●素直●



窓の外、大粒の雨が振りしきる様を。

香はまるで親の仇をにらむかのように、じっと見据えていた。



「いつまで拗ねてんだよ。今晩の雨の確率は100%だって言ってただろ?
どうしたって、雨は止まねーの」
「だって……せっかくの七夕なのに……」



七夕だというのに、今日は朝から雨模様。
先日、くるみハウスの一足早い七夕祭りに招待された香は、家用にと小さな笹竹を貰い受けて。
そのお祭り好きの性格から、細かく丁寧に飾り付けて。
そしてさらには、浴衣まで着込んだというのに……天気は生憎の雨だった。



「ンなコト言ったって、しょーがねーだろ?」
「だって……雨が降ったら、織姫と彦星が会えないじゃない……」
「へぇ~……おまぁ、そーゆーの、信じてたんだ」
子供らしい発想にくすりと笑えば、ぷぅとふくれて、アカンべーを返してよこした。



「どうせ私はお子さまですよ、乙女チックってガラじゃ無いですよーだっ!!」
そのふくれ面が、ますます幼く見えて……可愛らしくて。
これ以上怒らせないようにと、そっと微笑んだ。



「だいたいさぁ……何なんだよ、この短冊は」
「何って……願いごと、でしょ?」
小さな笹に見合うようにと、小さく細長く切った色とりどりの短冊が風に踊る。
その一枚一枚に、短冊に見合った、これまた小さな文字がきれいに並んでいた。



「俺のもっこり癖が治るように……ってのは、まぁ、わからんでもないが。
この、素直になりますようにってのは何なんだよ」
「えぇ~?だってアンタ、いっつも思ってること、素直に口にしないじゃない。
ひねくれた性格で、何でもかんでも秘密主義でさ」
……いや、それはお前に秘密の、裏の仕事のこともあるわけで……だ、な。



「それでもね?それも個性かな……って、慣れようとはしたのよ?
でもいいかげん、秘密が多すぎるのよ、アンタは。
こっちとしては、何考えてんだかサッパリわかんないのよね」
「…………」



……まぁ、否定はしないが。
だからって何も、こんなコト、わざわざ書かなくたっていいだろう。
それに……俺に負けず劣らず素直で無いのは、お前だろーがっ!!



「だいたいさぁ……ンなコト書くより、お前にはもっと切実な願いごとがあるんじゃねーの?」
「……………?」
もっと女らしくなりたいとか、もっと凹凸のある、ナイスバデーになりたい……とかさっ♪」
「ば……っ!!何言って……っっっ!!!」



とたん、その頬を怒りで真っ赤に染め上げて。
「デリカシーの無いアンタなんか、大っっ嫌いっっっ!!!」
と、器用にも浴衣姿のまま、怒りの100tハンマーを振り落として。
そのままものすごい勢いで、リビングを後にした。



「……っててぇ~………」
見慣れない浴衣姿に、女らしい、すんなりとした首筋に。
思わずクラリと来たくせに……口をつくのは、意地悪ばかり。
「やっぱ、素直になりますように……かな?」



どうしようもない天邪鬼な己に、また苦笑。
とはいえ、年に一度しか会えない星々の恋人たちとは違い。
常に傍に……絶えず隣りにいる彼女。
何より大切で……何より失いたくない存在。



その彼女に、何考えてんだかサッパリわかんない、とまで言われては……。
いつ、愛想を尽かされちまうかと、冷や汗もんだ。
「しょーがねーから、少しは素直になってみるか……?」



土砂降りとも言える、激しい雨。
その雲の上……はるか彼方の宇宙(そら)の上で。
年に一度の逢瀬を楽しんでいるであろう星々にむかって、こっそりと苦笑した。




END    2006.7.6