●8月15日によせて。●



ウー…………

テレビから鳴り響くサイレンにふと視線を走らせれば、あぁそうか……と、
今日この日の意味するところを確認して、小さく嘆息する。



日本人でありながら、己の出自については何も知らず。
日本という国が負ってきた歴史について、学ぶコトも知るコトもなかった俺には、
愛国心なんてぇモノはカケラもないが。
銃の重さや火薬の臭い、鉛の弾が身体を突き抜ける時の鈍い音。
そして何より、生きていくための……生と死の間を生き抜く緊張感については、誰より知ってると自負してる。



親兄弟も、心残す女もいない俺は、何にも縛られるコトもなく。
後ろ髪引かれてくコトなく、銃弾降りしきる中へと進んでいけた。
感情を分かつものなど、足枷にしかならない……常に孤独であるべきだと、そう思っていたのに。
日本に来て、こいつと出会い。
ぐだぐだ文句言い合っていただけなのに……
いつの間にか、どっぷりと、しがらみだらけの毎日になっちまった。



「愛する者のために生き延びる……」
そんな陳腐なくさいセリフを、まさかこの俺が吐くことになるたぁな。
向後の憂いになる存在なんてと思ってたのに、守る者がいるからこそ、強くなれる……。
そんな風に宗旨変えしちまうんだから、俺も相当だ。



だが……横でのんきに洗濯物を畳んでいるオンナの存在が、これ以上ないほどに愛おしく。
彼女のコトを思えば、あふれんばかりの力が漲り、たとえどんなコトだろうとやっていける……そう思えるし。
また、そのかけがえのない彼女の存在が、これ以上ないほど愛おしかった。



「ねぇ、リョウ。お昼、どうする?」
洗濯物を畳みながら、ふと顔をあげた香が問い掛ける。
「ん~?何でも」
「もう……っ。そんなあいまいなんじゃなくて、何かメニュー、あげてよね」
「腹がふくれりゃ、何でも~」
「……もうっ。お話にならないわ。男ってのは、これだから、まったくもぅ……」



畳み終えた洗濯物を抱え、リビングを出て行く香。
その背にちいさく微笑みながら。
「お前が作ってくれたモンなら、何だっていいさ…」と、らしくもないセリフを……
生涯、彼女には聞かせられないセリフを、ポツリと吐いた。





END    2013.8.15