●price less●



今まで付き合ってきた女たちを数人思い浮かべるだけでも、十分に納得がいく。

女ってのは、ひどく金の掛かる生き物だ。



デートするにしても、やれ今話題のオープンカフェだの、有名シェフのイタリアンだの。
味より先に、知名度がモノを言うらしい。
誕生日には、ブランド物のバッグ。
それも、去年のよりはワンランク上で無いと、ご機嫌ナナメ。
バレンタインは、たとえチョコレートに微々たるシロモノがくっついて来ただけだとしても。
一ヵ月後のホワイトでーには、その5倍返しは、覚悟しておかなきゃいけない。



クリスマスは特別だから、夜景の綺麗なラウンジの窓際の席は、一年も前からキープする。
コレ、常識。

おっと、ちょいとハデ目のジュエリーも忘れずにな。
そうそう、二人が出会った記念日……なんてのも、気が抜けないぜ。
深紅のバラと、甘いメッセージを込めた小さなカード。
これをさりげなく渡すのがポイントだ。あくまで、さりげなく……だぜ?



そして最低、一日5回のラブコール。
モーニングコールにランチの時間、アフター5に帰宅時間。
そして極めつけは寝る前に「君と夢でも会えたら幸せなのにな…」とささやく。
まぁ面倒は承知の上でココまで準備しておけば、どんな女でもイチコロだ。
この手を使って、この愛の貴公子、ミック・エンジェルさまの手に落ちなかった女は、一人としていやしない。
そう、全てはオレの全勝、パーフェクト…だったのだが……。



ただ一人、このオレのパーフェクトなテクニックに落ちなかった女がいた。
彼女の名は、マキムラカオリ。
スラリとしたボーイッシュな見掛けの中に、実に可愛らしい少女のような魅力を詰め込んでいる女性だった。
何に対しても真っ直ぐに向かっていく素直な心と、物怖じしない態度。
時に子供のように頬をふくらませたかと思えば、時にひどく艶な表情を見せる。
そしてひどく負けん気で、ヤキモチ焼きで……泣き虫だ。



そんな彼女を見るにつけ、恥ずかしいコトにどんどんと惹かれて行ったオレ。

今まで見たことの無い真っ直ぐな瞳と、花がほころぶようにふわりと笑うその笑顔に……
気がつけば、完全にイカレちまってた。

彼女が欲しい……その笑顔の先にいるのは、常にオレでありたい……。
このまま彼女をさらって、いつもオレだけを見ていて欲しい……。



そう思ったのも束の間。
あろうことか、彼女はオレの悪友に惚れていた。
しかし、こんなコトで諦めちまうのは、オレの性分じゃなくて。
まだひとつになっていない二人の間に割り込み、彼女の心をオレに向けさせてやる……そう、思ったのだが。
いとも簡単に……呆気無いほどに、敗北宣言をすることになっちまった。
何のコトは無い……ヤツと彼女は、すでに心をひとつにしていたんだ。
後はただ、ずべてをひとつにするのに必要な機を待っている……そんなトコロだった。



「ん~~~っっっ!!!ミック、このケーキ、すんごく美味しいっっっvvv」
「そうかい?そりゃぁよかった♪」
彼女の心はヤツのもの……そう知っていてもなお、
こうして彼女の掛け値なしの笑顔見たさに、せっせと貢物をして通うオレ。

こんな姿を、昔のオレを知っているやつが見たら……さぞかし、呆れることだろう。
だが、そんな見下した視線も何のその。
それらを全て振り切ってしまえるほどの価値を、カオリの笑顔は持っているんだからな。



……と、幸せそうにケーキを口にするカオリが、隣りに座る男にフォークを向けた。
「ねぇ、リョウ。甘くないから、食べてみない?」
「いや、俺はいらねー」
「まぁ、いいからいいから。騙されたと思って……ほらっvvv」
「何す……っんぐっ……」
「……どう?……」
「んー……甘いけど、旨い……かな」
「でっしょぉぉぉ~?!」



とたん、これ以上は無いと言うほどの、幸せそうな笑顔。
オレに見せたそれよりも、何十倍も何万倍もの輝きを放った笑み。
女を喜ばす、その全てを無くしても。
彼女は輝くばかりの満面の笑みを、惜し気も無く与えてくれる。



その極上の笑みを引き出せるのが……オレじゃぁ無かったのが、どうにも悔しいけれど。
それが出来るのが、ヤツだけなのだとしたら。
あの時……彼女を連れ去って、この笑顔をもう二度と見られなくしていたかもしれないのだとしたら。
それならたとえ、彼女がヤツに向かって微笑もうとも。
それでも彼女が幸せならば、それでいいと。
「邪魔なんだよ、お前……」という悪友の視線を振り切って、その笑顔のご相伴に預かろう。



行列の出来る、予約しなきゃ入れない評判のバーやレストランも。
ドレスもジュエリーも、ブランド物のバッグも。
何十回、何百回とささやく、とろけるような甘い言葉も。
そして深紅の花束も。
それら全てを無くしても、彼女は輝くような笑みを与えてくれる。
そんな彼女の笑顔は……price less。



END   2006.1.16