●春の嵐●



お風呂に入ってたら、突然窓を激しく打ち付ける、雨の音。

そして嫌な予感とともに、窓の外が異様な光りを放ったと思った瞬間、
バリバリバリッと、耳をつんざくような音とともに、雷が落ちた。
「ちょ……やだ、もうっ」
気圧の変化が激しくて、落ち着かないお天気だとは聞いてたケド、ここまでひどいとは予想外だった。
耳を塞ごうにも、蛍光灯よりも明るくバスルームを照らす、射すような稲光と。
湯舟の水面が細かく波打つような落雷の振動が、不快感をさらに高める。



ガガン……と、アパート自体が震えるくらいの落雷に、ただただ身がすくんで、さすがに降参。
身体を拭うのももどかしくバスルームを飛び出し、リビングに駆け込むものの、
激しい雷雨は一向にやむ気配もなくて。
手近にあったリョウちゃん人形を抱えてぎゅっと抱き寄せるケド、
リョウのいないリビングは、無駄にさみしさを増すばかり。
やっぱりどうにも心もとなくて、
ドドォ……ンと再び大きな雷が落ちたのを合図に、リョウの部屋に駆け込んで、
主のいないさみしさを紛らわすようにベッドに潜り込む。



ドドォ……ン……ガガァ……ン……
「……もうっ……やだやだ、やだぁ~っ!!」
毛布を頭からひっかぶり、耳をつんざくような雷に怯えながら身体を震わせる。
落雷の振動のたびにビクリと身体が震えるものの、リョウの匂いに包まれて、
ほんの少しだけど、気持ちが安らいでいく。
さらに心を安定させようと、傍らのリョウちゃん人形をぎゅっと抱きしめ、
大きく深く、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。



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「香……香っ」
激しく肩を揺さぶられて目が開ければ、
部屋いっぱいの眩しい蛍光灯を背に、大きな影が私を覗き込んでいた。
「お前……何やってんの」
「リョウ……っ」
リョウちゃん人形を腕に抱いたまま、がばりと起き上がれば、辛辣な視線が向けられる。
「……ったく。俺以外のヤローとベッドに入ってんじゃねーよ」
「……っ!!リョ……リョウが居てくんなかったからじゃないっ」
「仕方ねぇだろ?地下のバーで飲んでて、外の天気なんか気付かなかったんだよ」
リョウの勢いに押されながらも周囲に耳を澄ませば、雷はおろか、もう雨の音も聞こえなかった。



「すごい雷だったんだから……っ。アパートが揺れたんだからねっ?!」
「ふん……ンなヤワな造りじゃねぇよ」
「~っ!!とにかく恐かったのっ」
「だからって、なぁ……」
腹立ちまぎれにリョウちゃん人形をさらに抱き寄せたのが気に入らなかったのか、
ぐいと掴んだその頭を乱暴に引っ張って放り投げる。
それにつられて、身体に巻き付けてたバスタオルまで剥ぎ取られた。
「……きゃっ」
慌てて身体を隠すものの、のしかかってきたリョウに両手首を押さえられ、無防備な姿をさらすハメに。
「ちょ……っ!!リョウっ!!」



「……悪かったな。俺が帰って来たんだから、もうアイツはいらねぇだろ?」
チラとリョウちゃん人形を見遣る視線は、嫉妬丸出しで。
突き出した唇が拗ねた子供みたいで、何だかかわいくて笑ってしまった。
「……もう雨も雷も、聞こえないみたいだけど?」
「……意外と意地悪なのな、お前」
「……何が?」
くすくすと笑う私に覆いかぶさるように、唇が重なる。
「一人で恐がらせちまった分、詫び入れるから。な……?」
唇に重ねられたそれが頬を伝って耳元にたどり着き、甘く低い声でそう呟かれたのもつかの間。
熱をもった唇が、そのままゆるゆると首筋をたどって下降していく。
子供みたいと思ったのは、一瞬のこと。
野獣のように私を貪る姿に、ただただ吐息がこぼれる。
そしてそのまま、恐怖に震えた雷雨以上の激しい波にもまれる夜が始まろうとしていた。




END    2012.4.12