●雛祭り●



「わぁ~……ねぇリョウ、見て見て?」
「んぁ~………?」




大きな目をキラキラとさせながら、香が自慢そうに袋から取り出したモノは。
和紙で作られた、一対の雛人形だった。
「これね?あの子たちが私のために…って、一生懸命作ってくれたんですって。
ね?すっごく上手に出来てると思わない?」




満面の笑みとともにズズイと目の前に出されたそれは、
飾り付けられた小さな小箱の上にちょこんと乗せられていて。

和紙を何枚も重ねて厚みを出させ、着物の衿の合わせ目も色美しく整えられて。
金色の紙で作られた冠といい、その穏やかな表情といい、
実に細かく、念の入った仕上がりだった。




「ふ……ん。ガキが作った割には、イイ出来なんじゃねぇの?」
「ん、もう……またそんな言い方して。でもホント、丁寧な作りよね。嬉しいv」



今日……かつて槇村がその援助をしていた「くるみハウス」に、香は一人、出掛けて行った。
雛祭りだから……ということで、香一人が招かれて。
ガキどもを相手に、仲良く一日、雛祭りパーティーなぞをしてきたらしい。
そして帰りに土産として渡されたのが……ガキどもの手作りだという、この雛人形だった。
思ってもみなかった土産に、香は心底嬉しそうで、その口元をにこやかにほころばせていた。



「でもぉ……雛人形って、早くしまわないとお嫁に行けない…って、言われてるのよねー……」
「…………………」



ふぅ……とため息をつきながら、意味ありげな視線をよこす香。
一方の俺は、何を今更……と思ったそれが、無意識の内に表情(かお)に出ちまってたようで。
それを見止めた香が嬉しそうに……楽しそうに、くすりと笑った。



「…………ンだよ」
「………何でも無い」



そう言いつつも、くすくすという笑いを止められなくて。
可笑しそうに口元を隠して、忍び笑いをこぼしている。
そんな香が……おもしろくなくて。
見透かされた想いが……何とも気恥ずかしくて。
「…………コーヒー……」と、ぶっきら棒なセリフで、その場の空気の流れを変えた。



「……はいはい。ねぇ、リョウ?これ……ココに飾っといてもイイ?」
「……………好きにしろ」



帰り掛けに花屋の店先で目に止まったという桃の花を、手ごろな花瓶にスッキリと活け終えて。
周囲に散らかした切り落としの小枝や裁ち鋏をくるくると丸めて、丁寧に片付けて。
「………ありがと」
と、ほんのりと頬を染めて呟きながら、キッチンへと消えた。



3月とはいえ、まだまだ日差しは弱く、薄ら寒い昼下がり。
けれどこのリビングには、一足早い、柔らかな春のぬくもりが訪れていた。




END     2006.3.2