●はんぶんこ。●



アスファルトでは無い、砂利が混ざったデコボコ感。

この舗装具合からして、この道が私道だというコトがわかるってもんだ。

こんな山道とも言えるに近い車道を香と二人、ただ黙々と下って行く。



山の上に住む依頼人の家(これがまた、片田舎にふさわしい小さな民家だった)から
アパートへと戻る途中、車がエンストを起しちまった。

今日中に帰ると大ミエ切ったジーサンちに戻れるはずも無く、
微妙な起伏のある山中では、携帯電話のアンテナも立ちゃしない。

と言うワケで、二人で歩いて街まで下りることになった。



「あー……腹へったなぁー……」
「ホントねぇ…かれこれもう、何時間くらい歩いたかしら……あ、そういえばっ!!」
「……ん~……?」



香が思い出したように立ち止まり、バッグの中をガサゴソと探し出す。
そして何かを見つけ、にぱっと嬉しそうに笑った。
「じゃじゃぁぁぁ~んっ!!はい、コレvvv」
「おっ、肉まんじゃん。どうしたんだよ」
「へへ~…さっき、坂本のお爺さんがくれたでしょ?あの時、残りのひとつをお土産にいただいたのv」



今回の依頼人たる坂本ってジーサンは、
こんな淋しい山の中に一人で暮らしているせいか、話し相手に不自由していたようで。

仕事の間も、依頼が片付いた後も、やけに香と話を弾ませていた。
「もうすぐ日も暮れるし、どうせなら一泊して、帰るのは明日にしたら…」
という勧めを断ったのは、ひとえにそのジーサンの目が気に入らなかったからだ。



話をしながらも、香の首筋やら胸元にチラチラと視線を走らせていたのに……俺が気づかないワケ、ねぇーだろ。

あんな狒々ジジイのトコに泊まったりしたら…風呂を覗くのは100%、あるいは夜這いも…って感じだ。
そんな危険なコト、誰が許すかってぇーのっっっ!!!
なので車がエンストを起したからと、すごすご宿泊を勧めたジーサンちに戻るコトはしたくなかった。
……っつーか、したくなかった……ってのが、正解だ。



「……で、コレ、一個だけか?」
「……そうよ?」
「もう一個……あるんでねーの?」
「………?」
「だってよ、お前のペタンコの胸のフォローにするつもりだったんだろ?
ならもう一個無きゃ、いくらなんでもバランスってもんが……」

「~~~っっっ!!!」



そこまで口にしたところで、100tハンマーが見事に炸裂。
デコボコ砂利道に、顔から突っ込んじまった。
香ちゃんてば、こんな山道でもこんな重たいハンマー使えるのね……ぐひっ☆



「文句を言うなら、食わんでよろしいっ!!」
「しゅ、しゅびばせぇ~ん……」
ハンマーを片付けながら「フンッ!!」と鼻息荒く手を叩いた香は、やおら手にした肉まんを半分に割った。
ビニール袋にくるまれていたとはいえ、それは表面が少し、乾いてきていて。
そのくせ意外にも弾力を残していて、思うように半分に割ることは出来ないようだった。



「んー………」
大きいのと小さいのと、微妙ながらも大きさに差のある肉まんを、両手にひとつずつ。
それを交互に見やって、小首をかしげて。
軽く唇を噛んで、しばしの間迷った香がにこりと笑って、
俺に差し出したのは……大きい方の肉まんだった。




「……はいっv」
「………」
「……ん?どうしたの?」



差し出された肉まんを手に、今度はこちらが考える。
デコボコの足取りの悪い山道を、ただひたすら何時間も黙々と歩いて来た。
日頃からチャラチャラとしたカッコをすんなと言ってるのに、パンプスなぞを履きやがって。
靴擦れが出来たのか、少し前から軽く足を引きずっていたのを知りつつも、見て見ぬフリをして来た。
コンクリートジャングルたる新宿に慣れた身体にこの山道は、さぞかし酷なことだったろう。
さぞかし腹も、空いているのだろう。
それでも俺に……と、大きい方の肉まんをよこしてくる香の気持ちが、いじらしかった。



「食い意地の張ったおめーから、デカイ方なんか取れるかよ。
食いもんの恨みは人一倍……って言うしな。
だからデカイ方、お前が食え」
と、自分の手にある肉まんと香のそれとを、ひょいと取り替える。
そして「いいよ…」と言いたげな香の口から次の言葉が出る前に、
取り上げた肉まんをペロリと平らげた。




「あぁぁぁ~っっっ!!!せっかく大きい方、渡してあげたのに~………」
呆れながら、ブツブツと文句を言う香。
……ったく……こっちの気遣いにも、まるで気づきやしない。
「さぁ、グダグダ言ってねぇで、とっとと行こうぜ?街まではあと、もう一息らしいからな」
「………?」



夕焼けの茜色が次第に濃さを増し、濃紺へと移り変わる空の色。
それとともに、周囲を闇色に染め始めていた鬱蒼とした木々の間から、チラチラとした光が漏れている。
「あれ……街の灯……?」
「…らしいな。この分だと、あともう一息ってトコだろう。さぁ、行くぞ?」
軽く背伸びをして、また山道を下り始めれば。
「あ…ん、待ってよ、リョウ~ッッッ!!!」
と、肉まんを口に押し込み、フガフガと喚く香の声が追いかけて来た。




END    2006.1.11