●Baby,baby,baby●



仕事のカタがついて、ようやく帰って来れた日本。

素敵な知らせを受けてから、もう何ヶ月たったかしら。
いくらたくさんの部下を抱える管理職だからって、これじゃぁ自分を犠牲にし過ぎるわよね?
ブツクサと文句を言いながらタクシーに乗り、懐かしい新宿の、
これまた懐かしい、記憶より弱冠アンティークさを増したアパートに着けば。
あらかじめ来訪時間を告げていたせいか、玄関の呼び鈴を鳴らすと共に、パタパタと懐かしい足音が近付いてきて。
「おかえりなさい、さゆりさん!!」
と、とびきりの笑顔に抱き着かれた。



「ホントは空港まで迎えにいきたかったんだけど……」
と、リビングに通されて、コーヒーが出されるとともに、早くも始まる誰かさんへのグチはいつものコト。
これも愛情の裏返しなのよね。(笑)
「いいのよ、香さん。毎日、大変なんでしょ?」
「う~ん……まぁね。でもようやく慣れてきたわ?だから今日も、空港に行くつもりだったのに、リョウが……」
「そういえば……冴羽さん、は……?」
みなまで言う前に、階段からゆっくりとした足どりで下りて来た噂の主は、いつもながらの美丈夫で。
香さんがぞっこんなのも、頷ける。
「よぅ、いらっしゃい」
そしてふてぶてしい笑みとともに挨拶を切り出す、その手には……産まれたばかりの、小さなベビーが眠っていた。



香さんと冴羽さんに赤ちゃんが出来たと聞いてから、会えるのを今か今かと待ち続け、正直、仕事も上の空だったわ?
でも、放り出すワケにもいかないし……そりゃぁ頑張ったわよ。
あぁ、でも、そんなコトどうだっていいの。
何たって、香さんも赤ちゃんも、とても元気そうなんですもの。
「……はい、さゆりさん?」
冴羽さんの手から抱き受けた赤ちゃんを、香さんが私へと向ける。
NYでも会社のシッタールームを利用してる同僚にベビーを抱かせてもらったりしたけれど、この子は違う。
抱き寄せた胸の中で、まだよく見えない目をしばたかせ、
はにかんだようにちいさな唇から、むにゃむにゃと言葉にならない音を発する様が、愛おしくてならなかった。
あぁ、もしかしたら、これが血のつながりってモノなのかもしれないな……。



「いやぁ~さゆりさんみたいなもっこり美女に抱かれるなんて、うらやましいぜ。さゆりちゃぁ~ん、次はボキだっこしてよぉ~」
年甲斐もなくそのまますりよってくる冴羽さんに、肘鉄を喰らわせる。
まったくもう……冴羽さんたら、全然成長しないんだからっ!!
横では香さんが呆れたように苦笑しながら、そっと私の腕から赤ちゃんを抱き上げた。
それはすっかり母の貫禄で、そんな二人を見つめる冴羽さんの黒い瞳にも、穏やかな優しさがのぞいていた。
何だかんだ言っても、冴羽さんは二人を大事にしてくれてるようだし。
そんな冴羽さんを知ってるからこそ、香さんも、
今までならハンマーを振りかざしてたであろう冴羽さんの行状に、余裕の笑みを浮かべてられるのかな。



「ふふ……。こんなに可愛い奥さんとベビーがいたら、空港まで出向くヒマなんてないわよね」
と、冴羽さんに向かってウインクすれば、ふっ……と、鼻で笑われた。
昔なら"誰が奥さんだよ。俺はさゆりさんと、もっこりデートがしたいのぉ~♪"とか言ってたクセに…。
どうやらズバリ、本音だったみたい。
確かにこのベビーと離れるくらいなら……ふふ。
空港くんだりまでの長距離なんて、誰でも遠慮こうむりたいわよね。(苦笑)



楽しい会食のあと、旅の疲れから早くに失礼したせいか、変な時間に目が覚めちゃった。

まだ時計の針は日付を越えて少ししかたってなくて、朝はまだまだ先のよう。
まだ再会の興奮覚めやらぬといった感じだけど、もう一眠りしようかな……。
と、そんなコトを思った時、ふいに階下から赤ちゃんの泣き声が聞こえた。
こんな時間に…夜泣きも大変ね。
ミルクのお手伝いなりあやすなり、少しでも助けになればと、声を頼りにリビングに行けば。
そこには予想外にも、赤ちゃんを抱く冴羽さんの姿があった。



「~………」
電気を消した、カーテンからもれ出すネオンのだけの薄暗がりの中。
大きな太い腕にしっかりと赤ちゃんを抱き、ゆっくりと何事か話しかけながら揺らしてあげる様は、すっかり父親の"それ"。
本人に言ったら、絶対バカにされるだろうけど……どうして、どうして。
しっかりパパ業、やってるんじゃない。
意外な展開に驚きながらも、その静かな二人の姿を物陰からじっと見つめれば。
「~…………」
その抑揚のある低い声は……もしかして、子守唄?!
「……天下のニューズウィークの支局長が覗き見たぁ、あまり誉められたモンでないんじゃない?」
まさか冴羽さんがと息を飲んだ瞬間、いきなり声をかけられた。
あら……気付いてたのね。



「……別に、覗いてたワケじゃないのよ?赤ちゃんの泣き声が聞こえて、てっきり香さんかと……」
「あぁ……昼間めーいっぱい、家事に育児にと頑張ってんだ。夜くらいぐっすり寝かせてやらなきゃ、もたんだろ」
……あら。さっきの熱い二人の関係から察するに、その"夜"も、もしかして誰かさんのせいで眠れないんじゃないかしら……?
何となくそんな気がして、それとなく探りを入れれば。
「……そこまで野獣じゃねぇよ」
と苦笑された。
でもその頬が、夜目にもほんのりと朱いように見えるのは……あながち、ハズレってワケでもなさそうね。





こうなる前から、とにかく仲のいい二人だもの。
きっとそんな夜もあるんでしょう。
ようやく手に入れた大切な女性(ひと)を、片時も離したくない……。
冴羽さんの独占欲の強さは、二人が一歩進んだ関係になってしばらくたった頃、こっそり香さんに相談されたっけ。
もしかしたら、ベビーにもヤキモチやいてるんじゃないかしら……?
かわいそうだけど、香さんにとっては、夜も大きな赤ちゃんをあやす仕事があるみたいね。(苦笑)



「眠ったの?」

「……あぁ。さっきミルク飲ませたから、腹がふくれて安心したんだろ」
冴羽さんがミルクを飲ませる姿なんて、ものすごい貴重映像じゃない?
見逃すなんてもったいないコトしたわ、と、からかえば。
フンと鼻で笑って、そっぽを向いた。
「さて……と。夜はまだ冷える。さゆりさんも早くベッドに入った方がいいぜ。何なら俺があっためてやろうか?」
甘い低音に囁かれてドキリとして、香さんも苦労するわねと肩をすくめた。
そして黙って赤ちゃんをこちらへと抱き受けた。



「今晩、赤ちゃんは私が預かるわ。香さんもたまには赤ちゃん抜きで、ゆっくり寝たいでしょうし。
それに……冴羽さんがそばにいるコトが、何よりの安眠になるでしょうからね」
軽くウインクして、やわらかな重みを抱き取れば、びっくりしたように片眉をあげてニヤリと笑った。
「……ほんじゃ、お言葉に甘えますかね」
そう言って、楽しそうにくすくすと笑いながらゆっくりとリビングを後にする。
「……ねぇ。しっかり香さんを寝かせてあげてね?間違っても襲っちゃだめよ?」
急に心配になって、その後ろ姿に小声で囁けば。
「夫婦だからなぁ~まぁ、善処するよ」
と、意地悪げに片手をあげて微笑んだ。



「おはよう、さゆりさん。昨夜はありがとうございました」
翌日。元気いっぱい、とびきりの笑顔の香さんになってて、よかったと思ったけど……。
「夜泣きとか大丈夫でした?さゆりさんの方が寝不足になったんじゃ……」
と、こちらを気遣わしげに、物憂く頬にかかる髪を耳の後ろへ流した、その瞬間。
耳の後ろにくっきりと朱く、行為の跡が見えかくれして……もうっ!!冴羽さんたら……っ!!
「……ううん?いい子にして、よく寝てたわよ?」
さりげなく"そこ"へと視線が行きかけるのを寸でで押し留め、
怒りの矛先を、まだ自室のベッドで寛いでいるであろう件の男に向けつつ、そっと肩をすくめながら笑みを返せば。
「本当に?よかった~」
と、これまたとろけそうな笑みを返され、同じ同性ながらも、思わずドキリと胸が高鳴った。



昨夜、どれだけその身体を酷使したかは聞かないけれど……これだけ幸せそうに微笑まれたら、敵わない。
愛し愛され、二人が二人らしく幸せであるのなら……。
それなら、文句は言わないわ。
でも、万が一にも、香さんの身体に負担がかかりすぎる愛しかただったら……。
「ただじゃおかないんだから」
「……え?」
思わず口を突いたセリフを耳聡く聞かれ、"ううん、何でも"と首を振り。
"香さんには内緒、ね?"と、いつの間にやらこちらをじっと見つめてた腕の中の小さな温もりに、そっとウインクをした。




END    2011.6.5



■あとがき■
「イラ下さいっ!!」と、どーしようもない駄文を送りつけたところ、
Makotoさんからこんなに素敵なお作をいただきました。わーいっv
おまけでリョウ&べビの、穏やかなショットもいただきました。
べビと二人きりの時、きっとこんなにデレデレなんだろうな。
香にも見せられない、内緒のツーショットでしょうか。(笑)
Makotoさん、ありがとうございましたっ!!(感謝)


そんな魅惑のツーショットは、こちらから♪

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