●In the pocket●



偽札工場を破壊しろとの、冴子からの依頼。

人の都合も何も聞かず、ポンと書類を投げつけるあたり、
アイツはいつまでたっても成長しねぇ……ったく、ヤな女だ。
しかし、年の瀬も押し詰まってとあれば、いやがおうにも断れなくて。
情け無い話だが、香と二人、渋々という体で請けた仕事だった。



敵のアジトは突き止めた。
あとは原版もろとも、この工場を爆破しちまえばそれで終了。
最初はどうなるかと危ぶんだが、思いのほかラクに突き止められたのでホッとする。
メイン以外、スペアの原版を造ってなかったバカどもには呆れるが……
まぁ、仕事が一度きに片付くコトを考えれば、それはそれでありがたいコトだった。



「さて……と。風邪ひいちまう前に、とっととカタぁつけるかな」
新年まで、もうあと少し。
都心からちょいと離れただけだというのに、一段と冷たさを増した風が身にしみる。



そんな中、コートに仕込んでいたプラスチック爆弾の部品を
慣れた手つきで取り出そうとした指先が、ふと止まる。
銃のパーツにスペアの弾丸、火薬にワイヤーに痺れ薬にと、
ありとあらゆる最低限の必需品を仕込んでいる、俺仕様のコート。
その愛用のコートの裾近くに、何やら身に覚えのない縫い目があった。
「……………?」



不審に思ってバックルに仕込んだ小型ナイフで切り裂けば、
中から転がり出てきたのは、一枚の使い捨てカイロ。
“寒くて手が悴んでない?CHがヘマしたなんて恥だから、ちゃんと指先をあっためてねv”
「………………」
封を切ってないそのパッケージに、太いマジックで、でかでかと。
今日は家で留守を守る相棒からの、実にありがたいメッセージが書かれていた。



「素直に手渡しゃいいモノを……ったく、かわいげねぇヤツ」
そのありがたくも口うるさいお節介娘の笑顔が目に浮かぶ。
口ではいつものようにけなしつつ、工場内の気配に気を配りながら、そっと口元をほころばせた。
カイロの袋をピリと切り、振ったり揉んだりを繰り返すうち、
その性格どおりのあたたかさがこもった温みが、掌の中、じんわりと広がった。



「さて……ちゃっちゃと済ませて、帰るとしましょーか」
今か今かと帰りを待ち侘びているであろうパートナー殿のやわらかな笑顔を胸に。
くすりと笑みをこぼしながら、取り出した無機質な部品を組み立てはじめた。 




END   2008.12.28