●カウントダウン!!●



「香ぃ~リビングの掃除、終わったぞー」

掃除機を片付け、ソファにドサリと腰を下ろすリョウ。



「ふぅ~…私もやっと、おせちを詰め終わったわ。

これで何とか、無事に年越しが出来そうね。はい、お疲れさま♪」
そう言って、コーヒーを手にリビングに入ってきた香は、リョウの隣に腰掛けた。
12月も後半になって珍しく依頼が続き、暮れの準備どころではなくなってしまった。
そんなわけで今日はもう、大晦日の当日。
早くも夕食に年越し蕎麦を食べ、そのあと慌しく大掃除をしていたところ。
テレビからは除夜の鐘が聞こえ、今年があと少しで終わることを告げている。



「はぁ…。どうなることかと思ったけど、コレでやっと、安心して年が越せるわね?」
肩の力を抜き、心からホッとした香を横目に、リョウはズズズとコーヒーをすする。
「…ったく。家ん中が多少汚くったって、年は越せるだろ?
だいたいだな。今日と明日と、その一日に、いったいどれだけの差があるってんだよ。
まったく…リョウちゃん疲れて、もうヘロヘロ~…」
「何バカなこと言ってんのよ!!一年の始まりをきれいな部屋で迎えることは、大事なことよ?
汚い部屋で迎える新年じゃ、その一年がいやらしく感じられるじゃない?
だいたいリョウが、普段からきちんと片付けるようにしていれば、こんな年の瀬にまとめて片付けなくったていいのよ」
「…」
うるさいヤツ…と睨み返すが、香はまったく、意に介さない。



「ちょうどいいわ、リョウ。来年の抱負を決めましょう?
来年は、使ったものは自分できちんと片付けること!!
脱いだシャツや靴下を、ポンポンと放ったままにしないこと!!」
「な、何なんだよ、それはっ!!ガキじゃあるまいし、そんなコト、抱負にすんな!!」
ガチャリとカップを置き、香に突っかかる。しかし当の香も慣れたもの…と、少しも動ぜずニヤリと笑う。
「アンタにはそれくらいが、ちょうどイイの!!それとも・・・何?ほかに何かイイ抱負でもあるの?」
「…」
「ほぉ~ら!何も無いじゃない。アンタにはそれがピッタリよ♪」
鬼の首でも獲ったかと、得意げに笑う香。しかし、言い負かされたままではシャクだ。
何かないか。香をぎゃふんと言わす何か…。



「そ、そうだ!!じゃぁ、お前の抱負も考えてやらなきゃな。俺だけじゃアンフェアってもんだ」
「アンフェア…って、そーゆー問題?」
いぶかしむ香に、リョウは負けじと、たたみかけるように話を続ける。
「いーんだよ。そうだな…お前の来年の抱負はズバリ、ハンマーを使わない!!
「…はぁ…?何をバカなことを…」
「だいたいなぁ、考えてもみろよ。仕事しろだの家計が苦しいだのと言ってるが、我が家の支出の一番の理由は、家の修繕費だろ?
それもこれも、お前がところ構わずハンマー振り回したり、トラップ仕掛けたりするのが原因だ。

だから来年は、ハンマーもトラップも禁止!!そうすりゃ家の家計だって、潤うってもんさ。めでたしめでたし♪」



何をバカなことを…と呆れつつ、家の修繕費が結構な金額なのは事実なだけに、すぐには反論出来ない。
でも、それでもそのハンマー禁止ってのは、ちょっと…?
「バカなこと言わないでよ。そもそもアンタが依頼人に手を出したりしなきゃ、私だっておとなしくしてるわよ。
私がハンマー使う大元の原因は、リョウ、アンタじゃないの!!」
「な、何を言ってやがる!!もっこりちゃんにもっこりしないのは、失礼ってもんだろ。礼儀だ、礼儀っ!!」
「ドコの世界に、もっこりが礼儀だなんてとこがあるんだ!!この、うすらトンカチっ!!」
「うすらトンカチとはなんだ、うすらトンカチとは!!この怪力オンナ!!」
「なんですってぇ~っ?!」
互いの襟首をつかみ、噛みつかんばかりに罵り合う二人。



「だいたいアンタは…」
「だいたい、お前はだなぁ…」




今まさに、二人の怒りがピークに達しようとした瞬間。
最後の除夜の鐘が鳴り終わり、テレビの画面がぱっと変わる。



真っ黒な空にきらめくイルミネーション。
大輪の花のような花火が、次々と打ちあがる。
そして、色鮮やかな晴れ着を身にまとったアナウンサーが言った。
新年、あけましておめでとうございまぁ~す♪



「……」
「……」



テレビの画面に釘付けになる二人。
互いにふっ…と笑い、襟元をつかんでいたその手を離す。



「ま、そんなことで。今年もよろしく…な…?」
苦笑とも、照れ笑いともいえる顔でリョウが言えば
「…こちらこそ。お手柔らかに?」
苦笑しながら、挑戦的な笑みを浮かべる香。



そして互いにくすくすと笑い出し、テーブルのカップに手を伸ばす。
それはまだ、ヤケドしそうに熱かった。



今までの争いはどこへやらと、互いの体にもたれる二人。
空に白いものが舞いだした外気に負けないくらいの温かい空気が、そんな二人を包んでいた。




END   2005.3.18