●ラブレターをあなたに●



「香さん……一生のお願いっっっ!!!」
「そ、そんなコト言われてもぉ~………」
「だってこんなコト頼めるの、香さんしかいないんだもの。ねっ?ねっ?ねっ?!このとーりっ!!」



そう言って、いきなりリビングに乗り込んできた唯香が土下座しやがった。

香はと言えば、その前でただただオロオロとするばかり。
「だって唯香ちゃん……だいたいあなた、今をときめく売れっ子作家でしょ?
手紙を書くだなんてコト、お茶の子さいさいじゃ……」

「ダメダメ。だから余計、ダメなんですよ。私が書いたりしたら、やたらめったらこねくり回して伏線張って。
結果的には……何が言いたいのか、まったくわからなくなっちゃうんだもの」
「伏線……ね。確かにンなモン、ラブレターには必要無いわよねぇ………」



コトの起こりは、あろうことか(「あろうことかって、どういう意味ですっ?!」と、唯香ににらまれた)
唯香が通学の車内で痴漢にあったのが始まりだった。

それを助けてくれたのが、他校の男子生徒で。
みなが見て見ぬふりをしている中でのその行為に、唯香は勢い、一目惚れしちまったらしい。
そいつが高3で、この春卒業だというコトを、友人との会話から盗み聞いて。
同じ通学路でなくなる前に……と、その思いを手紙に託し、相手に伝えようと心に決めたのだとか。
ようするに……ラブレター…って、やつだな。
しかし……だからって何で、香にその手助けを……とは、俺も全くの同意見だ。



「やめときな、唯香。香にラブレターの手助けを頼むなんざ、無理ってもんだ。
コイツは書く方でなく、貰う方専門だったらしいしぃ~?」

「……うるさいわよ、リョウ!!確かに当たってるけど……でも、ねぇ、唯香ちゃん?
そもそもあなたには、立派なお姉さんたちがいるわけじゃない?二人に相談してみたら?」
「ダメよ。ダメダメッ!!そんなコト、もぉ~っとダメ!!
冴子姉さんや麗香お姉ちゃんにこんなコト頼んだら……即、パパに密告されちゃうわっ!!」

「…………密、告…………」
あまりの言葉に、ソファでコーヒーを飲んでいた俺も、熱心に唯香の話を聞いていた香も、目が点になる。



「そういう姉妹なのよ、あの二人は。あの娘溺愛のパパから逃れようと、
自分の身代わりの犠牲者を着々と狙ってるんだから。

あの二人にこんなコト話したら……すぐに彼のこと、1から10…ううん、100も200も調べ上げて。
それを手土産にって、パパに告げ口して。

それでもってパパは、娘に近づくフトドキ者!!とかで、全国指名手配写真リストか何かに載せちゃうわっ!!」



「……………」

「……………」



確かにあの姉妹なら、オヤジさんなら、そうしかねない……な。
俺と香は言葉を無くし、目と目を合わせて、“………納得”と、頷いた。
「だから……ねぇ、香さん。お願いっっっ!!!」
裏に抱えてる理由が理由なだけに、香もしぶしぶという体でOKすることになった。



「まずは……そうねぇ。唯香ちゃんが、彼のドコに惹かれたかっていうのは、
重要なポイントよね。まず、出だしはそこからでしょ」

「それは……えっと、痴漢から助けてくれたから……」
「でも、それだけじゃないでしょ?助けてくれて、それから気になるようになって。
それで、いいな……って、思うようになったんでしょ?」

「…………はい/////」
「そこのところを、アピールするといいかもね。自分のこんなトコロに気がついてくれてたんだ…って、
きっと喜んでくれると思うわ?」

「………はいっ!!」



香のヒントが的確だと思ったのか、唯香のヤツ、目をキラキラとさせてやがる。

「それで?唯香ちゃんは、彼のドコに惹かれたの?」
「………顔、です!!」
「……………」
「……………」



ズバリ言い切ったところは、野上家の血筋だろう。
だが…だが、しかし!!それじゃぁあんまりにも……だろ?

「ほ……他には無いのか…な?」
唯香のセリフにコケた香が、それでもメゲずに、フォローの手を差し伸べる。
「ほ……他、に……?」
「そう。んー……たとえば、優しそうなところ、とか?」
「あぁ、それはそうですねv」
「そうやって、色々と彼のいいところを探してってみればイイのよ」
「そっかぁ……そうですね。ねぇねぇ、たとえば、他にはどんな?」
「そうねぇ、たとえば………」
ん~……と、唇に指先を当てて、視線を宙に泳がせる香。



「そうね………たとえば、穏やかな笑顔……とか」
「ふむふむ」
「ふいに見せた優しい瞳…とか、子供のような笑顔…とか」
「なるほど」
「意志の強そうな太い眉…とか、頼り甲斐のある大きな背中…とか」
「………?」


(……………お、い…?)




「無造作に足を組んだ姿とか、太いのにしなやかに動く整った指先とか」


(………それってもしかして………)



「美味しそうにご飯を食べてくれる顔とか、無防備な寝顔とか。そうね、それから………」


(もしかしなくっても……俺のコト、か……?)



「………か、香さん……?」
「……………?」
「今の……今のはみんな、冴羽さんのコト……です、か?」
「…………っっっ?!//////」
自分が今の今まで、何を口走っていたのかを思い出して。
大きく目を見開いた香が、ソファに座る俺と目が合うなり、その頬を真っ赤に染め上げて。
あうあうとワケのわからない言葉を発して…そのまま逃げるように、リビングを走り去って行きやがった。



「あ、あ~ん!!待ってよ、香さぁ~んっ?!」
唯香の言葉も無視するかのように、香の部屋の扉がものすごい勢いで閉まるのが聞こえた。
そして取り残された俺に、唯香がチラリ…と、意味深な視線をよこす。



「ふぅ~ん………?」
「…………なっ、何だよっ!!」
目元も口元も、あやしい笑みを浮かべてやがる。
野上家遺伝のこの表情(かお)は……何かよからぬコトを考えて……?
「んっふふふ………何だかんだ言って、愛されてますね、冴羽さん……?」
「………ばっっっ!!!何言ってやがっっっ/////」
「はいはい、わかってますって♪」



何がわかってるのか知らないが、ニヤニヤと笑って、先ほどの香のセリフを忘れるものかと必死にメモっている。
そして全てを書き終えた唯香が、メモを大事そうにバッグにしまって立ち上がった。
「ありがとうございました。香さんに手伝ってもらったおかげで、いいモノが書けそうです」
「………そ、そっか?」
「えぇ、とびっきりのが……ね♪香さんにも、ありがとうって言っておいて下さい。じゃぁっ!!」
そう言って、ぴょこんとお辞儀をしたかと思えば、飛び跳ねるようにしてアパートを後にした。
あの笑い方……何かイヤな予感がする………?



その一ヵ月後、俺の予感は見事に的中した。
唯香の連載している月刊誌の中で……
主人公・冴木リョウイチの恋人が、ヤツへの想いを告白する…という件で。

見事なまでに、あの香のセリフが使われていたのだ。



一般の読者にはわからないだろうが、この小説が俺たちをモデルにしているというコトを
知ってるヤツらが……この新宿には、少なくなくて。

モデルと言うからには当然、実話の部分も少なからず散りばめられているというコトも……
みなの周知の事実で。




「………やられた…………」
「…………っっっ/////」



その後、唯香のヤツが片思いの男にラブレターを渡しただの、
両想いになっただのという噂は……これっぽっちも聞きはしなかった。





END    2006.2.27