●Girl of match selling●



世界的大不況も、何のその。

我が冴羽商事はめでたくも、依頼無しンヶ月という記録を更新中。
このまま行きゃぁ、今までの新記録達成だ。
めでたいこと、この上ない。(苦笑)



「困った時の冴羽商事、何でもやります。よろしくお願いしまーすっ!!」
小雪チラつく新宿駅、東口。
そんな寒さも何のその、と、いつものとおり、元気いっぱいの香の声が響き渡る。
こちとら寒くて、色んなトコが縮み上がってるっつーのに。
まったく……金絡みだと目を変えるんだから、女ってのは恐ろしいぜ。



「……ちょっと、リョウっ?!しっかりビラ配ってよね。アンタがそんなんだから、仕事がこないんでしょーがっ!!」
と、香のヤツが噛み付いてくるが、コートの襟を立たせて、ポケットに手ぇ突っ込んだままの俺はといえば。
道を隔てた向こう側、新作タバコを配ってるキャンペーンガールのもっこりちゃんたちに、
さっきからもう、身も心も釘づけだ。



小雪降りしきる中、ファーの着いたショート丈の白い革ジャンを着ちゃぁいるが、
どのコもファスナーがはち切れんばかりのボインちゃん。
際どいライン、ギリギリのミニスカートに、足元を飾るのは同色の革ブーツ。
スラリと伸びたおいしそうな太腿に、まぁるいお尻がぷるりと揺れる。
その姿はまるで、真っ白なウサギちゃんそのもので……
あぁ、オオカミさんじゃなくたって、食っちまいてぇぐらい、かわいーぜっ!!(感涙)



「……ちょっと!!アンタいったい、ドコ見てんのよっ!!」
そんなかわいいウサギちゃんたちをうっとりと愛でていた俺の耳を、
香のヤツが遠慮もへったくれも無く、思い切り引っ張りやがる。
「……ってぇーっ!!何すんだよっ!!このクソ寒い中、つまんねぇビラ配りやってんだ。
かわいいもっこりウサちゃんを少しくらい見たって、何も悪かぁねーだろっ!!」
「……あぁ~ん?もっこりウサちゃん……?」
眉をしかめた香が俺の視線を辿って、もっこりウサちゃんたちを見つけるや否や、
呆れたように肩をすくめながら、ぷぅと口元をふくらませた。



「……何よ、あんなの。寒い中、あんなに身体出したら、後で冷えて、大変なんだからね?」
「はんっ!!冷えだの何だのってぇは、体のいい言い訳だろ?
自分があんな際どいカッコ出来ないからって、強がるんじゃねーよ。
ふふん……香ちゃんは、もうお歳だからムリだもんね~♪」
「……なっ!!わ、わかったわよ、やったろーじゃないのっ!!
あんなカッコくらい、私にだって出来るんだから……っ!!」



そう言って、止める間も無く、かわいいもっこりウサちゃんたちの群れにズカズカと乗り込む香。
………ったく………楽しいヤツ。
売り言葉に買い言葉。
何でもムキになってとことんノッてくるその性格の素直さには、まいっちまうぜ。
クルクルと変わるその表情(かお)を見てるだけで、
俺がどんなに癒されてるかなんざ……露とも思ってねーだろうな。



とはいえ……そもそも香にンなカッコさせる気など、毛頭ない。
だいたい、あんな露出度の高い服着てみろ。
すぐにミックをはじめ、いつの間にか作りやがった香FANクラブなぞという、
どうしようもねぇバカな輩どものオカズにされるのは、目に見えてるってぇモンだろう。
それに……だ。
ウサギちゃんたちが配ってるタバコの相棒といやぁ、ライターだが。
そこからマッチ売りの少女なんてぇ昔話が連想されて……またムカついた。



チビどもに語られるお伽話ではあるが、マッチ売りなんてぇかわいい表現は、表向き。
ホントは金持ちヤローに春を鬻(ひさ)ぐ、花売り女(め)……体のいい娼婦だ。
目の前のもっこりウサギちゃんたちが"そう"とは言わないが……
それを連想させるようなコト、香にさせられるかってーの。



己の身体を売り物に、道行く男たちに手招きする女。
そして金次第で、いとも容易くその身を開く女。
う~………ぶるっ。
ドコぞのヤローどもが香をそんな目で見てると考えただけで、寒気がするぜ。
誰がンな目で見させるかってんだ。
誰がその身体、開かせるかってんだ。

ンなバカなヤツが出て来る前に、この俺こそが……っ!!
なぞと、沸々と胸にたぎる想いを口には出来ず。
ふぅと行き場のないため息をこぼしつつ、女らしさのカケラもなく、
ズカズカと大股で先を行く香の背中に声をかけた。



「……わーったよ。俺が悪かったって」
"ちょっと!私にもその衣装よこしなさいよっ!!"
と、街中であるにもかかわらず、今にも雄叫びをあげそうな香の腕を、むんずと掴めば。
ハリセンボンかおたふく風邪かと見紛うばかりにぷぅとふくれた香が、ジロリとにらむ。
「……ホントに悪かったと思ってる?」
何とも悩ましきは、香の上目づかい。
ジロリとにらむその瞳(め)にすら見惚れちまうなんざ……俺もヤキがまわったか。
とはいえ、口からこぼれるのは悪態ばかり。



「あぁ、お前に風邪ひかれちゃぁ、元も子もねぇからな。リョウちゃんお前の看病なんざ、したくもねーし?」
「なっ……何ですってぇ~っっっ!!!」
これまた海坊主直伝なのか、見事なまでの瞬間湯沸かし器。
今にも噛み付かんばかりの香を振り切って、
これが天下無敵のCITY HUNTERかと後ろ指差されるほどの、脱兎のごとき猛ダッシュ。
この際、ンなこたぁ、おかまいなし。
今はとにかく、コトの始まりたるウサギさんたちから、少しでも離れたかった。
「こぉらぁ~っ!!待ちなさい、リョウ~っっっ!!!」
あとから香がちゃんと追い掛けてくるのを肩越しにチラと確認して、くすりと笑う。
そう……こんな二人が、一番俺たちらしいのさ。



いつもと何ら変わらぬ、新宿の街。
だが、小雪が舞い散る、ただそれだけで。
どこか少しだけ、優しくはかなげに見えるのは……何故だろう?
そんな感傷を振り切って、次第に近づきつつある香の声に、アカンベーを返し。
止む気配もなく、次第に足元をうっすらと白く染めつつある雪景色の中を、元気よく走り出した。




END   2009.2.19