●星降る夜に。●



12月。
冬の一大天体ショーと言われる双子座の流星群が見てみたいなと何の気なしに言ってみたら、
リョウが教授の山合いの別荘へと誘ってくれた。
どうせなら美樹さんやかずえさんもと思ったケド、あいにく都合がつかなくて。
リョウと二人、空が茜色に染まり始めた頃、小さな赤い車をスタートさせた。



高速道路を進む程に空は暮れゆき、日もとっぷりと暮れた頃、別荘に到着。
下ごしらえをした持ち込みの材料で簡単な具だくさんシチューを作り、暖を取ったあとは軽く仮眠。
日付が変わった頃、熱いコーヒーを準備して外に出れば、空は宝石箱をひっくり返したようなきらめきに満ちていた。
折しも月は新月に向かい。
月齢7日ちょっとの半月が、峰の向こうからその顔を半分だけ覗かせている。
山々の峰が深く入り組んでるせいか、街中の明かりはまるで届かず。
まるで今にも空からこぼれんばかりの星々がきらめいて、思わずあんぐりと口を開けてしまった。



「……なんだ。デカイのは目ン玉だけじゃなかったんだな」
リョウがいつもの軽口を叩くケド、それを迎え撃つのもバカバカしい程の星空で。
引き込まれるように星空に魅入る無言の私に、リョウがくすりと笑い。
肩をすくめながら、私の隣にそっと並んで空を仰いだ。
そうこうする内にも、星々の間に広がる暗闇の中、スッと一瞬、細い光りの線が流れ落ち。
「あ………っ」と言う間もなく、それらの暗闇に目をこらして見れば。
まさに降り注ぐという言葉がぴったりのように、光りの線があとからあとへと続いていった。
あちこちから次々と降るばかりに続く流星群に、うっとりと目を細めるケド。
しだいに山特有の、しんしんとした冷えが足の底から押し寄せて。
くしゅんと大きなくしゃみをしたあとに、思わずぶるりと身体が震えた。



「風邪ひくなよ。看病なんかしてやんねーからな」
後ろからの悪態に振り返れば、毛布を肩からぐるりとまとわせてリョウが寝転んでた。
「わかってるわよ。そういえばまだ、カイロがあったハズ…」
と、部屋に入ろうとするその背中に、リョウの小さな声が降り掛かった。
「…………香」
振り向けば、リョウがやおら半身を起こし、その大きなガタイを包んでた毛布をゆっくりと寛げた。
「…………?」
「…………んっ!!」
しばらくして、それが私を迎える仕草だと気付いて、思わず赤面。
「……ほら、早くしろよ。こっちまで風邪ひいちまうだろ?」
そう言うリョウの耳もとまでが、寒さのせいか、ほんのりと赤くって。
他に誰が見てるワケでもないのに、私までドギマギして、思わず辺りをキョロキョロと。
それでもこちらへとひらかれた大きな腕の中に、吸い込まれるようにその身を滑らせた。



体育座りのリョウに包み込まれるように座り込めば、私の肩先に、リョウの形のいい顎がこつんと乗る。
凍てつくばかりの夜気なのに、毛布だけじゃない、リョウ自身の体温がじんわりとしみてきて、思わず胸がトクリと鳴った。
その温みが心地よくて、もっとと身を預ければ、太く逞しい腕に、ギュッと力強く抱きすくめられ。
身体に染み付いたタバコと硝煙と、さっき飲んだ眠気覚ましの濃いめのコーヒーのにおいの中に、リョウ自身のにおいがふわりと香る。
「……ほら、また落ちたぞ」
互いにドギマギする胸の内を悟られまいと、リョウの声に空を振り仰げば、また一際長く尾を引いた星が流れていった。



「……すごいね……」
「………あぁ」
そのあとも、次から次へと。
星々は矢継ぎ早に降り注ぐ。
流れ星が消え落ちる前に願いごとをすると叶う……なんて言うけれど、
そんなのおっつかないくらいに降り注ぐ星々に、我を忘れて魅入ってしまった。
たくさんの流れ星、そのすべてに願うワケじゃぁないけれど……。
リョウと二人、ずっとずっと、こうしていられたらいいな……。
そんなコトを頭の片隅に思いながら、もう寒さなんか微塵も感じない程、身を寄せ合って。
二人、真っ白い吐息を重ねながら、空がほの白むまで星を眺めた。





END    2010.12.13