●人の気も知らないで・K●




ふと思い立って出掛けたドライブの、サービスエリア。
休憩のために立ち寄ったトイレから出れば、周囲の女の子が妙に色めき立ってざわめいていた。
「ねぇ、ちょっと。あの人かっこよくない?」
「うわ、ホント。声かけてみようか」
………………。
嫌な予感がしながら彼女たちの視線をたどれば、案の定、
壁に背を預けながら、対面の渋滞案内に目を走らせているリョウがいた。
無駄に長い脚を、足首のあたりで物憂げに組み、ゆっくりと煙草を燻らす指先が妙に色っぽい。
肉厚でいながらととのった口元は、何だかよからぬ想像をかきたてるには、充分で。
本人にその気はなくとも、フェロモンだだもれのような姿は、いい加減、どうにかして欲しかった。



それでなくても、リョウに惹かれる依頼人たちに気をもむのは、日常茶飯事だってのに。
新宿を離れ、こんなトコまで来て、またこの気苦労なんて、やってらんない。
……と、思う心とは裏腹に、リョウを見留める彼女たちに、やる瀬ない嫉妬心が沸いて来る。
まったく……そのいらいらの原因の大元たるリョウ本人が、まったくの無自覚だっていうから、余計にたちが悪いのよね。



きゃいきゃいと手鏡を手に、やおらリップを塗り直す女の子たち。
そのくすくす笑いを向けられてるのが、見知った男であるというだけで、どうしてこんなに苛立つのだろう。
……むか。
逸る気持ちを抑えられず、彼女たちに聞こえるよう、わざと明るく大きな声でリョウに近づいて行った。
「ごめーん、リョウ。待った?」
「……遅ぇよ。しょんべんすんのに、何、そんな時間かかんだ」
「……ったく、デリカシーないんだから……って、ん?リョウ、寒い?」
見れば少しばかり、顔色が悪いような。
それとも光線のせい?
「山の方来たせいか、空気が冷えてるもんね。ほら、ストール貸してあげるから、しっかり巻いて!!」
と言って、襟元に巻いていたストールを引き抜き、リョウの首に巻き付ける。
やだ、何だか恋人同士みたいで、照れちゃうな///
彼女たちを牽制するのが目的だったのに、慣れない行為に頬が熱を帯びてくる。



「ばぁ~か。お前とは鍛え方が違うの。お前こそ、冷えて風邪でもひいてみろ。俺は看病しないからな?」
ぶつくさと文句を言いながら、せっかく巻き付けたストールをしゅるりと勢いよく引き抜いて。
そのままキュッキュと私の襟元に結びつけ。
「……ん。これ持っとけ」
と、ジャケットのポケットから取り出されたものを握らされた。
「……あったかい……」
手渡された缶コーヒーはリョウのポケットの中で熱を持ち、冷えた身体にはさらに心地よい熱さになっていた。
「……ありがと///」
「……おぅ。さて、とっとと行くぞ」
「うんっ」



ちらりと視線の端に捕らえた彼女たちからは、羨望と感嘆の眼差しが見てとれて。
らしくもなく、思わずくすりと勝利の笑みをもらす。
「……んぁ?どうかしたか?」
「ううん、なんでもない。さ、早く行こう?」
訳がわからずと肩をすくめ、駐車してあるミニへと向かうその背を追って。
太く逞しい腕に自分のそれを絡めた。




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