●除夜の鐘を聞きながら●




ゴーン………

冴羽家にしては珍しく、ちょっぴり豪華に海老の天ぷらを添えた年越しそばの夕食を終え、
やけどしそうに熱い食後のコーヒーをいれたカップを手に、今年一年のあれこれを思い返す。
近くのお寺から聞こえてきた除夜の鐘の余韻のやさしさに耳をかたむけながら、その内、
来年に向け、互いに相手に聞いて欲しい願いごとを言ってみようということになった。



「んー……そうだな。とりあえず、家ン中でのハンマー禁止、な」
「……?!なんで?」
今にも噛み付かんばかりの剣幕に、思わず肩をすくめる。
おいおい、あれだけのモノを振り回しておきながら、
こいつは自分がどれだけ怪力の持ち主かって、丸きり気付かないのかね。



「なんでって……お前、修繕費いくらかかってると思ってんだよ」
「あら、リョウが依頼人にもっこりしなきゃ、私だってハンマーなんか出さないわよ」
「そっ……それは考慮するとしてっ。やっぱ家計的にも厳しいだろ?」
「んー……それはそうだけど……」
それみろ。
これでハンマーを封じちまえば、俺は来年、明るい一年を過ごせるってぇモンだ。



「……だろ?じゃぁ来年から、ハンマーは禁……」
「でも、それじゃぁ、外ならいいわけ……よね?」
「……へっ?」
「だってあんた、街中で未だにナンパしまくってるじゃない。
それでなくても、CAT'Sで美樹さんたちにちょっかい出してるしっ」
「……は……はは。善処しマス☆」
ギロリとにらむ視線は、いつになく凄みを増して……
思わぬ伏線張られちまって、情けなくも意気消沈。
ちっ……なかなか思い通りにはいかないモンだ。



「んじゃぁ……他には?」
「……他?そうねぇ……もう少し、思ってるコトを言葉にしてくれるといいな」
「……?それなりに、身体で返してるつもりだが?」
上目づかいでこちらを見上げる視線が、愛おしい。
口には出さないながらも、少なからず不満に思っていたようで。
ぷぅと頬をふくらませた反動で、軽く突き出された唇の朱さに目を奪われた。



「……バカ。そんなんじゃなくてっ。
普段から、思ってるコト、あまり口に出さないでしょ?
パートナーとして、何だか信頼されてないみたいで……」
頬を赤く染め、意地になって言い訳する様が、またかわいらしい。
どうやら俺は、こいつのどんな表情(かお)にも反応しちまう、情けない男に成り下がっちまったようだ。



「ふっ……お前がそんなふうに思ってたとはな。わかった。気をつける」
「……ありがと。それで……リョウ、は?」
「ん~……そうだな。晴れて男と女の関係になったワケだし?
もちっとエッチにも積極的になってくれるといいな♪」
「……エッ……チ?///」
思いがけない返しに驚いたのか、大きな目ン玉を見開いて、
頭からしゅうしゅうと蒸気を噴き出す始末。
まったく……二人の関係が進んでもこの調子だから、参っちまう。
まぁ、イキナリこいつがイケイケモードってのも、さすがにそれは興ざめだがな。



「ん~……恥ずかしがるお前もいいんだが、やっぱいろいろ、対等でいたいじゃん?
俺ばっかお前を欲しがってる気がしないでもないかな、と」
「そっ……そんなことっ///」
「……あぁ、確かにお前が身体で欲しがってんのは丸わかりなんだけどさ。
さっきのお前のセリフじゃないが、もちっと言葉にして欲しいかな、と」
「う"~……。ぜっ…善処しマス///」
ぷしゅ~と頭から湯気を出してうつむく香が、これまた愛おしい。
やっぱこいつには、いつまでも"そっち方面"には疎いくらいがイイのかも、な。



「とりあえず……ほれ。何かねだってみ?」
「……えっ?いっ、いまぁ?」
「そ。いーからいーから……ほれ」
「う~……」
困ったように眉根をよせて、真っ赤な顔した上目使いでにらんできやがる。
その顔だけでどうしようもなく欲しくなるなんざ、こっ恥ずかしいったら、ありゃしねぇ。
ケツの青い中坊じゃねぇんだぞと、ひそかに自分を諌めた。



「……キス、して///」
「……そんだけ?」
挑発するように眉をあげれば、悔しそうにきゅっと唇を噛み締めて、
意を決したように、おずおずと唇を重ねてくる。
そして俺の首に両手を巻き付け、赤く熱をもった頬と頬が触れ合った。
「ぎゅーってして。リョウのベッドに、つれてって///」
「……直球だな」
「なっ……だってリョウが……っ」
「……いいよ。もっと欲しがれ。いくらでもくれてやるから」
香から欲しがるように仕掛けたつもりが、いつの間にかこちらの身体に火がついちまって。
重ねた唇の隙間から強引に舌を割り込ませ、奪うように口腔を犯す。



「リョ……」
「……ん?」
「ずっと……ずっと傍にいて……ね?」
キスの合間から名を呼ばれ、艶を帯び、潤んだ瞳を見つめれば、
腰にこもった鈍い熱が熱さを増して。
切なげに見つめてくる茶色の瞳に、俺の顔が小さく映る。
その潤んだ瞳がたまらなく愛おしくて、殊更深く抱き込んだ。



「……ったりめーだろ、バカ。誰がいまさらお前を手放すかって」
と、いつになく、らしくないセリフを吐きながら、
最後の鐘が鳴り響く中、年またぎのキスをした。
「今年も……ありがと。来年も……」
合わせた唇の隙間から、かろうじて新年の寿ぎを口にする香のそれを、飲み込んで。
逃げる舌先を追い掛けて、その小さな口腔に囁き返す。
「今年もまた……その先までよろしく、な」




END    2013.12.29