●もたつき台風と男のケジメ。●




カラララン……と、降り続く雨のせいか、カウベルがいつもより湿った音をたてたかと思えば。

「やっほー美樹ちゅわんっ♪」と、雨の影響など微塵も感じさせない、ニヤけ顔の男が現れた。
「あら冴羽さん、いらっしゃい」
「ハロー、リョウ。こんな天気なのに、相変わらずナンパなのかしら?」
カウンター越し、向き合うように話しをしていた冴子さんが
スツールから向き合うように振り返ったのを見留て、冴羽さんの口元が瞬時ひきつった。
どうやら彼女は、彼の数少ない天敵みたい。



「冴子……。お前こそ、昼間っからンなトコで何やってんだよ」
「あら、ずいぶんな言い草ね。どこかのバカな閣僚が失言したせいで、
ピリピリしてる右翼を押さえ込むのに大変だったんだからっ」
昨今の大人げない閣僚の発言には呆れ返るばかりだったケド、
その反動がこんなトコロまで影響してたとはね。
冴子さんのアンニュイなため息が、窓を打ち付ける雨音に静かに紛れていった。
「へーへー。どうもすんませんでした」
反省の気持ちなどカケラもないクセに、いつもの席に腰を下ろす冴羽さんに、二人で苦笑しながら肩をすくめた。



「それで……さっきの話しだケド。やっぱりどうしたって、まどろっこしいわよね」
「そうね。右に左にフラフラとしてるだけで、いらつくわよね」
彼の来店で瞬時途切れた会話を続ければ、冴羽さんが「おっ!」と食いついた。
「台風だろ?まったく、バカげた話しだよな。
グルグルと同じトコばっか回りやがって、ちっとも先に進まねぇでやんの。どうにかしろって感じだよな」
出されたコーヒーをぐびりと飲んで、スツールに踏ん反り返る冴羽さんに、冴子さんと二人、ジト目を向ければ。
「……何だよ」と、いぶかしげな視線を感じた冴羽さんが戸惑いの言葉を返した。
「あのね、冴羽さん。私たち、台風の話しをしてたんじゃないの」
「……へっ?」
「確かに台風の進路にもいらつくケドね?私たち、あなたと香さんのコトを話してたのよ」
「……はぁ?!」



カップを手にしたまま目が点の冴羽さんに、ここぞとばかりに二人で食らいつく。
「あのね、この際だからハッキリ言わせてもらうケド。あなたと香さん、ホントのトコロ、いったいどうなってるの?」
「そうよ。私たちの結婚式で、互いにその想いを伝えあったんでしょ?二人は両想いなんでしょ?!」
「だったら何をズルズルしてるのよ。相思相愛なら、それらしくしなさいよ。二人は恋人同士!それでいいじゃない。
そう宣言したも同然のクセに、なんでまだ香さんをほったらかしにしてるのよ」
「それでいて、自分は好き勝手ナンパしてるのよね。
香さんにちょっとでも他の男性が声を掛けようものなら、もンのすごい剣幕で怒るクセにねっ」
「………(汗)」



女二人の集中砲火に、さすがの冴羽さんも尻込みしてオドオドと。
スツールの背もたれから、じょじょに踏ん反り返るように身を反らしていく。
「天下無敵のスイーパーがこんな男だったなんて……まったく聞いて呆れるわ?」
「ホントね。周囲を巻き込んで、大騒ぎしておいて、このザマ。
いったい何様だと思ってるのかしら。今回の台風といい勝負よっ」
「あら、台風の方がまだかわいいわよ。
台風は確かに迷走したケド、そのあとグイグイと速度を増して、猛スピードで進んでるじゃない。
この意気地の無い男は、いつまでも迷走したまんまだもの」
「ホ~ント。少しは台風を見習って欲しいくらいだわ」
「まったくねっ!!」
「………(滝汗)」



隣から冴子さん、カウンター越しから私。
二人でズズイと詰め寄れば、だらだらと冷や汗を流す冴羽さん。
そして我慢の限界とばかりに、スツールから腰を浮かせたかと思えば、そのまま脱兎のごとく背を向けた。
「……さっ、さいなら~っ!!(逃っ)」
カウベルが壊れるかと思う程の勢いで飛び出してった彼の背中が、土砂降りの雨煙の中に消えていく。
カララン……と、カウベルの余韻が治まったのを機に、二人で目を合わせてくすりと笑った。
「少し……言い過ぎたかしら」
「いいんじゃない?これくらい言ってやらなきゃ、香さんがかわいそうよ」
「そうよね♪」



それからしばらく、女二人の集中砲火に恐れをなしたのか、なかなかお店に姿を見せなかった冴羽さんだったケド。

ある日の買い物帰り、香さんと二人、仲睦まじく歩く彼を見かけた。
いつものように他愛ない会話をしているようだったケド、珍しく腕組みなんかして、仲よさげ。
そして冴羽さんのジャケットに添えられた香さんの指に……細い光りを放つモノを見留て、思わず目を見張った。
「……あらあら♪」
どうやらお節介かと思った猛攻撃は、なかなかいい結果を生んだみたい。
二人の仲も、台風一過ってトコロなのかしら?
彼のコトだから、気恥ずかしくてお店に近寄れなかったのかしらね。



でも、新宿(まち)では何かと噂のこの二人。
いずれこの彼女の指先に目を留める人が出て、新宿では周知の事実となるでしょう。
何たってこの二人に関する情報は、テレビやニュースも真っ青なくらいの素早さで広まってしまうんだものね♪
「それまでしばらく、そっとしといてあげようかな」
そう思いつつ、まずは彼の悪友であり、愛弟子として彼女を愛してやまないファルコンに報告しなきゃ、と。
重たい買い物袋をよいしょと抱え直して、店への足をそっと速めた。




END    2011.9.21