても構わない。
ゆっくりと動き始めた遼にあたしは必死で応える。
湿り気のある音が聞こえてくる。
こういうのって、あたし本当に駄目。
恥ずかしい。
セックス・・・って、この言葉にあたしはいつまでもなれることが出来ないんだけど、この行為は決してロマンティックなもんじゃない。もっと人間的、ううん、動物的な行為だと思う。だからこの瞬間だけはいつも着ている余計なものを脱ぎ去ってぶつかり合えるのだと思う。そう考えるとこの行為が神聖なもののように思えてくる。
不思議、こんなに恥ずかしい、苦手なことなのに、もっと抱かれたいと思ったりもする。
遼の作り出すリズムは不規則に変化して、あたしはついていくので精一杯。
あたしは遼に何かあげれてるのかな。あたしばっかりいつももらっているような気がする。
こうしていることで、あなたを癒せていると感じるのは、あたしの思い上りですか?
「香・・・・・・!」
少し調子を荒げた遼の声に切なさが増す。
もっときつく抱きしめて、もっともっとあたしを求めて。
想いを全部ひっくるめて、何度も遼の名前を呼んだ。



熱が引いて、静かになったベッドの上、背中を向けて眠るリョウに、手を伸ばそうとして、やめる。
抱きしめたいけど躊躇う。
どうしても一瞬考えちゃう。嫌がられたらどうしようって。
一旦背中を向けられてしまえば、こっちを向いて、抱きしめてって言えなくなってしまう。
本当は人一倍さびしがりやで甘えたがりのあたしだけど、遼の前ではあんまりそういうところを曝け出せない。
そんな自立してないあたしじゃ遼にはふさわしくないんじゃないかな、とも思ってしまうし。
あなたの傍にいるためには、甘えていてはいけないのでしょう?
でもね、愛しているとか、そばにいてとか言えなくて、つらいときもあるの。
こんなんじゃ、遼を知らなきゃよかった。そう思うときも、確かにあるのよ。
遼が寝返りを打った。
こちらを向く遼の顔。
そうっと手を伸ばして遼の頬を撫でる。
起きる気配は無い。
「遼・・・・・・」
しばらくそうしていると、遼の唇が動いた。
「眠れないのか?」
「起きてたの・・・?」
「お前の手、気持ちいいな」
「何でこんなに気持ちいいんだろうな・・・・・・お前って」
あたしはうっかり涙が出そうになる。
この瞬間死んでもいいと思う。
あなたがあたしが傍にいることを許してくれるこの瞬間に。
「あったかいな・・・・・・」
遼があたしの髪で遊んでる。
「・・・あたしが遼をあっためてあげる」
遼はちょっときょとん、としてあたしを見る。
「手、貸して」
遼の節の立った指をあたしの指に絡めて、きゅっと包む。
手の先から熱が循環していくような感じがして落ち着く。
遼は、そんなあたしに笑いかける。
あ、すごくやさしい顔。
あたしの好きな顔。
ずっとその顔で笑っていて欲しいの。
「本当に・・・何でこんなにお前って」
続きはよく聞えなかった。
あたしは遼に触れていられる理由を見つけて嬉しくなる。
「もう、寝ろ・・・・・・」
優しい声は子守唄みたい。
眠気が押し寄せてくる。
遼の手を握りしめたまま、眠りに落ちる瞬間、
「本当に、何でこんなに愛しいんだろうな・・・・・・?」 遼の声を聴いたような気がした。



何度身体を重ねても、言葉をもらっても不安になるの。
でも、ずっと一緒にいるって約束したから。遼の傍にいたいから。
だから、いつも傍にいられる理由を探してる。
そして、やっとその理由を見つける。
悩んで、迷って、苦しんで、それでも理由を見つけられたことが嬉しくて、涙が出るほど嬉しくて、その瞬間に何もかもが報われる。
その気持ちを伝える術の無いあたしは、ただあなたを思うことしか出来なくて、ただ、こうして、ただあなたの手をあたためている。




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