●救急箱はさんで。●




「あーあ。またケガしやがって」

二の腕に走る赤い筋に消毒液を吹きかけ、絆創膏を貼ってやる。
「しょうがないでしょ?あの下っ端が、むやみやたらにかかって来るから……」
「いーや。言い訳はナシ」
「……(´_`)ξそーゆーリョウだって、こんなにいっぱいキズつけてっ」
そうむくれながら、香は俺の頬目掛けて消毒スプレーをプシュッと押して。
その上から絆創膏をペタリと貼付けた。
「はん……っ。どれもこれも、かすり傷だろ?キズの内にも入りゃしねぇよ」
「な、何よ。それなら、私だって……っ!!」



グイグイと食ってかかる香からは、何の反省も見えやしない。
まったく……男のキズと女のそれとは違うんだってコトが、どうしてわからないんだか。
お前の身体にシミひとつ、キズひとつつけないように気を配ってる、俺の身にもなれってんだ。
いったいこのお転婆娘をどうしたらいいのやら、と、
わざとらしく、これみよがしに深いため息をこぼした。



「だーめ。お前は女だろ。もしキズが残ったら、どーすんだよ。槇ちゃんに言い訳出来ねぇだろ?」
最後の切り札とばかりに槇村の名前を出せば、やはりそれは効果てきめんだったようで。
はっと息をのんで、急に渋い顔をして。
先程までの勢いが、しゅるしゅると音をたててしぼんでいった。
「……ズルイ。アニキを出されたら、何も言えないじゃない……」
「ふふん……?」
しゅんとする香に目を細めて微笑みつつ、「あのな」と話しを続ける。



「誰もケガすんなって言ってんじゃねーよ。
こんな商売してるんだ。ケガひとつ、キズひとつなくするってぇ方が、無理ってモンだろ」
「じゃぁ……」
「だがな?それを甘くみて、キズつくコトに慣れちまったら、時にそれが命取りになりかねん。
だから普段から、キズつかないよう、ケガしないよう、気をつけてるんだ。わかったか?」
「……うん……」
イマイチ気乗りしないようだったが、それでも殊勝に頭を下げる。
うん、少しは反省してくれたか。
普段から、こうあって欲しいモンだぜ。



「しかし……俺もまぁ、甘んじてキズを受けるってぇ時も、あるからな」
「……へっ?」
「しかも、ほぼ毎日。それも、キズつけられて、よろこんでんだな、これが」
「……???」
頭ン中がクエスチョンマークでいっぱいの香に、くすりと笑って。
「ほれ……」
と、汗で肌に貼付いた赤いTシャツを脱ぎ捨てて、
ぐるりと香に背中を向け、むきだしになった肩先を指し示せば。
「……きゃっ///」
と、真っ赤になった香が両手で目をおおいつつ、顔をそむけた。



「ふふん……。キズつけた本人が、何、照れてんだか。
治るそばから、お前が毎晩毎晩キズつけるから、治るヒマがありゃしねぇ」
「……っ///」
それは夜ごと、香が俺の下で歓喜に震えながら絶頂を迎えた際の爪痕。
こ汚いヤローどもにつけられたキズなら小っ恥ずかしいし、CHとして名折れだが。
惚れた女につけられたキズなら……男なら、誰にだって自慢したいシロモノだろう。
いや、どーせなら、見せびらかしたいくらいだ、うん。



「まぁ、チンケなヤツらと遊んだのと違って、
こいつはお前を満足させたっつー、男の勲章だからな。
リョウちゃんいつでも、大歓迎♪何ならこのキズ、今から増やしてもいいぜ……?」
ぷいと背を向けたその肩を抱き込めば、真っ赤になった香が、わたわたと。
時折見せる、そんな幼さまでがかわいくて、抱き寄せた頬にそっと唇を押し当てた。



「……ずるい……」
小さく、悔しげな声。
けれどその声に反論の色もなく、その裏に、俺と同じくらいの熱を察して。
頬に唇を押し当てたそのままに、ふっと微笑む。
「ンなコト……とうの昔に知ってんだろ……?」
耳元で低く囁き、シミひとつ無い、傷ひとつ無いきれいな首筋にうっとりと唇を滑らせ、
鎖骨まで辿り着いてから、その先へと進む同意を求めるように茶色い瞳を見上げれば。
悔しそうに寄せた柳眉はそのままに、噛み締めていた下唇がふっと緩んだ。
こちらを待っているかのような、その受け口の唇に、
相変わらず素直じゃないねぇと苦笑しながら、そっと自分のそれを押し当てた。




END    2012.7.20