●敗北宣言●



恋は駆け引き、50/50。

先に本気になった方が負け。



その勝負に負け無しの、百戦錬磨の俺だったけど。
くっそ……コイツの無防備なままの寝姿なんぞを見た日には、そんな強気もすべてアウト。
いつも自慢のポーカーフェイスも、あまたの女に幾度となく囁きかけた偽りの愛のセリフも。
コイツの前では何ひとつ通用しやしない。



恋に関しちゃ負けなしの、この俺が。
その口の端にのぼらせる言葉のひとつに、躊躇する。
指先ひとつ動かすのに、躊躇する。
コイツを傷つけてしまわないように……泣かせちまわないように。
そのくせ、隠したままの己の本音が関を切って溢れ出しそうで。
ンな、みっともない自分をさらけ出したくなくて。
気付けばまた、いつもの軽口を叩いてお前を泣かせている。



あぁ……我ながらバカだと思う。
どうしようもないヤツだと思う。
それでもお前は、どんなに傷つけ泣かされても、黙って俺についてきて。
そしてこうして、まだすべてを明かさない裏の仕事を黙って見守り、そんな俺の帰りを待ってるんだ。



そのたびに……己の手を血で汚し、他人の命を奪い、重苦しい気分で帰るたびに。
己の中にかろうじて、カケラほどの大きさで残っている良心の呵責に。
こんな俺でもいいのだと……こんな俺でも赦されるのだ……と。
穏やかで無垢なままのお前の寝顔が、俺にそう言ってくれているようで。
お前の甘い寝息を聞くたびに……そう思うんだ。



あぁ……どこまでも弱くなっちまった俺。
すっかり骨抜きにされちまった俺。
長いこと俺の味方だった勝利女神にも、とうとう見放されちまったか。
それとも、遊びでは無い本当の相手に巡り会ったなら、
人は誰しも、この勝負に勝てやしないのかもしれないな……。



わかった、わかった、認めてやるよ。
仕方ねぇから、認めてやるよ。
潔く、敗北宣言してやるよ。



コイツがホントの相手だと……ただ一人の女だと。
俺にとって最後の女になるコトを……
誰に偽るでもなく、己に偽ることもなく、キチンと認めてやるよ……。



そんな情けねぇ男の意味深いため息の重さも知らず、
すやすやと穏やかな寝息をたてて眠る彼女の唇に。
幾度となく想像した、その甘くやわらかな唇に……。
誰に誓うでもない決意の程を、ふわりと軽く押し当てた。




END    2007.10.18